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 翌日から練習がはじまった。
 午前九時に劇場に行った。
 久しぶりに男との逢瀬を楽しんだ恵子の肉
体は、活力がみなぎっていた。
 「自由に踊っていいから。こまかいことは、
だんだんに指導するから」
と、振付師のKさんに言われた。
 曲を、一度だけ聞いた。
 「振りつけは、自分で考えろ」
 即興で踊れ、ということだ。
 オーナーが、柔和な顔をして見つめている。
 臨機応変に踊ることは、ジャズに似ていた。
 六年間の経験はある。
 それが、唯一の支えだった。 
 準備体操は、十分にやった。
 筋肉は、やわらかい。
 胸はどきどきしている。
 果たして踊れるだろうか。
 不安はあるが、やるしかなかった。
 
 恵子は、今、ステージの上にいる。
 トップレスの衣装を身に付けている。
 下ばきは、皮のショーツだ。
 本番さながらだ。
 イントロが、はじまった。
 身体が、待ちかねていたように動き出した。
 豊かな胸がはずむ。
 あたしは、ダンスが好きだ。 
 好きだ。
 好きだ。
 踊りながら、自分に言い聞かせていた。
 ゆっくりだ、けいこ。
 ゆっくりで、いいんだ。
 自分の思うように、両手両足を動かしていく。
 ベリーダンスのように。
 しなやかに動け。
 音楽が高鳴ると、動きが早くなった。
 「前へ出ろ」
 振付師の厳しい命令が飛んだ。
 恵子は、花道に歩きだした。
 いよいよ円柱状のポールを使う。
 ここからが、正念場だ。
 身体をスピンさせながら、移動していく。
 柱を、右手でつかんだ。
 これからは、ほとんど脚の動きだけになる。
 「できるだけ脚をあげろ」
 「腰をふれ」
 「尻をつきだせ」
 「床に寝ころべ」
 「手を持ちかえろ」
 「男の気持ちをあおれ」
 様々な注文をこなした。
 「よし、ステージにもどっていい。フィナーレだ」
 恵子は、汗だくになっていた。
 
 
 
 
 
 
 

新生 その19

 店は、満席だった。
 一美は、裏方に徹することにしていた。
 仕事は、皿洗いや掃除だ。
 勝手口から厨房に入った。
 「遅くなりました」
 「おはようございます」
 美樹がいた。
 スパゲッテイをつくっているところだった。 
 動き回る姿を見ていると、一美は目が回り
そうになった。
 思わず、頭をかかえた。
 洗い場に汚れものが、積み重なっていた。 
 「すみませんね。ゆっくりでもいいですから、
お願いします」
 美樹が、優しく声をかけた。
 「はい」
 三角巾とエプロンをつけ、ビニールの手袋を
はめた。
 油で汚れているので、きれいにするのは容
易ではない。
 初めは、水で洗ったが、油がとりきれない。
 湯をつかうことにした。
 今度は、皿の表面からぬるぬるしたものを
とりさることができた。
 洗う量が、家庭とはまったくちがった。
 一時間もやると、一美は疲れてしまった。
 一郎が、厨房に入ってきた。
 「忙しい時間帯がおわったよ。ここは俺が
やるから、一美は、店のテーブルにのった
汚れものを、カウンターまで運んでくれるかい」
 「ええ、わかりました」
 頭ではわかっているのだが、身体がついて
いかない。一美は、はがゆい思いでいた。
 床につまづいて、転んでしまった。
 テーブルの角に、頭をぶつけた。
 「あっ、奥さん。大丈夫ですか」
 美樹がかけよって、助け起こした。
 ひたいの上に、血がにじんでいる。
 「一美、休んでいていいよ。外にいるひろちゃ
んを呼んでくれるかい」
 一郎が、真剣な表情で言った。
 「ごめんなさい」
 勝手口から外にでた。
 「奥さん、どうぞ。中の仕事は大変だったでしょ」
 浩が気をきかして、椅子を持って来てくれた。
 「ありがとう。落ち葉がいっぱいだから、お掃
除たいへんでしょ。あっそうだ。ちょっと中を手
伝って下さいって」
 「わかりました。すぐに行きます」
 浩は、下をむいて、
 「奥さんは、家事に専念された方がいいように
思いますよ」
 青年らしい率直な言い方だった。 
 一美は、感動した。
 「わたしのことを真剣に考えてくれてありがとう」
と、答えた。
 

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