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 私は思いあまって、M子の背後にまわった。
 両手で彼女の腰のあたりを抱いた。
 「どっ、どうしたんですか」
 「ねえ、部長さんさあ。あなたのこと、可愛がってくれたの」
 耳元でささやいた。
 「ええっ、何のことですか」
 右腕を彼女の細い首にまわす。
 鏡の中のM子の顔が、恐怖にひきつった。
 「しらばくれるんじゃないわよ。かわいい顔して、やるもんだわねえ」
 早口で言って、右腕をぐっと手前に引きつけた。
 「ううっ」
 M子は、うめいた。
 「正直に、お言い」
 ゆっくりした口調で言った。
 M子の体が震えだした。
 激しく、左右に首をふる。
 私は、腕をゆるめた。
 M子はぐったりして、その場にしゃがみこんだ。
 すすり泣きをはじめた。
 「なっ、何にもしていません。部長さんとは、何もありません。本当です」
 「あら、そうなの。さっきは良くしてくださるって、言ったじゃないの」
 「そっ、それは。お仕事のことです」
 私は、M子の背中を抱いた。
 両手を前にまわす。
 服の上から、そっと胸をさわった。
 「見かけより、ずいぶん大きいのね、あなた」
 私は、自分の上着を胸元まで引き上げた。
 ノーブラである。
 ふたつのオッパイが、プルンと揺れた。
 「ほら、見て。私の胸。小さいでしょ」
 と言った。
 ひゃああ、あっはっはっは。
 M子が、突然取りみだした。
 はっとして、私は手を引いた。
 これ以上やると、この子。どうかしちゃう。
 そう感じた。
 M子をトイレに置き去りにして、私はドアを開けた。
 
 
 
 

さびしい その15

 それから二十日後に、S子は病院で男の子を出産した。
 「ただいま。今帰りました」
 夫のAが玄関の戸を開けると、赤子を抱いたS子が大きな声で言った。
 「はい、ご苦労様」
 腹の底からしぼりだすような声だ。
 M子が玄関のすぐわきにいた。
 上がりはなに、座布団をしいてすわっている。
 最近、体調が良くない。
 食がほそくなり、ここ数カ月で、体重が五キロ減った。
 ときどきふらつく。
 夫のFが、わきで体を支えていた。
 「まあ、母ちゃん、大丈夫なの」
 S子の顔に、憂いの色が浮かんだ。
 「大丈夫。それより早く孫の顔を見せておくれ」
 「うん。ほら」
 S子が、M子の顔の前に赤子を近づけた。
 「まあ、なんてかわいい」
 久しぶりに見る母の笑顔だ。
 「いい子だ、いい子だ」
 父のFは、赤子のほほをなでた。
 赤子は、口をもぐもぐ動かした。
 「おい、おい」
 Fが呼びかけると、赤子は両目をぱっちり開けた。
 「おまえさん、起きちゃうじゃないか」
 「さあ、おうちだよ。じいちゃん、ばあちゃんだよ」
 S子が、赤子にやさしく語りかけた。
 瞳がきょろきょろ動く。
 「ねえ、この子。分かるのかな」
 S子が言う。
 「生まれたばかりだからな」
 M子が微笑んだ。
 ふいに赤子の顔が真っ赤になった。
 顔をしわくちゃにして、泣きはじめた。
 「おっぱいかな、S子」
 M子がたずねた。
 「さっき、飲ましたばかりなの」
 「おしめは」
 「それも、大丈夫」
 「とにかく座敷にあがれや。ご先祖様に報告してな」
 Fが、にこしこして言った。
 赤子を胸に抱いたままで、S子は仏壇の前にすわった。
 S子が線香に火をつけようとした時、印を結んだ木彫りの
仏像の影で、赤いリボンが動いた。
 

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