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惑う その3

 剛が車にかけより、窓枠に手をかけた。
 「ごっ、ごめん」
 自然と口からでた。
 「つよしったら、何か悪いことしたんだ」
 ユリが顔を横に向ける。
 他人を見るような表情になった。
 「ねえ、ユリ。どこへ行くの」
 剛はあせった。
 「お客さん、長居はできませんよ」
 運転手が冷たく言い放った。
 窓ガラスが上がりはじめる。
 剛は手をはなし、大げさに両手を広げた。
 ユリが車内で手招きしている。
 からだをわきにずらした。
 ふいにドアが開いた。
 ふううとため息をはいて、剛が乗りこんだ。
 「中華街へ行ってください」
 ユリが命じた。
 「はい」
 運転手は、右のバックミラーを見ながら、ゆっ
くりハンドルをきった。
 ユリは前を見たままだ。
 笑顔は、見せない。
 深々と座席にすわると、剛は目をつぶった。
 小百合とは、手をつないで歩いたり、軽くキ
スをかわす程度だった。
 小百合が興奮して、熱い口づけを求めてくる
ことがあったが、剛はすぐにからだを放した。
 俺には、ユリがいる。
 その想いが、いつも頭からはなれなかった。
 そのくらいの付き合いなら、ユリも許してくれ
ると思っていた。
 甘い考えだった。
 小百合は本気になっていった。
 剛への想いは、つのるばかりだった。
 怒っているのか、最近は連絡を入れても、まっ
たく応答がない。
 ユリにの方を向いたり、小百合の方を向いたり、
まるで風見鶏のように心が変わる。
 俺が変わったのかな。都会の風に吹かれて。
 きっとそうだ。
 右手を動かして、剛はユリの手をとろうとした。
 ユリの左手にふれた。
 さっと、手が逃げた。
 ユリは、手を膝の上にのせた。
 剛は、両手で頭をかかえた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

乱れる その1

 校庭の木々は、葉をほとんど落としていた。
 太陽が早く沈んだ。
 午後五時を過ぎると、辺りは真っ暗だ。
 「タロウの散歩に行ってくるよ」
 と母に告げて、少年は家を出た。
 「こんなに暗いのに、大丈夫かい。車に気
をつけるんだよ」
 「うん」
 近頃は、あまり母ともしゃべらない。
 しゃべりたくないと言った方が、正確だ。
 八月で、十四歳になった。
 父は朝早く家をでて、真夜中に帰って来た。
 家の西側を小川が流れている。
 タロウに引っぱられるままに南に向かった。
 闇の中では、犬の姿がはっきりしない。
 黒っぽい毛をしている。詳しくいえば、こげ
茶色に近い。
 物影に入ると、なおさらだ。闇にとけこんだ
ようで、どこにいるのか分からない。
 首輪に付いたチェーンの動きがたよりだ。
 ふいにチェーンが伸び、直線になった。
 タロウが両足をふんばり、ふんふんと鼻を
鳴らす。
 ほかの犬の痕跡があるのだろうか。
 少年は、その場にしゃがみ、手で草の上を
はらった。
 何もない。
 思い切って、指で草をなでつける。
 匂いをかぐと、なまぐさかった。
 犬のおしっこがかかっていたところで、分か
らないだろう、と少年は思った。
 犬の嗅覚は鋭い。
 人間とは、比べものにならない。
 納得して、歩きだしたが、すぐにまた立ち
どまった。
 耳をピンと立てた。
 足音が近づいて来た。

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