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どきっとして、一夫の体がこわばり顔色が変わった。
早苗を見つめたまま、凍りついたように立ちつくす。
靴が海水に濡れるのもかまわず、早苗は近寄ってきた。
「ずいぶん楽しそうですわね」
口びるの端に薄笑いを浮かべる。
「若い人はいいでしょ」
一夫のまわりをゆっくり歩きながら、刺すような視線を浴びせた。
「へええ、着せるものも、あたしと好みが違うようだし」
「さっ、さなえ」
早苗は立ちどまり、
「何よ、何か言うことがあるの」
と、感情を爆発させた。
顔の筋肉がひきつり、まるで別人のような顔を形作っていた。
早苗の両手がわなわなと震える。
一夫は顔をゆがめて、
「何を言っても信じないだろうが、・・・・・・」
「ああ、そのとおりよ。なんと言いわけしても無駄よ」
一夫は立っているのが辛くなり、その場にしゃがみこんだ。
「よくもまあ、今まで。あたしをあざむいてくれたわね」
肩からさげた小さめのバッグから封筒をとりだし、一夫に差しだした。
「これは」
と一夫は受け取り、入っていた紙っぺらを開いた。
早苗の名前のわきに印鑑が押してある。
「わかるでしょ」
「離婚届か」
早苗はそうよと答えて、バッグからタバコを一本とりだし口にくわえた。
ライターの火を近づける。
深く息を吸いこみ、ふううと吐きだした。
「お前、たばこ吸うのか」
「あたしの勝手でしょ」
なんとかうまく行っている、と一夫はずっと思っていた。
夫婦でも、所詮は他人同士か。
一夫は長いため息を吐いた。
「あなた、あたしのお荷物みたいだったし」
「何だって、お荷物だって」
「そうよ、何か文句ある」
ぎろっと一夫をにらんだ。
「家はいただくわね。今日中に荷物をまとめて出て行ってね」
「今日中だと」
封筒をつかんだ一夫の手が震える。
「女を引っぱりこんだのよ、あなた。立派に離婚が成立するでしょ」
「わかった。判ったから、ちょっと俺の話を聞いてくれるか」
「判を押してくれる」
「ああ」
一夫は自分の身に起こったことを、包み隠さずに話した。
早苗はふんと鼻先で笑い、
「実家にいますから、早めに郵送してください」
と、きびすをかえした。
水に濡れたのか、お尻が冷たい。
心まで凍りついたようだな、と一夫は自嘲気味に笑った。
しぼんでいた風船がふくらむようにして、一夫は立ち上がった。
これは俺の本意ではない。不可抗力だった。
一夫の心の中から湧きあがってくるものがあった。
「俺は、今でもお前のことが好きだあ」
と、去って行く早苗の背中に叫んだ。
早苗は両手で耳をふさいだ。
「これもあなたの人生よ」
いつの間に来ていたのか。
セラヴィが、一夫の耳元でそっとささやいた。
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2012年05月11日
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