けっさん文庫

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お話をいろいろ書いています。
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夢で逢えたら

 先日、友だちのIがこんな話をした。
 「俺さ、変なこと言うけど」
 「何だい。どういうこと」
 「夢を見たんだよ。でもとっても現実的なんだ」
 「へえ」
 Iはうつむいてしまった。
 迷っている。
 「笑わないかい」
 「笑うものか。親友じゃん」
 「もう起きなくっちゃと思っていた時なんだ。でもそのうちまた寝ちゃったんだ。俺のおじいさんだと思う。夢の中に現れたんだ。テーブルの向こうにすわって、懸命に口を動かしている。必死になってなにかを訴えてるようなんだ。おっかなかったよ」
 「じいちゃんって、どこにいるの」
 「お母さんの故郷だから、飛行機で一時間くらいかかるところなんだ。九州だよ」
 「遠いんだね。最近は会ってないの」
 「この夏休みに一週間、じいちゃんのそばにいたよ」
 「その時は身体は丈夫だったのかな」
 「別に何でもなかったよ。いっしょに魚釣りにいったんだもの」
 Sは腕組みをして、なにかを考えている。
 「ひょっとしたら、言いにくいんだけどさ」
 「なあに」
 「おじいさんの身に、なにか起こっているのかもしれないね」
 「ええっ、どうしてそんなことわかるんだい」
 「俺の親たちがよく言うんだよ。夢の知らせってさ。父は、小さい時に不思議体験したらしいんだ」
 「どんなの」
 「父の祖父が亡くなってしばらくたったある日のことだった。父は寝入ってすぐに夢を見たらしい。見てすぐに、一階に下りてきて夢の内容を家族に話した。枕元に冷たい風が吹いてきたと思ったら、白い着物を来た女の子が現れて、おじいさんはもうこちらへきましたよ。心配しないでと、その子が言ったと、言うんだ」
 「なんだか怖いね。ぞくぞくするな。小さい子って。そういう超能力みたいのがあるのかもね」
 一週間たった。
 母の実家から電話があった。
 「父が危篤だからすぐ帰れ」ということだった。
 
 IがSと再会した。ふたりとも表情が暗い。
 「なあS。俺のじいちゃん、だめだったよ」
 そう言って下を向いた。 
 「そうか。可愛がってくれたものな」
 「遠いけどお葬式に行くんだ。じいちゃんの顔を見て来る」
 「そうだ。しっかり覚えとくんだぜ」
 「うん」
 Iは胸を張って答えた。
 

遺影 その1

 妻が目を覚ました。
 雨戸の隙間から朝陽が差しこんでいる。
 部屋の中が明るくなっている。
 家族は寝静まったままだ。
 夫の靖男が隣で泣いている。
 眠ったままである。
 何かつぶやいている。
 泣き声がしだいに大きくなってくる。
 妻は、悪い夢を見ているんだろう。起こしたほうがいいなと、思った。
 
 布団の上から肩を揺する。
 「おとうさん、おとおさん」
 「ううっ、うう」
 「うん。なんだよう」
 なかなか目が覚めない。
 布団の中で、芋虫のように動きはじめた。
 「うなされてたよ。どうしたの。悪い夢でも見たの」
 夫はようやく頭がすっきりしたのか、上半身を起こした。
 辺りを見回している。
 「ここはどこだ。古い家か」
 目がとろんとしている。
 余程強い印象を受けたんだわ。めづらしい。起きてまで夢の続きの気分でいるわ。あまりかまわないほうがよさそうだわ。静かにしていよう。
 
 もう一度妻は横になり、布団を体にかけた。
 まだ朝早い。食事の支度をするには早すぎる。
 午前四時を少し過ぎたところである。あと一時間ねられる。
 妻は寝息を立てはじめた。
 
 夫は布団を足元までまくり、ベッドから下りた。
 服に着替えている。
 すぐそばで騒がしいのだが、妻は眠ったままだ。
 お茶をいれよう。お線香をあげよう。
 あんな夢を見るんだから。ご先祖様に早速お参りしなくてはなるまい。

手振り地蔵 その1

 山おろしの冷たい風が吹いている。
 サラサラザワザワ。
 ゴツンゴツン。
 こすれ合ったりぶつかりあったり。
 細い枝が揺れる。太い幹がしなる。
 竹林が声を立てる。
 
 村外れの竹林。
 北側に、お地蔵様が六体立っておられる。すぐ前を小道が走っている。
 道のわきを小川が流れている。水は冷たい。
 土手の草は茶に枯れている。
 早く緑になれ。花が咲け。
 お地蔵様が声をかける。
 赤かった帽子や前掛けが色あせている。
 
