けっさん文庫

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お話をいろいろ書いています。
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狐火 その3

 「まあまあ、ねえさん。もう話はいいから。オサばかりとしゃべってねえで、こっちさ来ておらに酌をしてくれねえか。さぞうまい酒になるじゃろうから」
 そうだ、そうだ。おらにも。おらにも。おれにも。
 「大した花代はだせねえが」
 もう一度オサが念をおす。
 「お金はいいんですよ」
 「ほんとにいいのけ」
 「ええ」
 「わかった」
 「ねえさん、上座の者からついでやっとくれ」
 「はい、承知しました」
 男たちの間を、一匹の女狐がせわしなく走りまわっている。
 フサフサの長い尾をひとりひとりにこすりつける。
 その度に男はメロメロになる。
 「さあ、どうぞ」
 「おお、すまねえな」
 「もう一杯いかが」
 「おらもうだめだ。のめねえ」
 「まあ、だめだなんて。まだまだいけますよ」
 
 ひとりふたりと畳の上に、寝転がる者が出てきた。
 もう少しだわ。あとふたり。
 夢中だった。着物の裾から出ている尾が、透明色から淡い茶に変わってきている。
 男の目にもわかるほどになった。
 化かしの効力が薄れてきている。ゲイコは気付かない。
 「ねえさん」
 下座の男が不意に声をかけた。
 ギクリとした。どこかで聞いた声である。
 姿を見る。又造だ。
 間違いない。タバイでよく見かける男だ。
 「はあい、なんですの」
 「何か裾でひらひらしてるぜ。気をつけな」
 又造は分かっていた。
 「いいから、もう寝床に帰りな。大切な宝物が待ってるだろ」
 又造は、自分の料理をビニールの袋に入れた。
 隣で三人の男がいびきをかいている。
 彼らの残り物も素早く放り込んだ。
 「これで充分だろ」
 思いがけない出来ごとに、ゲイコは立ちすくんだままである。
 「マタゾウさん。オン二キルワ」
 たどたどしい言い方になってきた。
 
 狐の姿が、ふわふわっとゲイコの背中に浮かんだり消えたりする。
 「早くしろ。見つかると、俺だってお前を助けてやれなくなる」
 ゲイコは四人分を両手で持つと、戸口に急いだ。
 「なっななっなあんだ。キツネだあ」
 男がひとり目覚めた。
 ええっ、そりゃそりゃ大変だ。
 皆が起きる。
 ガラッと戸が開いた。
 キツネは振り返った。
 コーンと鳴いた。
 袋をくわえた。
 又造を見る。目を二度パチパチとしばたいた。
 体を山に向ける。
 走りだした。
 「追え。逃がすな」
 オサが叫ぶ。
 「まあまあ皆の衆。いたわってやろうじゃないか。広い心を持とう。どんな思いで女狐がここに来たと思いなさる。山じゃなあんもとれん。仕方なくこうしてわしらに頼ってきたんじゃ。そう思えば腹も立たん。子が何匹もいる。腹をすかしとる。人間とおんなじじゃ。情けをかけてやってくれ」
 又造は、両手で彼らを押しとどめる。
 涙がこぼれてきた。
 男たちは真剣に話を聞いている。めったに話さない男がこんなに頼んでいる。
 「わかったぞ。又造」
 「お前の言うとおりだ」
 「にがしてやれ」
 オサが命じた。又造は畳にすわりこんだ。
 
 タバイの山深い巣の中は大騒ぎである。
 「母ちゃんありがとう。たいへんだったでしょ」
 「無事で帰れて良かったわ」
 「マタゾウが助けてくれたのよ。みんな忘れるんじゃないよ」
 「はあい。わかりました」 
 子キツネたちの目がとろんとしてきた。
 利根川はゆったり流れている。
 川幅が広い。
 東の空が明るさを増しはじめている。
 川岸で葦が風に揺れ、朝霧が川面をおおっている。
 
