過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

 上空からヘリに乗ったような気持ちで、らせん状にゆっくりと降下する。
 山々に囲まれた狭い土地に、人々がひっそりと息づいているのがよくわかる。
 右手に見える浅間の山は、なんといっても迫力がある。
 有史以来何度も噴火をくり返してきた。
 多くの犠牲者をだしながらも、人々は山を神とあがめて、
したたかに暮らしてきている。
 「ちっとやそっとじゃ、根をあげねえぞ」
 周辺の人々の気骨が、木霊となって聞こえて来るようだ。
 
 一筋の川が見えてきた。
 視線をぐっと近づけてみる。
 千曲川に沿って、赤いスポーツカーが南に下っている。
 その後を二人乗りのバイクが追う。
 ちょっととぼけた野郎どもが、道行きを楽しんでいるのだ。 
 道沿いの広くなった所で、車が停まった。
 続いてバイクも。
 「どうです。良いところでしょう」
 鈴木が車のドアをあけながら、竜夫に声をかけた。
 竜夫はヘルの風防をあげて、
 「いや、まったく。壮観ですね」
 美樹はヘルを脱ぐと、うきうきした足取りで土手をおりはじめた。
 「まあ、きれいなお水」
 独り言を大きな声で言い、ジーンズを膝までまくって、ざぶりと水に入った。
 両手で水をすくって、顔をあらっている。
 「おい、きたねえんじゃねえか」
 土手の上から竜夫が大声をあげた。
 「だいじょうぶよう。ほら、こんなにお魚が」
 急に、美樹が態勢をくずした。
 バチャン。
 深みに足をすべらせたようである。
 重機が掘ったせいで、川底がでこぼこしている。
 美樹は泳げない。根っからの金づちだ。
 子供の時から、尻ごみして水辺には近寄らなかった。
 一度は頭が見えなくなった。
 しかし、すぐに浮き上がってきた。
 両手を水面のうえに上げるのが、やっとのようだ。
 声もあげない。
 かなり水を飲みこんだらしい。
 竜夫よりはやく、鈴木がとびだした。
 たったとかけおりると、急流をものともせずに飛びこんだ。
 美樹を背中から抱きかかえると、ゆっくりと浅瀬に向かって泳いでくる。
 竜夫が待っていた。
 ふたりで砂地にひっぱりあげたが、美樹はぐったりしている。
 鈴木は美樹の口を開けると、空気をふきこんだ。
 腹にまたがり、両手を重ねて胸を押しはじめた。
 鈴木は口をへの字にまげ、一言も発さない。
 一連の人口呼吸を続ける。
 ふいに美樹がせきこみ、水をびゅっと吐いた。
 「もう、でえじょうぶでさあ」
 鈴木が竜夫を見つめて、頭をさげた。
 鈴木の顔はずぶぬれだ。
 水だか、涙だか分からないが、目にはいっぱいたまっている。
 「あっ、あんちゃん」
 「良かったな。鈴木さんのおかげだぜ」
 化粧の落ちた美樹の素顔は、見られたものではなかったが、
鈴木は竜夫が見ているのもかまわず、美樹の体を両手でしっかり抱きしめた。
 竜夫はふふっと苦笑いすると、くるりと背中を向けた。
 
 

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事