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 M子が鏡の前に立った。
 両手を洗い、ハンカチでふく。
 顔をいじる様子はない。
 上から下まで眺めて、身支度をととのえている。
 となりに立った私は、鏡のなかのM子をのぞきこんだ。
 十八歳。
 番茶もでばな、である。
 まあ、きれい。
 私は、心の中で感嘆の声をあげた。
 M子がうらやましい。
 それに比べて、私は・・・・・・。
 三十路なかば。
 肌の衰えがめだつ。
 くやしいったら、ありゃしない。
 思わず歯ぎしりした。
 憎い。
 憎い、この娘が。
 憎いったら、ありゃしない。
 ふつふつと心の中で、何かが煮えたぎる。
 鏡に映る自分の顔を見たくない。
 容貌は人並み以上だ、と思っている。
 こんな気持ちでは、白雪姫の魔法使いみたいだ。
 「鏡よ、鏡よ、かがみさん」である。
 M子が、ちらっと鏡の中の私を見た。
 眉をひそめた。
 いけない。気づかれたか。
 私の醜い心を。
 私は、わざと笑顔を作った。
 「とてもお肌がきれいね」
 心とは裏腹なお世辞が、口をついて出た。
 M子は、ポッと顔を赤くした。
 「どう。お仕事、だいぶ慣れましたか」
 「ええ。皆さんが良くしてくださるんで」
 「部長さんはどう。親切に教えてくださいますでしょ」
 気になっていることを、言わずにはいられない。
 M子の表情の変化を見落とすまいと、ぐっと前に乗りだした。
 「はい。もちろんです」
 ほほ笑んで、言った。
 やっぱりそうか。
 部長と関係があるのか。
 あいつに抱かれているのか。
 厚い胸の下で、この娘は歓喜の声をあげているのか。
 妄想が、急激に、私の中でふくらんだ。
 
 
 

さびしい その14

 マリモは、S子の膝からとびおりた。
 ふきのはやしをかきわけて行く。
 すぐに後戻りしてきた。
 頭だけ出して、にっこり笑った。
 頭に赤いリボンをつけている。
 髪の毛があるのに、S子は今まで気づかなかった。
 「まあ、かわいいわね」
 思わず言った。
 「こんな所で何をしてるの。寒くない。おなかの子供は、大丈夫かい」
 突然夫のAが、不安げな表情で声をかけた。
 スーツを着たままである。
 両手でマリを抱いていた。
 S子がふりむいた。
 「まあ、いつからそこにいたんですか。知らなかったわ」
 「今、帰って来たばかりなんだ。家の中にいないから、探したんだよ」
 「ごめんなさい。あら、そうそう。すみませんけど、マリを家の中に入れてくださる」
 「いいけど。どうして」
 「どうしても」
 「変だな。今までそんなこと、言ったことないのに。まあ、いいや」
 マリは、Aの胸の中であばれた。
 外にいたいのだ。
 それに、匂うのだ。
 変なのがいるぞ。
 マリは、みゃあみゃあ、と鳴いた。
 Aは戸を少し開けると、マリの身体をそっと投げ入れた。
 「おかしいな。マリがこんなにあばれるなんて」
 と、Aは独り言を言った。
 AはS子のところに戻りながら、両手をパンパンと鳴らした。
 右手を内ポケットに入れる。
 ふところから、きれいな紙で包まれた小さな箱を出した。
 赤いバラの絵が、所々に見える。
 S子にさしだした。
 「ほら、開けてごらん」
 ふたりは、石垣にならんですわった。
 包装紙をきれいに開けると、紫色の入れ物があらわれた。
 ネックレスに違いない、とS子は思った。
 ふたを開けた。
 きらっと光った。
 金色のネックレスの先に、赤いルビーが付いている。
 「まあ、素敵。こういうのが欲しかったのよ」
 「よかった。喜んでくれて」
 S子は、右手にそれを通すと、上にあげた。
 ルビーが陽を受けて、きらきら光った。
 マリモが驚いて、頭をかくしてしまった。
 
 

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