 小川の向こうは広々とした田んぼだ。
 だれかが歩いてくるのが見える。
 おときばあさまだ。
 手に紙袋を持っている。
 新しい帽子と前掛けが、六人分入っているはずだ。
 杖をついてゆっくり歩いている。
 あわてないでいいからね。こらばないで。
 車に気をつけてください。
 六人で声をそろえる。
 
 「やれやれ、やっと着いたわい。まずは一休みするか」
 はあはあ。息が荒い。
 おばあさん。大丈夫ですか。
 「どっこいしょ」
 立ち上がった。
 袋から持って来たものをとりだす。
 
 「お地蔵様いつもありがとうございます。おかげさまで達者でいられます」
 土ぼこりをタオルでふきとってくださった。
 「これでようがす。今度は身につけていただきましょう」
 ひとりひとり丁寧に赤い物を着せてもらいました。
 見違えるようになりました。
 とても気持ちがいいです。
 
 東側にも同じくらいの幅の道があり、交差点になっちいる。
 凸面鏡はあるが、一角に人家があり、見通しが良くない。
 石塀が視界をさえぎっている。
 たびたび車がぶつかりあう。
 
 ゴーゴー。
 大きな音が時々する。
 南側を電車が通っている。
 雑木林の向こうが茜色に染まっている。
 辺りがしだいにうすぼんやりになっていく。
 丸い大きな火の玉が、山の端に隠れてしまった。
 

狐火 その1

 四月初旬になった。
 里の雪はもう解けている。
 田畑には蒸気がたちこめ、冬の終わりを告げている。
 村はずれのタバイ山はかすんでいる。
 あちこち雪をいただいている。
 キコリの又造は、三の沢沿いの細い山道を登っている。
 雪道である。ザクザク音がする。
 
 タバイの雪が消えりゃ、もうすっかり春なんだが、それまでは山菜をとるのも楽じゃない。こうして歩くのもやっとだわい。まあそれだけに値打ちがあるってもんじゃがの。沢の空気はまだ冬のままだから、冬装備でいなくちゃならん。熊はまだ眠ったままじゃろうから、出会いがしらに襲われる心配はないと思うが、用心するにこしたことはない。気の早いのがいないともかぎらん。鈴を腰に三個ぶらさげている。
 歩くたびにチャリンチャリンと音をたててくれる。
 
 又造は、陽のあたる沢の岸にようやく芽を出しはじめたミズ菜やワラビを摘んでいる。
 春の匂いじゃと、それらを手にとり鼻に近付ける。
 ううん。ようやくタバイも春の装いがはじまったなあ。
 遠くからだと、まるで女の人が横たわっているように見える。
 オンナヤマと呼ばれる由縁である。弥生化粧をしはじめたのだ。
 「おや、これはなんじゃ。何の足跡じゃろうか」
 眼の前に点々と続いている。
 小さなケモノが数匹歩いたようじゃわい。はてさてこれでは熊も起きてるかもしれんて。
 又造は独り言を言っている。
 
 陽が沈んだ。
 山の端が明るくなった。
 今宵は満月である。
 一匹の狐が山頂に姿をあらわした。
 冬の寒さに耐え抜いたフサフサの毛並みをしている。胴くらいに長い立派な尾をしている。
 乳は、張っていない。
 三匹の子狐をようやく寝かしつけた。
 付きを見上げている。
 コーンと、ひと鳴きする。
 枯れ葉を一枚くわえ、じょうずにでんぐり返りをした。
 白い煙が湧く。
 煙が晴れた。
 ひとりの背の高い若い女が出現した。
 細身の体を西陣の着物で包んでいる。髪は芸子風に結っている。
 
 よし、これでいいわ。これなら、酒で酔いのまわった男たち相手なら大丈夫。充分に化かせる。女には気をつけなくてはならないわ。彼女たちには、わたしのシッポが見えるから。
 赤ちゃんにお乳をいっぱい飲ませなくちゃならないのでたいへんだわ。育ち盛りの子供には、たくさんのごちそうを持って帰らないといけない。早めに戻ってこなくちゃならない。
 彼女は歩きだした。
 吐く息が白い。
 走りだしている。
 体が温まってきた。
 息がしだいに赤みを帯びる。
 炎の色に変わった。
 山の中腹に小さな灯りが等間隔に点りだした。
 麓まで続いている。
 
