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右手で腰のピストルケースをおさえながら、ふたりの警官が足早にやって来た。
「あなたですか。電話してくれたのは」
「はい、そうです」
剛はふたりを現場に案内した。
男はじっとしていた。
「おい」
若手の警官が呼びかけた。
男の体がびくっと動いた。
「縛ったんですか」
「ええ」
「大したものですね」
男はウンウンうなっていたが、観念したのか静かになった。
猿ぐつわと足の縄を解いた。
剛は住所と電話番号を聞かれた。
「あとで連絡しますので、その時はご協力ください」
「わかりました」
剛はホッとした。
これでようやく部屋に帰れる、と思った。
歩道からアパートを見上げた。
騒ぎに気付いて、アパートの灯りがふたつ点いた。
男がふたりヴェランダの手すりに寄りかかって、下を見ている。
S子の部屋は、暗いままである。
連休中は仙台に戻りますって、いってたな。
家が震災の被害を受けたらしい。
手伝いが長引いているんだな。
剛はそう思った。
「立て」
年輩の警官が命令した。
パトカーの後部座席にすわらせる。
ふたりで脇をかためている。
若手がいう。
「帽子を取って。ポケットにあるものを全部出してください」
男はポケットに両手を突っ込んだまま、もじもじしている。
「いまさらじたばたしたってしょうがないでしょ。手につかんでいる物を出しなさい」
クシャクシャになったブラとパンツの二点である。
膝の上に置いた。
写真に撮った。
「午前一時二分、あなたを窃盗容疑で逮捕します」
若手が手錠をかけた。
慣れていないのか、震えている。
男の体も震えだした。
ううううっと嗚咽をもらす。
「後悔先に立たず」
年輩が男を慰めるようにいった。
「はじめからやらなきゃいいんだ。罪は罪。償ってから出直せばいい。余罪があるんだろ。署で洗いざらい話しなさい。楽になるよ」
「おまわりさん、仏さま。どうぞ見逃してください。もうしませんから」
「だめだな。法治国だって知ってるだろ。法を破れば首相だって逮捕だよ」
「ホウチ」
「ホウチじゃない。法治国家」
「車出してくれ」
運転席にいた若手がエンジンをかけた。
「お前なんだか匂うぞ。さては、アレを放出したな」
男の体がちじんだように見えた。
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