過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

いやしの姫 その25

 「何か用なの、こんなに朝早く。あわてて
おりて来ちゃったよ。こんな格好でごめん」
 陽一は、スリッパをはいている。
 パジャマのズボンの片方が、膝までめくれ
あがっていた。
 「わたしこそ、急に来ちゃってごめんね」
 それだけ言うと、ふたりはだまった。
 悠子は、陽一の瞳をじっと見つめた。
 何か言わなくてはと、陽一は必死に言葉を
さがした。
 「あっあのさあ」
 「思っていてくれたんだ、私のことを」
 悠子の目に、涙がにじんだ。
 陽一は、恥ずかしそうにうつむいた。
 「ようちゃん、顔をあげて」
 涙が、頬を伝って流れている。
 陽一は、
 「そうだよ。ゆうちゃんが好きなんだ」
 と、男らしく答えた。
 「邪魔されてたらしいわね」
 「悠子に近づくなって、言われたこともある」
 「まあ、ひどい。だれが言ったの」
 「サチさ」
 「なるほどね。これでわかったわ」
 「ずいぶん色んなこと知ってるね。誰から
聞いたの」
 「今は。言えないけど。そのうち教えるわ」
 「誰だっていいけど、その人、キューピットだ」
 悠子は微笑んで、
 「ほんと、そうね」
 と言った。
 「とてもうれしいよ。まさか来てくれるなんて
夢にも思わなかったもの」
 角を曲がって、陽一の母が自転車に乗って
現われた。
 「あら、よういち。そこで何してるの」
 と、声をかけた。
 十メートルくらい離れている。
 「じゃあ、あたし行くわね」
 「うん、学校でね」
 母が陽一のそばに来た。
 「そんな恰好で。女の子としゃべってたんだ。
あの子、誰なの」
 「クラスの友達」
 「まあ、あんたもすみにおけないわね」
 と、陽一の肩をぽんとたたいた。 
 了 
 
 
 
 
 
 「どうした。どこかで一杯飲んで行くかい」
 前祝いだと言って、Nがさそってくれたが、
恵子は、とても疲れていた。
 「ありがたいですが、今日のところは勘弁
して下さい」
 明日からは、練習があるのだ。振付師に
ついて、踊りを教わらなくてはならない。
 早く帰って、眠りたかった。
 Nの事務所をでたのは、午後十一時を過
ぎていた。
 恵子は、足早に歩いた。
 ネオンの明るさが、不安を和らげてくれた。
 自転車が多い。
 行きあうたびに、怖い想いがよみがえった。
 店の暖簾が、かかっていた。
 玄関をそっと開けると、酒やたばこの匂いが
鼻についた。
 男たちが、恵子をじっと見つめた。
 「けいこちゃん、ちょっと待ってな」
 おばさんの声がした。
 玄関から出てきた。
 「勝手口から入るんだよ。そこの露地には
いってすぐさ。階段は知ってるだろ。お客さ
んと顔を合わせることがないから、気楽だろ。
夜遅くなっても、大丈夫だ。いつも開けておく
からね」
 「すみません」
 「教えなかったのが、悪いんだ。あやまるこ
とはない」
 階段をしずかにのぼっていった。
 障子を開けて、部屋に入った。
 ひもを引っ張ると、天井からつるされた電灯
の明かりがついた。小玉の明るさにして、畳
の上に横になった。
 隣の部屋は静かだった。
 恵子は、東京に着いた時から覚悟はしてい
たものの、ちゃきちゃきの江戸っ子とつき合っ
ていく難しさを感じていた。
 早く慣れなくっちゃ、と思った。
 いつの間にか、寝てしまった。
 夜中に目がさめた。
 寒かったのだ。
 掛け布団をかけていなかった。
 廊下側の襖が、ほんの少し開いている。
 誰かが、のぞいているように思った。
 

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事