 村里は、もう目の前だ。
 髪型が随分乱れている。
 着物の裾も汚れた。
 よし、ゆっくり走ろう。
 
 狐の姿で走ってきたけれど「人に化ける」ということは、古狐の仲間入りをしたわたしにとっても、なかなか容易なことではないわ。慎重にやらなくちゃ。
 タイミングと、それからちょっとしたコツがある。
 グイッと顎をしゃくった。
 フワッと体が浮かんだ。
 白煙とともに完璧な女性になった。
 これでいいかしら。我ながら感心するわ。どこから見ても八頭身の美人の芸子である。
 シッポだけは出さないように注意しなくちゃ。人間のメスは鋭いからね。
 自分に言いきかせる。
 ここからは、女らしい歩き方でしゃなりしゃなりと行かないとね。 

夢の少女 その1

 姉とは年に二度、盆と正月に逢って話をする。
 私の嫁ぎ先は北海道である。
 特別な理由があれば回数がもっと増えるが、彼女の顔を見るには飛行機で二時間かかる。 
 お互いに還暦をこえた。
 姉は四十代でリュウマチを患い、手や足の指が変形している。
 一日のほとんどをベッドで過ごす。跡取り息子の嫁の世話になっている。
 すまないねえが、口癖になっている。
 西の空に向かって、たびたび祈る。
 
 去年のお盆に帰省した折に、姉はこんな話しをした。
 その夜も節々が痛んでよく眠れないでいたんだけど、そのうちウトウトしはじまったんだと思う。
 夢かなんだかよくわかんないんだけど、小さかったころに通っていた塾の教室にいるのよ。
 教室の中は生徒がいっぱいで、教壇には若い頃の先生が立っていらっしゃる。
 髭を生やし、頭はパンチパーマを結っている。
 こんな時もあったんだと、夢の中のわたしは微笑んでしまう。
 先生はやさしくて、女生徒に人気があったわよね。
 あんたも行ってたんだからわかるでしょ。
 
 そのうち英語の授業が終わったのか、気を付けてなと、先生が言われた。
 みんなが立ちあがって帰り仕度をはじめたんだよ。
 私も教室から出て、踊り場にある棚から、自分の鞄を取り出し筆記用具とテキストをしまった。
 実際には、こんな所に棚はなかったんだけれど、それが夢なんだね。
 その時隣に友だちがいて、誰だかわかんないだけど、ふたりで何かをペチャペちゃおしゃべりしてるの。
 塾に通っていたのは、高校二年生の時だったから、何にでも感動してはあれこれと話が尽きなかったわ。
 教室は先生のご自宅の二階にあったわね。階段を下りる時ぎしぎし音がしたわ。鉄でできていたでしょ。
 降りた所に先生がおられた。私のほうが早く教室を出たわけなんだけどねえ。不思議でしょ。
 先生の正面に先輩のKさんがいる。
 先生は彼女の方を向いて何かを話しこんでおられる。耳を傾けると、どうも髪の毛のことらしい。
 茶髪に染めているうえに、額から耳にかけて、はさみで無理にザックリ切りとられている。
 
 どうしたんだと心配して声をかけている。怒っておられるのではない。
 彼女は訳を言いたくないのか、下をむいたままなんよ。泣きだしそうだったわ。
 ザンバラ髪の理由を私はなぜだか知っていて、彼女の姿があんまり痛々しいので、先生に教えるの。内緒で。
 階下の印刷機の置いてある小部屋を借りてこういう訳ですと、はっきりお伝えしたわ。
 家庭の事情で生活が苦しくなり、学校に通いながらアルバイトをしてるんですって。
 お母さんが働きだしたんだけれど、病気になって寝込んでしまわれた。
 仕方なく娘の彼女が、家計を支えるために働き、疲れ果ててやつれてしまっているのです。
 
 髪の毛のことは信じられないことですけど、わずかの金さえほしくて、買ってくれる人が見つかったので売ってしまったのです。ここまで先生に訴えるように言うと、私は号泣しはじめたの。
 眼の前が見えなくんるくらいに、大粒の涙をこぼしながら、わあわあ声をあげて。
 先輩も一緒になって泣き出したわ。
 先生は、辺りがパアッと明るくなるくらいの笑顔をつくって、わかったわかった。立派だ立派だ。
 ふたりとも、もういいもういい。よくわかったよ。どうしたら助けられるか、先生も一所懸命考えるからね。
 さあもう遅いから帰ろう。 
 そこで目が覚めたのよ。
 痛みをこらえながら、たどたどしく話す姉を見つめていた私は、そっと目を閉じた。

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