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いやしの姫 その21

 ある日の土曜日の午後。
 百合子は、校門の外にいた。
 陽一の想いを、悠子に伝えるためだった。
 女は女同士だ。
 女の気持ちは、女でなくてはわからないところがある。
 悠子が、校門を通り過ぎるのを、待った。
 私服姿である。
 三年生は、部活動が、夏休みをさかいにして終わっていた。
 校門の道の向こうに、川が流れている。
 川岸にたたずんで、百合子は、色づきはじめた山を眺めていた。
 お山はこんなにきれいなのに。どうして人は、人をいじめるのかしら。
 人の心って、一体どうなってるのだろう。
 百合子の脳裏に、ものがなしい旋律が浮かんできた。
 悠子が、自転車に乗ってやってきた。
 校門を通りすぎたところで、右に曲がった。
 百合子が、大きな声をかけた。
 「なかつさあん。ゆうこさあん」
 悠子は、自転車をとめた。
 あたりを見まわしている。
 百合子をみとめたが、今までに話したことがない。
 先輩でもあった。
 返事をするのを、ためらった。
 「ゆうこさんでしょ」
 近づいて来た百合子に、思わずうなずいた。
 「そうですが、先輩、私に何かご用でしょうか」
 「話があるのよ。ちょっとこっちへ来てちょうだい」
 ピアノのじょうずな人だとは、知っている。
 ほかのことは何も知らないが、優しそうに感じた。
 悠子は、美知たちにつけまわされて、うんざりする毎日を過ごしてきた。
 とても不愉快な気持ちでいた。
 そのせいで、人を見る目が養われてきた。
 土手の草の上に、ならんですわった。
 「呼びとめて、ごめんね。ちょっとお話したいことがあって」
 「何でしょう」
 悠子は、不安な表情になった。
 長い髪を、手でいじっている。
 「すてきなことだから、心配しないで。ほら、見て。紅葉が始まったわ」
 「ほんとですね。ちっとも気づきませんでした」
 「ねえ、あたし、いじめられて、すごく落ち込んだことがあるの」
 「先輩が、ですか」
 「ええ。ほら、ピアノをみんなの前で弾いたりするでしょ。それが気にいらない人がいるってわけ」
 「なるほど。わかります」
 「私もです。最近、廊下を歩いていると、邪魔をされたりするんですよ。理由はよくわからない
んですが」
 「知ってるのよ、その訳を。私、ある人から聞いたの」
 「ええっ。そうなんですか」
 「その訳を知りたいと思わないこと」
 「はい。知りたいです。とっても」
 女生徒の一団が、校門からでてきた。
 何かの話をしては、きゃあきゃあ叫んでいる。
 美知が先頭だった。
 「あっ、悠子ちゃん。ちょっとこっちへ来て」
 木陰に場所を移した。
 悠子も美知がどんな先輩かを、知っているようだった。
 彼女たちが通りすぎるのを待った。
 「なんだか面白いわね。わたしたち」
 「ええ。仲間みたいですね」
 ふたりで顔を見合わせて、微笑んだ。
 
 
 
 
 
  
 
 
 目が覚めると、明るくなっていた。
 疲れて、寝すぎた。
 困ったわ。ママになんて言おうかしら。初
めてなのに、あたしったら、ずうずうしい。
 枕元に、袋がある。
 なかをあらためると、肌着や洋服が入って
いた。
 綾の心遣いに涙がこぼれた。
 布団をきちんとたたみ、部屋の隅にかさねた。
 袋を折りたたんでいると、底に茶封筒があ
るのに気付いた。
 一万円札が十枚、同封してある。
 よく眠っているので、このまま帰ります。起
きたら、ママに声をかけてください。
 ご飯をいただいてください。代金は心配なく。
出世払いです。
 達筆で、そう書いてあった。
 恵子は大急ぎで、仕度をはじめた。
 隣の部屋で、声がした。
 「ねえ、もっと」
 若い女の声だ。
 「うるせえな、となりに聞こえるだろ」
 「いいじゃないの。聞こえたって。聞かせてや
ればいいじゃないか」
 「きょうは、仕事だ」
 物音がして、女が「痛い」と言った。
 戸が開いて、男が廊下にでた。
 恵子は、身がちじむ想いでいる。
 足音を立てて、階段をおりていった。
 静かになった。
 かすかに猫の鳴き声が聞こえた。
 「おお、よしよし」
 女が言った。
 猫が鳴きやめた。
 時折、せき払いが聞こえる。
 恵子は、バッグをもつと、そっと戸をあけた。
 情事のあとの女の顔など、見たくなかった。
 亮に抱かれたことを思いだしていた。
 足音をしのばせて、階段をおりる。
 カウンターには誰もいない。
 厨房から、足音が聞こえてきた。
 恵子が声をかけた。
 「すみません、すみません」
 暖簾をあげて、ママの顔がのぞいた。
 「どう。気分は」
 「ほんとうにありがとうございました。助か
りました」
 恵子は、頭をふかく垂れた。
 「ご飯出来てるからね。そこにすわって」
 「はい」
 階段を降りて来る音がした。
 女が、子供を抱いていた。
 恵子の顔をちらっと見て、少し離れた椅
子にすわった。
 ママが現われた。
 朝食ののったお盆を、恵子の前においた。
 「さあ、召し上がれ」
 恵子は、だまって、お辞儀をした。
 「まあ、よく眠っているのね」
 「おっぱいをたくさん飲んだら、このとおりよ」
 頭をなでながら、
 「かわいいわね。あなたに似てるわ」
 と、言った。
 恵子は、赤ん坊の顔を見つめた。
 「ああ、そうだ。だまっているのもなんだわ。
この人、綾ちゃんの友達」
 女は、口元に薄笑いをうかべ、軽く会釈をした。
  

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