 仁吉はブルブルっと震えた。薄手の着物を体にかけているだけだった。
 体温が下がっている。
 目が覚めた。
 お蝶は、まだ眠っている。厚手の夜着や掻巻きが、冷えた体を温めてくれたようだ。
 ああよかった。お蝶が風邪をひいたら難儀だからな。
 随分眠ったなあ。今は何時だろう。
 ここはどの辺りだろうか。
 ようやく陽がのぼったところだから、だいたい察しはつく。
 難はのがれたようだ。とりあえず「追って」はまいた。
 
 さあこれからが大変だぞ。
 「お蝶、もう起きなせえ」
 「うううん。おっかさん、もう少し寝かせて」
 家にいると思っている。無理もない。まだ若いのだからな。しかい、あまり甘やかすことも、これからはできない。大それたことを、ふたりしてやっちまったんだから。見つかれば重罪のお仕置きが待っている。なんとしてでも江戸市中に入らなくちゃならない。はてさて、どこに舟をつけるか。人に見つからぬ内にな。
 仁吉は冷静である。
 覚悟を決めたからだ。度胸がすわった。
 お蝶は、仁吉のこんなところに惚れたに違いない。
 身分違いで恋愛するのは、ご法度の時代である。
 
 二年前、仁吉はお蝶の父の経営する呉服屋に行ったことがある。
 絹の着物を扱い、武家や中流以上の町人が出入りする。
 木綿物は太物屋で扱っていた。
 庶民は古着屋で買った。
 町では一、二を争う商売繁盛の店であった。その日も、暖簾をかかげる前から店前に行列ができている。
 若い女が多い。はやりの柄の着物を買おうと、道端に並んでいる。
 上方では、こんなのをみな着ているそうだ。
 この着物に似合う帯はどれがいいかとか、女同士でおしゃべりしている。
 仁吉は町人である。めったに来ないのだが、今日は特別だ。
 母に絹の着物を着せてやりたかった。
 彼女らのすぐ裏にいた。
 母親は、腰が曲がっている。長い時間は立っていられない。
 困った。なんとか早く店に入れないものかと思案していた。
 母を背負った。
 
 「どうぞ、お入りくださいませ」横合いから女の声がした。
 店内から手代らしき男が急ぎ足で出てきた。
 「糸様、私どもが案内しますので」
 糸さんは、母の手をとって、ゆっくりと店まで連れて行ってくれた。
 好感を持ったがそれだけのことである。
 雲の上に住んでいるような娘である。歳も離れている。
 ようやく暖簾をくぐれた。
 杖をついて、しばらく外にいたので、母は腰の痛みを訴えている。
 糸さんは、摺り足で奥の間から出てくるなり、こちらへと言って、母を連れて行った。
 膏薬を貼ってくださったんだと、母は喜んだ。
 気さくな優しい娘さんだわと、ふたりで感心した。
 
 仁吉は、舟をこぎだした。
 よし、うまい具合に船着き場がある。人影はない。
 「お蝶。降りる支度だ」
 「あい」
 身も心もまかせきっている、父のように慕っているのだろう。
 この先無事に生きていくぞと、仁吉は決意を新たにした。
 故郷の係累を思い浮かべた。
 おっかさん、何があっても生き抜きやすぜ。必ずまた顔を見せます。
 それまで元気でいてくだせえ。
 あんちゃん、俺の分まで親孝行しとくれ。たいそう迷惑かけると思うけど、俺は人間として間違ったことは、やっちゃいねえ。自由に生きるのが罪になるご時世だ。しかたがねえ。
 家の守り本尊であるカラス天狗様にも、目を閉じ願をかけた。

