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ツヨシ 7−4 

 「つよし、出たわよ」
 シャワーを浴び終えたM子が、カーテンの内側で声をかけた。
 返事が聞こえない。
 ごう、ごごっ、ぐわっ。
 まるで猛獣が眠っているようだ。
 剛が、すごいいびきをかいている。
 よっぽど疲れているんだわ。
 勉強とアルバイトの両立は、たいへんなんだ。
 M子は、剛がいじらしくなった。
 浴衣を羽織ると、桶にお湯をくんで、浴室をでた。
 左手にタオルを持った。
 ベッドの端で、眠っている剛を見つけた。
 からだをくの字にして、横たわっている。
 かわいそうなつよし。
 不意に、のど元に熱いものがこみあげてきた。 
 カッターシャツのボタンをはずしはじめた。
 剛の上体を起こし、ランニングシャツを首からとおす。
 裸の胸や腹を、丹念にふいている。
 「うっ、うん。あれれっ」
 剛が目覚めた。
 M子の胸の中にいる自分を見つけて、急に恥ずかしくなった。
 「ありがとう」
 ぺこりと頭をさげた。
 勢いをつけて起き上がると、ベッドわきに立った。
 「無理にでも、起こしてくれればいいのに」
 「なんだか、かわいそうに思ったの」
 「そうなんだ」
 M子には、弟がひとりいる。
 両親と三人で、故郷で暮らしている。
 剛が好きなのか、それとも弟の面影を、剛に重ね合わせて
いるだけなのか、はっきりしなくなってきた。
 でも、好意を寄せていることは、確かだ。
 三十二歳と十八歳。
 M子は、心の中でそうつぶやいた。
 くすっと笑った。
 「何がおかしいの」
 剛も表情がやわらかくなった。
 「いいえ、別に。気にしないで」
 「なら、いいけど」
 「ねえ、つよし。お風呂からあがったら、すぐにアパートまで送ってあげるわ」
 M子が、ふっ切れたような顔で言った。
 「ええっ、いいの」
 「その方がいいんでしょ」
 剛は、頭を深くさげた。
 「これからも、いいお友達でいてくれますか」
 真面目な顔で、M子が訊いた。
 「はい、おねえさん」
 あははっ、あははっと、ふたりで笑いだした。
 
 

ツヨシ 7−3

 正面にまわると、ホテルは横に長かった。
 各部屋の入口に、幅の短いビニル製の垂れ幕がさがっている。
 ホテルと言うよりモーテルだな、と剛は思う。
 初めて見る景色に、たたずんだままだ。
 ブルン。
 ふいに、車のエンジン音が聞こえた。
 驚いて、左をを見た。
 みっつ目のガレージから、黒い乗用車が出て行くところだった。
 「つよし、早く入って」
 M子が腰を低くして、暖簾をわける。
 剛も上体をかがめるようにして、後に続いた。
 薄暗がりの空間を、小さな灯りのもとへと、手探りで歩いて行く。
 ドアがあった。
 M子がノブをまわして、開けた。
 玄関がせまい。
 天井の照明器具の灯りが、とぼしい。
 あたりが、ようやく見える程度だ。
 M子は使ったことがあるのか、てきぱきと動く。
 上り口に腰をおろして、靴をぬぎ始めた。
 「あたしのマネをしてね」
 「うん」
 剛は素直にしたがう。
 わきの柱に、白いビニル袋がひっかかっている。
 M子は、それを一枚手にすると、靴を中にいれた。
 剛も、M子にならって、部屋にあがった。
 奥にもドアがある。
 左側の壁の一部が明るかった。
 変わった受付だった。
 縦十センチ、横二十センチくらいの四角く切りとられた空間だ。
 そこを手を出し入れすることで、金と鍵の受け渡しをすませる。
 部屋の使い方を指示する女の声が響いた。
 部屋に入るなり、剛は、あっと声をあげた。
 部屋の真ん中に大きなベッドがある。
 M子はそこに腰をおろすと、
 「あたし、先にシャワーを浴びていいかしら」
 剛の顔を見上げた。
 「えっ。ええ、もちろんです」
 突っ立ったままで答える。
 M子は、かちゃかちゃと音を立てて、アコーデオン・カ―テンを開けた。
 「すぐに出るからね」
 すき間から頭だけ出して、にっこり笑った。
 剛は、どさりとベッドの上にあおむけになった。
 ベッドが揺れる。
 今頃、ユリはぐっすり眠っているだろうな、と思った。
 
 
 

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