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診察を終え、医者に礼を言った。
「良くも悪くもなっていません。今まで通り薬をのんでください」
医者の言葉に、心がなえるのが分かった。
病院内は、マイナスの気が充満している。
女は、早く外に出たかった。
玄関の自動扉が開き、外気が入りこむ。
建物の壁際に日当たりのいい場所がある。
両手を大きくひろげて、深呼吸した。
空が見えた。
黒雲が大きく広がっていた。
遠くで雷鳴がとどろいている。
雨が降りそうだわ。朝はいいお天気だったのに。
みっつの薬袋の端を指でしっかりとつまんで、かけだした。
バッグは、車に置いたままだった。
駐車場まで、歩いて五、六分かかる。
横断歩道を渡ろうとしたら、信号が赤になった。
ピンとのばした紙を、棒で突き破るような音が、辺りにひびく。
ほこりでおおわれた路面に丸い模様ができはじめた。
ほんの数秒で、女のからだがシャワーを浴びたようになった。
髪の毛をしずくがつたう。
白い上着がぬれ、下着が透けて見えた。
濡らさないようにと、薬袋は小脇にかかえた。
信号が赤に変わった。
もう仕方がないわ、と女は思う。
ゆっくりと渡って行く。
「傘に入ってください」
向かってくる黒い傘の中で、かすかな声がした。
傘が持ち上げられ、困惑した男の顔があらわれた。
「すみませんね」
せっかくの好意だ。
男のそばに身体を寄せた。
ときどき、男のからだにふれた。
その度に、女は男から身を放した。
ちらっと男の顔を見る。
目が笑っている。
口元がゆるんでいる。
駐車場が近づいて来た。
「ここでいいですから」
女は思いきって、男の傘から出た。
「まあ、いいじゃないですか」
男は、右手で傘を持ちあげて、追って来る。
女は乗用車の右側のドアをあけ、助手席まで行った。
男は地面に傘をほうり投げると、運転席に乗りこみ、ドアをしめた。
「どこまで行くんですか。私が運転してあげましょう」
女は、声もあげられない。
唇がふるえた。
「これで拭いてください。風邪をひくといけませんからねえ」
わきにあったタオルを女の膝に置くと、男は間のびした声を出した。
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2012年02月21日
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