絆 その3

 正午を過ぎていた。午後二時に近い。
 「ひろこ、久しぶりに外でごはんを食べようか。おなかすいたでしょ」
 「あっそうだった。朝から何も食べてなかったんだ。いいお天気だし、愛犬ジョンにもご飯やらなくちゃ」
 奈良公園の樹木は、紅葉の盛りを過ぎている。だが、手を取り合って歩くふたりには充分きれいに見えた。
 「気持ちいいわね、母さん」
 「そうね」
 大通りの横断歩道で信号待ちをする。通りの向こうに知り合いのBさんが立っている。
 信号が青になった。人々が渡りはじめた。
 「こんにちは」
 母が声をかけた。
 「あら、おふたりでいいですわね。どこへおでかけですの」
 「ちょっと食事でもと、思いまして」
 ふたりは渡りきった。 
 宏子は、Bさんのいぶかしげな表情を見逃さなかった。彼女は、奈良坂の途中で振り返り、刺すような視線をふたりに投げかけた。
 「母さん、何だかこの頃近所の人たち様子が変なの。近づいてあいさつしようとすると、こそこそ家の中に入ってしまうんだ。急によそよそしくなったわ」
 春になり、セーラー服に身をつつんだ宏子は、帰宅するとすぐに母に告げた。
 「おめでとう、くらいは言ってもらえるんでしょ」
 「うん」
 「だったら何も気にすることないのよ。兄さんのことを世間様が心配してくださっているんだと、割り切っていればいいことよ」
 自分まで落ち込んでしまっては仕方がない。気丈に娘を励ました。息子の一件以来、自分でも驚くほど気が強くなった。頭髪に白いものが目立ち、目じりのしわも増えている。自然と鏡の前にいる時間が長くなった。なりふりかまっていられないわ。
 宏子はそれ以上母には何も言わず、二階に上がっていった。
 
 「宏子、ご飯よ」
 母の声が階下から聞こえた。早朝から母は台所で忙しく立ち働いている。
 「鶏のから揚げでしょ、母さん、朝からごちそうね」
 もっと寝ていたいのだが、そうもいかない。ふらつきながら階段を下りる。二階まで匂いが上がってくる。その匂いで献立を当てるのが、小学生からの彼女の習慣になっている。
 宏子が食卓に着くのを待って、母は微笑を浮かべて言った。
 「どう高校は楽しい。いいお友達ができた」
 「ええたくさん。いろんな中学から来た人たちと話ができるわ。親友ができそうよ。みんな悩んだりすることってあるのね。数学がむずかしくっていやだわ」
 「よかったね、宏子。お願い、仏壇に新しいごはんをあげてきて」
 宏子は、この頃父親にとても似てきた。色白で髪の毛がやわらかく、額が広い。二重まぶたで目が大きい。鼻筋がとおって、薄めの唇で笑窪がかわいい。
 母は夫と一緒にいるような錯覚にとらわれた。あちこち見られているのに気がついた宏子は、恥ずかしくなった。
 「なによ。母さん、そんなに見ないで。それでは、いただきますでござる」
 幼い時のような声を出すと、いきなり好物のから揚げを大きな口に持っていった。
 
 剛は、ユリと東武浅草駅で待ち合わせをした。
 浅草は庶民的な街である。
 剛は好きであった。
 上京するたびに浅草寺界隈を散策する。
 
 大学の入学式は四月初めである。
 東京の空気を一度ふたりで吸ってこようと、いうことになった。
 もっともユリは銀座をはじめとして、有名な所には幾度も来ていた。
 不慣れなのは、剛である。
 浅草以外はまったく地理が分からない。大学受験は友だちと一緒だった。
 地下鉄もほとんど乗ったことがない。モグラとおなじである。どこに出るのか知らないのだ。
 当然、今日はユリを頼っていた。
 恥ずかしいから、知ったような振りをしてもいい。だがそれは止めた。
 知らないものは、知らないのである。
 剛の美点である。
 
 午前十一時になった。
 改札口にユリが現れた。 
 剛はホッとした。
 「待った。これでも急いだのよ。急な用事が入ったので、剛に先に来ていてもらったのよ。同じ電車で来たかったのだけどね」
 「いやいいんだ。来てくれたんだから。俺には東京は広過ぎる。知らない所がたくさんあるんだ。母ちゃんに言われてるんだよ。知ったかぶるなって。お前はそのままであたしの宝物だって、小さい頃から言われてきたんだ」
 「うううん。わたしなんだか」
 「何だか、どうしたんだい」
 「うれしい。幸せよ。こんなに正直な人とめぐりあって」
 目に涙をためている。
 「おいおい。そんなにおおげさに」
 「大袈裟じゃないわ。殺風景なこの世であなたに出逢えたのは、やはりご縁のたまものだわ。喫茶店のマスターの話が今心にストンと落ちるように分かったわ」
 
