過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

いやしの姫 その24

 悠子は、次の日朝早く起き、ひとりで朝食を
すました。
 台所にパンの焦げたにおいが、漂っている。
 「どうしたの、ゆうこ。早すぎるんじゃない」
 起きたばかりの母が言った。
 悠子は、どきりとしたが、
 「ちょっと用があるのよ、学校で」
 と、言いつくろった。
 「ふううん。めづらしいわね」
 悠子の顔を、じろじろ見た。
 「何よ、母さん。あたしだって、もう大人よ」
 「あら、そうだったわね、ごめんなさい」
 母は、歯ブラシを口にくわえて話していた。
 声が聞き取りにくかった。
 口をゆすごうと、洗面所に戻っていった。
 悠子は、腕時計を見た。
 早く家をでなくては、陽一に逢えなくなる。
 夕べは、陽一のことを考えて、よく眠れな
かった。彼の気持ちがわかったからには、
なんとしても、自分の気持ちを早く伝えたい
と思った。
 陽一は、最近休みが多い。
 無理もない。
 いじめられてばかりだからだ。
 学校に来るかどうかわからないが、家の近
くまで、出かけることにした。
 自転車をとばした。
 五分後。
 家のまわりに、人影はない。
 物陰にかくれて、家の二階を見あげた。
 二階が子供部屋だ、と思った。
 窓のカーテンは、閉まっている。
 十分だけ、待ってみることにした。
 三毛猫が寄ってきて、足元にからみついた。
 しゃがんで、猫を抱きあげようとすると、玄関で、
ガラガラと音がした。
 買い物かごをさげた女の人が出てきた。
 みゃあと鳴きながら、猫は走って行った。
 彼女は、猫を抱きあげると、ほほずりした。
 陽一のお母さんに、ちがいなかった。
 自転車を乗りだして行く。
 門をでて、路地を左にまがった。
 ふいに、二階のカーテンが開いた。
 よういちくん。ようちゃん。
 心の中で、さけんでみた。
 目が覚めたばかりのような陽一の顔が、
のぞいた。
 悠子は、両手をふった。 
 陽一は、急に窓をしめた。
 姿が、見えたはずだわ。
 悠子は、心の中で言った。
 何らかの意思表示をしてくれると思った。
 十分が、とっくに過ぎていた。
 急がないと、学校に遅れてしまう。
 悠子は、がっかりした表情で自転車を押し
はじめた。
 角をまがると、陽一が、パジャマ姿で、立っ
ていた。
 
 
 
 
 
 K街までは、もう少し歩かなくてはならない。
 何かとても恐ろしい物が恵子を待ちうけて
いるように思えた。
 あの自転車に乗っていた男みたいに、無
表情で何を考えているのかわからない。そ
んな人たちが、ここには、いっぱいいる。
 寒風のなかで、ひとりで立っている。
 そんな気持ちだった。
 午後七時をまわっていた。
 色とりどりのネオンが、またたきはじめた。
 点滅するネオンや人のにぎわいに、恵子は
 目がくらんだ。
 道を歩いているというより、光りの洪水の中を
流されていくように思った。
 風俗店の前では、客引きが立っている。
 短い会話を終えると、ひとり、ふたりと暗い
階段をくだっていった。
 男だけではない。女もだ。それぞれに何か
を求めていた。
 「びっくりしたでしょ」
 Nさんが、恵子のわきに来て、言った。
 「はい。何もかもが」
 「心配しないで。じきに慣れるから。あやちゃ
んの友達なんだし、ちゃんとした店を紹介して
あげる」
 Nは、恵子の肩を抱いた。
 この時刻、地方の温泉街は人通りが少ない。
 旅館の丹前を着た男の人たちが、酒に酔って
 大通りにでる。
 なんのかんのと卑猥な話をしながら、路地裏に
下駄の音を響かせる。
 屋台で酒をのんだり、ラーメンをすすったりする。
 日頃のうさを晴らそうと、ストリップ小屋をのぞく
のは、そんな時だ。
 芸を堪能するのではない。はだかを見たいだけ
の人が多かった。
 口にするのも恥ずかしい言葉がとびかった。
 Nが、ふいに声をかけた。
 「ここに入ってみようか。ちょっと待ってて」
 恵子のわきを男のふたり連れが、通り過ぎ
て行く。
 恵子の顔をなめわすように見つめた。
 思わず、下を向いた。
 こんなに踊らないのは、はじめてだ。身体
から、積み重なった疲れがとれていた。
 「けいこちゃん」
 Nが手をあげて、呼んだ。
 
 
 
 

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事