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一般国道で、帰ることにした。
車は、交差点を右にまがり、国道18号線を
走りはじめた。旧中山道だ。
ここから軽井沢までは、まっすぐである。
長い坂道がつづく。
「ここまで来れば、あと少しだ。一時間く
らいで着く」
「お店が心配だけど、あんまりとばさない
でね」
「わかってるよ。慎重に運転するから」
道路は、曲がりくねった二車線になっていた。
追い越し禁止だ。
家並みがつづいている。
前方をバイクが走っていた。
一郎は、イライラしはじめた。
四十キロで走っているからだ。
年輩の男の人が運転していた。
路肩から離れて、走行しているために、追い
越しができない。
「もう少し左に寄ってくれればいいのに」
「もうちょっと我慢していれば、どこかで曲がっ
てくれるわよ」
一美は、一郎を落ち着かせようと必死だ。
かれこれ五分くらい、並んで走っている。
一郎は、しびれを切らしはじめた、
ふいにアクセルを踏んだ。
黄色のセンターラインを越えようとしていた。
「ほら、あなた、あんなところに吊り橋が
見えるわ」
「ええっ、こんな所に」
一郎は、ちらっと左を向いた。
車の速度がのろくなった。
「ねっ、あの林の向こうよ。紅葉がきれいでしょ」
「ほんとだ。バイクばかりに気をとられて
まわりの景色が見えなかったよ」
「せっかく、神様が私たちが心がなごむようにと、
見せてくださっているんだから、楽しまなくっちゃ」
一郎は、一美の右手をにぎった。
「ありがとう。心配させて」
「わかってくれて、うれしいわ」
一郎は、遅い運転をする年輩の男の人を憎
みはじめている自分に気がついて、驚いた。
些細なことで、人は怒るものだ。
前を向くと、バイクが見えなかった。
標識が五十キロに変わっている。
一郎は、スピードをあげた。
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2011年11月19日
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恵子はロビーの片隅にある喫茶室の片隅で
すわっている。
タバコをくゆらしている。
我慢ができなかったのだ。
この寒空に戸外にタバコを吸えなんて、非
常識極まりないと、恵子は思う。店主はしぶ
い顔をしたが、あえて灰皿をたのんだ。
幸い、客はそれほどいなかった。
室内は暗い。淡いスポットライトがそれそ
れの席を照らしているだけだった。
二杯目のコーヒーを飲んでいる。
チーズケーキをひとつたのんだ。
朝から、ほとんど何も食べていなかった。
鈴木から、着信があった。
ケータイをひろげた。
「遅くなってすみません。今、玄関わきに
着きました」
恵子は、喫茶室にいると答えた。
ドアが開いた。
サングラスをかけ、ジャンパーを着た男が
入ってきた。首にマフラーを巻き、ジーパンを
はいている。
恵子を認めて、近づいて来た。
初め、その男が鈴木だとは思わなかった。
あまりに若気だったからだ。
「けいこさん、ですよね」
男が言った。
「あら、鈴木さん、ですか」
「わかりませんでしたか」
「ええ。なんだか別の人のように思いまし
たわ」
「人相でも悪かったんでしょう。サングラス
をかけたりしているから」
「逆ですわ。どこかの若い俳優さんかなと
思いましたわ」
鈴木はサングラスをとって、向かいの席に
すわった。
「そんなにほめてもらえたんじゃ、ごちそう
しなくちゃいけませんね。夕食は」
「正直に言うと、まだなんです」
「となりに焼肉を食べさせる店があります。
よかったら、そこに移りましょう」
鈴木はそう言うと、オーダーを書いた紙き
れを手にとった。
恵子は立ちあがって、鈴木の腕をとった。
鈴木は、ちらっと恵子の顔を見て、
「今夜は、日ごろのうさを晴らしましょうね」
と、小さな声で言った。
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