 正午になった。
 仲見世で食事することにした。
 信号が青に変わった。 
 大通りを横切る。
 「ユリは何がいい」
 「そうねえ。何食べようかなあ」
 「ユリはお嬢様だから、おいしい物は食べあきているだろ。たまには俺と同じ物を食べてみたらどうだ」
 「うん。そうするわ。剛と同じでいい」
 「じゃあ、親子どんぶり」
 「卵と鶏のお料理ね」
 「そうだ。おれが知ってる店は味がいいんだぜ」
 「楽しみだわ」
 
 店は込んでいた。
 「あら、込みあってるわね」
 「すぐさ。今頼んでくる」
 席を外した。奥に声をかけている。  
 主人ができるだけ早く、持って来てくれた。
 顔見知りになっていた。
 「へい、お待ち。つうちゃん、今日はおやすくないね」
 うふふと剛は笑った。
 「ちゃんと待ってる人に悪いわ」
 「今日は特別な日だから、これでよしと。観音様にあとで謝るから」
 
 食事が終わった。
 「おいしかったわ。味付けがいい。剛の言ったとおりよ」
 「この道数十年の主人だもんな。それじゃまず、観音様にお参りしような」
 「ええ。ご利益があるって親から聞いたことがあるわ」
 「今から千三百年くらい前に、漁師の網にひっかかったらしいね。めづらしい観音さまだ」
 「あまり昔のことで想像できないけれど、有難い菩薩さまね」
 「俺、主人にお礼をいってくる」
 「おししいでした。ごちそうさまって言ってね」
 
 本堂前に、人だかりが出来ていた。
 「この煙を体にあびると、病から逃れられるんだ。ほら、こうして」
 「ごほんごほん。わあ、けむい」
 「ばかだなあ。口は閉じておくもんだよ」
 
 ご本尊様に参った。 
 笑みを浮かべておられた。
 
 笑顔の義男が入って来た。
 なあさんが続く。
 神妙な顔つきである。
 元の席に着いた。
 「なあさん、カラオケ、一曲リクエストしてもいいかい」
 「へいっ」
 「何がいいかな。そうだ。五木さんが得意だから、凍て鶴、歌って。おれ好きなんだ」
 ママが機械をセットする。
 前奏が始まった。
 なあさんは、もうすっかり酔いがさめた様子だ。
 しょうがないから、歌うか。本当は嫌だけど、あいつのリクエストだからな。
 
 マイクを口に近付ける。
 第一声を吹きこむ。
 ううううううう、のおむううさあけわあああ、るうるるるるる、ああああああ。
 やはりだめだ。体は正直だ。心が晴れない。歌うのは無理ってもんだ。
 「どうしたんだい。なあさん。歌詞が出ないじゃないか」
 「忘れちゃいました。皆さん、今日はこれで失礼させていただきます」
 マイクを丁寧においた。
 これっ、と言って、ママに紙幣を一枚渡した。
 急いでドアから出た。
 「かわいそうなことしたかな。ちょっとお灸がききすぎたか」
 「いいのよ。あれくらいで丁度いいわ。根っから悪い人じゃないから、あいたも来てくれる。何もなかったような顔をしてね。古くからの常連さんだもの」
 ママが微笑んだ。
 陽子も笑っている。
 
 陽子は、二十二歳で、前の職場の同僚といっしょになった。
 十歳年上である。
 県内でも指折りのスーパーマーケットだった。
 そこの板前であった。
 腕はいいし、無口で男っぷりが良かった。
 祖母はもうちょっと考えてみたらと反対した。
 そんなに好きなら仕方ないわねと、最後は認めてくれた。
 
