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上空からヘリに乗ったような気持ちで、らせん状にゆっくりと降下する。
山々に囲まれた狭い土地に、人々がひっそりと息づいているのがよくわかる。
右手に見える浅間の山は、なんといっても迫力がある。
有史以来何度も噴火をくり返してきた。
多くの犠牲者をだしながらも、人々は山を神とあがめて、
したたかに暮らしてきている。
「ちっとやそっとじゃ、根をあげねえぞ」
周辺の人々の気骨が、木霊となって聞こえて来るようだ。
一筋の川が見えてきた。
視線をぐっと近づけてみる。
千曲川に沿って、赤いスポーツカーが南に下っている。
その後を二人乗りのバイクが追う。
ちょっととぼけた野郎どもが、道行きを楽しんでいるのだ。
道沿いの広くなった所で、車が停まった。
続いてバイクも。
「どうです。良いところでしょう」
鈴木が車のドアをあけながら、竜夫に声をかけた。
竜夫はヘルの風防をあげて、
「いや、まったく。壮観ですね」
美樹はヘルを脱ぐと、うきうきした足取りで土手をおりはじめた。
「まあ、きれいなお水」
独り言を大きな声で言い、ジーンズを膝までまくって、ざぶりと水に入った。
両手で水をすくって、顔をあらっている。
「おい、きたねえんじゃねえか」
土手の上から竜夫が大声をあげた。
「だいじょうぶよう。ほら、こんなにお魚が」
急に、美樹が態勢をくずした。
バチャン。
深みに足をすべらせたようである。
重機が掘ったせいで、川底がでこぼこしている。
美樹は泳げない。根っからの金づちだ。
子供の時から、尻ごみして水辺には近寄らなかった。
一度は頭が見えなくなった。
しかし、すぐに浮き上がってきた。
両手を水面のうえに上げるのが、やっとのようだ。
声もあげない。
かなり水を飲みこんだらしい。
竜夫よりはやく、鈴木がとびだした。
たったとかけおりると、急流をものともせずに飛びこんだ。
美樹を背中から抱きかかえると、ゆっくりと浅瀬に向かって泳いでくる。
竜夫が待っていた。
ふたりで砂地にひっぱりあげたが、美樹はぐったりしている。
鈴木は美樹の口を開けると、空気をふきこんだ。
腹にまたがり、両手を重ねて胸を押しはじめた。
鈴木は口をへの字にまげ、一言も発さない。
一連の人口呼吸を続ける。
ふいに美樹がせきこみ、水をびゅっと吐いた。
「もう、でえじょうぶでさあ」
鈴木が竜夫を見つめて、頭をさげた。
鈴木の顔はずぶぬれだ。
水だか、涙だか分からないが、目にはいっぱいたまっている。
「あっ、あんちゃん」
「良かったな。鈴木さんのおかげだぜ」
化粧の落ちた美樹の素顔は、見られたものではなかったが、
鈴木は竜夫が見ているのもかまわず、美樹の体を両手でしっかり抱きしめた。
竜夫はふふっと苦笑いすると、くるりと背中を向けた。
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2012年05月30日
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