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いやしの姫 その22

 「土手にもどりましょ」
 百合子が、さそった。
 着ものを身に付けた人形が、百合子がすわっていたところに、横たわっていた。
 「あら、このお人形」
 悠子が抱きあげた。
 頭の先から、足の先までみつめた。
 「ひょっとしたら、放送室に置いてあるものじゃないかしら」
 百合子は、だまったままでいる。
 これから何がはじまるのだろう、と胸がどきどきしていた。
 「ゆうこちゃん、その人形、私にかして。とにかくすわりましょう」
 「はい、先輩」
 悠子は、百合子の左側にすわった。
 人形が気になって、しかたがない。
 百合子は、人形を自分の右側においた。
 人形はあたたかかった。まるで血が通っているようだ。
 何かが起きる前触れにちがいない、と思った。
 知らない顔をしている方がいいと考えた。
 「悠子ちゃん、同じクラスに陽一くんって、男の子がいるでしょ」
 百合子は、本論にはいった。
 「ええ。とってもおとなしい子ですよ」
 「今度のことは、陽一くんとあなたのことが原因なのよ」
 「何でしょうね、一体」
 「私と陽一君は、今まで話をしたこともありませんのに」
 「あなたは、特別、彼に興味はないの」
 「ええ。彼が、私を見る目が気になりはしますが」
 「そうよね。それは、感じるでしょ」
 「はい。女ですから」
 「好意をもってくれているのが、わかるでしょ」
 「ええ、うれしいです」
 「それでいいのよ」
 百合子は、誰かが右側にすわっている気がした。
 もぞもぞ、何かが動いていたのだ。
 ちらっと見た。
 青いジャージを着た人形姫が、ほほえみながらすわっていた。
 こくりと、頭をさげた。
 百合子は、力づよい応援を得た気がして、言葉をつづけた。
 「美知の手下が、あなたのクラスにいるの」
 「ええ、だいたい見当がつきます」
 「その子が、あなたにやきもちをやいているの」
 「そんなことって」
 「あるのよ。わかるでしょ」
 「女ですから、なんとなく。あの子、いいな、くらいは思います。でも、邪魔立てするなんて、
とても許せないわ」
 と、百合子の顔を見て、言った。
 悠子の色白の肌が紅くそまった。
 青いジャージの子が、百合子のわきにいるのに気づいた。
 
 

新生 その11

 茅葺の家だった。
 一美は、恋人の鈴木といっしょに土間にいる。
 向こう側に、父がいた。
 眼鏡をかけて、新聞を読むマネをしていた。
 「飛行機に乗ってなさるんだ」
 「はい」 
 「人の命をあずかる仕事だね」
 「そうなんです」
 「事故があれば、どうにもならんな」
 父は、口をへの字に曲げた。
 「お父さん。そんな言い方ってないでしょ」
 「お前は、だまっておれ」
 母が、お茶をいれて来た。
 雰囲気を察して、父を呼んだ。
 「お父さん、電話ですよ。川上さんからです」
 「おお、そうか。ちょうど話がしたかったんだ」
 よっこらしょっと、立ち上がると、妹の奈津美に
連れられて、行ってしまった。
 「ごめんなさいね。頑固者で」
 「いいえ。とんでもありません。ご心配はもっ
ともなことです」 
 母が、父の席にすわった。
 「一美、よかったね。こんな素敵な人とめぐり
あえて」
 一美は、頬が紅くなった。
 「幸せにいたします」
 「ありがとう。その言葉さえいただけたら、私
は充分です。夫はなんとか説得しますわ」
 「ありがとうございます」
 納屋で米を乾燥していた。
 機械の音が響いている。
 「あれは何の音ですか」
 「米を乾かしているんです」
 「都会育ちの私には、何だってめづらしく感じ
ます」
 「田舎ですからね。何もないでしょう」
 「ぼく、大好きなんです、山や川が。世界中を
旅していますが、日本ほど季節のはっきりした
景色の良い国はありません」 
 その時の夫のハツラツとした物言いを、一美は
二十年たった今も忘れられないでいた。 
 
 「おばさん、ごちそうさま」
 恵子は、一粒も残さずに、ご飯を食べた。
 「ねえ、あんた、綾から聞いてる」
 「何がですか」
 「住むところが、ないんでしょ」
 「ええ」
 「綾のアパートは、旦那がいるから、具合が
わるいらしいんだ。もしよかったら、アパートが
決まるまで、ここにいてもいいよ」
 「夜露がしのげれば、私は充分なんですけど。
ご迷惑じゃありませんか」
 「大丈夫さ。毎月二万円でどうだろ。ほんとに
泊まるだけだけど」
 「お願いします」
 女は、眠っている赤子を抱いたままでいる。
 恵子と同じ歳くらいだ。
 この子を猫と間違えるなんて、あたし、どう
かしてるわ。
 恵子は思い出して、微笑んだ。
 「あなた、赤ちゃん好き。女の子よ。ちょっと
うるさい時も、あるかもしれないけど。ごめんね」
 と、ぼそりと言った。
 「いえ、だいじょうぶです。こちらこそよろしく
お願いします」
 ママの俊子が、柱時計を見た。
 「ひろちゃん、時間だいじょうぶかい」
 「あれっ、こんな時間なんだ。お店に行かなくっ
ちゃ」
 「赤ん坊見ていてやるから、行っといで」
 俊子は赤子を受け取ると、奥に連れて行った。
 玄関の戸が、突然、がらりと開いた。
 男の顔を見たとたんに、弘子が泣き出しそうに
なった。
 立ち上がって、男を外に連れ出した。
 言い争う声が、しばらく聞こえた。
 弘子が財布をもったまま、戻ってきた。
 恵子を見て、苦笑いを浮かべた。
 「いろいろあるのよ」
 と言って、階段をあがって行った。
 ひとしきり、赤子の泣き声がしていたが、
すぐにやんだ。
 俊子がもどってきた。
 左手で、肩をもむ仕草をしている。
 「ああ、やれやれだ。子守唄をうたってやっ
たよ。口をもぐもぐさせてたけど、しばらくした
ら寝てくれた」
 恵子が、微笑んで、
 「ご苦労様でした」
 と、ねぎらった。
 「弘子さんの仕事って、何なんですか」
 「踊り子さ。ダンサー、っていうのかい。実入
りは、けっこういいらしいよ」
 「そうなんですか」
 恵子の目が輝いた。
 「夕べ、部屋に、これがいたろ」
 俊子が親指を立てた。
 恵子は、おおげさにうなずいた。
 「賭けごとが好きで、弘子の悩みの種だよ」
 「仕事があるんじゃないですか」
 「どんな仕事か、わかったもんじゃない。街を
ぶらぶらしてるんだよ」
 とんとんと足音がして、弘子が着飾って降りて
きた。
 「まだお昼過ぎたばかりなのに。早いご出勤だね」
 「今日は、店の常連さんと、横浜までデートなの。
マスターの大事なお客さんらしいわ。夜の仕事の
前に、一度もどって来るつもりよ。おばさん、それ
まで子供を頼みます」
 「はいよ、よく見ていてやるから、心配しないで
行っといで」
 「それじゃ、また」
 と、恵子にウインクしてみせた。
 
 

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