 市内の高校を卒業するとすぐに就職した。
 「この度レジ係として入りました。宜しくお願いします」
 深々とお辞儀をした。
 陽子はおばあちゃん子だった。よく仕付けられた。
 「礼は、時や場所に応じてしなさい。相手によっては体がふたつ折れになるくらいにまげるんだよ」 
 先輩たちは驚いた。
 若いのに礼儀正しい子だ。
 評判になった。
 「陽子ちゃん、歓迎会があるから出席してね」
 店長が名前で呼んでくれた。私をふくめて三人が新しく入社した。
 
 歓迎会は県都で開かれた。
 割烹白木屋は繁華街の中心にある。創業百年を越える老舗だ。 
 陽子は、店がひけるとすぐに駆け付けた。
 明日は水曜日である。定休日だ。
 半時間早く着いた。
 不慣れな土地である。店長がよく教えてくれた。
 暖簾わきで知り合いを待っている。
 桜色の生地に青い水玉模様がよく映える。
 背が高いのでワンピースが似合う。
 「陽子ちゃん、早いんじゃないの」
 暗がりから男の声がした。
 身構えた。
 
 玄関に大きな提灯があった。そこからの灯りが男の顔を射た。
 「板前さんじゃありませんか。びっくりしましたわ」
 床屋で髪を切ってきたばかりのようだ。
 黒いサングラスをかけ、紺のスーツに身をつつんでいる。
 オーデコロンの香りが漂う。
 包丁で魚をさばく姿しか見たことがない。
 「おどかす気はなかったんだよ。ごめんよ」
 「まさ少し時間がある。ちょっとコーヒーでも飲もうよ」
 「すみません。あたしここでみんなを待ちますから」
 「俺の誘いを断るの」
 急に言動を荒くした。
 陽子は怖くなったが、誘われて悪い気持ちはしなかった。
 「じゃあ、お言葉に甘えて」
 ふたりは暗闇に消えた。
 
 一郎が先に玄関先に現れた。
 暖簾をくぐる。
 リンドウの間では、会席料理が並べられていた。
 上座にすわる。
 店員の三分の二ほどが、すでに集まっている。
 「一郎さん、お忙しいところありがとう」
 店長が丁寧に挨拶した。板前は重要な仕事である。
 「あと五分で始めます。もう少し待ってください」
 「さっちゃん、陽子ちゃん見かけなかった」
 「見ません」
 「よく教えてあげたから、間違うことはないと思うんだけどなあ」
 部屋の入り口に目をやる。
 定刻の七時になった。
 店長が改まった口調で挨拶する。
 「それではこれから歓迎会をはじめます。皆さん方には日頃お世話になり、開業三十年に成る今年は」
 
 襖が開いた。
 仲居さんが入って、陽子があとについてくる。
 皆の視線が陽子に注がれた。
 逃れるように下を向いた。
 「遅くなって申し訳ありません」
 聞き取れないほど小さい声だった。
 店長は彼女のそばに寄り、席まで案内した。
 陽子の身を案じている。
 陽子は二日間勤めを休んだ。定休日が入ったから、三日休んだことになる。
 店長には風邪で熱が出たと、伝えてある。
 レジの前に立った。行きあう先輩たちに朝の挨拶をする。
 心にオモシが載っているようで、気分が晴れない。
 
 歓迎会が始まる前の約三十分間。 
 私には忘れられない思い出だわ。誰にも見られていない。一郎さんとのこと。何もかも初めての経験だったわ。
 喫茶店でコーヒーをすすり、五分くらいでその店を出た。近くのお社に参った。自分の将来を祈った。
 立派に仕事が出来ますように。
 ライトアップされていて、不安はなかった。
 これからがんばりなと、彼は言ってくれた。
 鳥居をくぐり、再び暗がりの路地に入った。
 急に抱き寄せられ。唇を奪われてしまった。
 呆然としている私の手をとり、彼は白木屋へ急いだ。好きなんだと、ささやいた。
 私は手を彼の左手に絡めた。
 

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