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冷たく重い空気が幾層にも重なり、山合いの街をおおっている。
その重さに押しつぶされたように、街は静まりかえっている。
杉山が揺れ動いた。
風が吹き出した。
白い霧が引いていく。
鶏が鳴いた。
街は震えて目覚める。
山の端に太陽が現れた。
最初の光が、一本の県道と沿道の家並みを照らし出す。
朝陽が一斉に放たれ、またたく間に谷間が浮かび上がった。
その日の朝も正夫さんは、元はスーパーマーケットであった店の正面に丸太で出来た椅子を持ち出した。
大通りに面していて、すぐ前に歩道がある。
南向きに建っている。
良い天気の日は、午後四時くらいまで陽が当たっている。
歳をとると、寒いのは身体にこたえる。日向ぼっこが何よりじゃわい。
どっこいしょと、椅子に腰をおろした。
「おじさん、おはようございます」
この街で唯一の県道である。西に延び、横根山を越えると足尾に至る。
登校中の小学生の一団が声をそろえる。
正夫さんは眼鏡の奥に柔和な表情を浮かべる。子供は、こうして元気なのが一番だ。
この街もまだ希望が持てる。わしらは老い先短いが、安心できるわい。一陣の風が吹きすぎた。
ジャンパーの襟を立てる。
「おはよう」と応じ、ひとりひとりと握手した。それが日課になっている。
男の子も女の子も照れくさいのか、足を速めてその場から去って行く。
三代続いて八百屋を営んできた。
三代目の彼の息子は、店をスーパー風に改装した。
街の郊外に出来た大型店にお客さんをとられるからだ。
銀行から新たな融資を受けてまでの苦肉の策であった。
朝早くから夜遅くまで家族全員で必死に働いたが、空しい結果に終わった。
先祖さんには申し訳ないけれど、もうだめじゃ。
広域合併してからというもの、隣町から資本金にものをいわせた店がやってきた。
うちは限界じゃ。みんなようがんばってくれた。
蓄えを切り崩して借金をなそう。そして廃業しよう。
息子たちはまだ若いんじゃから、いくらでもやり直しがきく。
借金成しを息子たちにさせないだけ、まだましじゃ。
なあ、房子。家族会議で彼は涙を流した。墓参りをしてから店をたたんだ。
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