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竹林の向こうは、田畑が広がっている。
十戸ばかりのA集落があった。
歴史の一番古いS家に、最近祝い事があった。
長男の哲夫が嫁をもらったのである。
街の織物問屋の娘で、学生時代からの知り合いだったらしい。
嫁入り道具を見た近隣の人々は、その素晴らしさに驚いた。
舅は、息子夫婦のために敷地内に家を建ててやった。
七人家族になった。
新婚旅行から帰ってきた。
数日後の夕方。
茶の間に家族が集まった。
「お父さん、ありがとうございます。そんなに気を遣っていただかなくても、いいですのに。私はご家族と一緒に暮らして行く覚悟でございました。実家が昔風ですので、大勢で住むのは慣れております」
「うむ。そう言ってくれて嬉しい。寝るときくらいは、気兼ねなく、過ごしてほしいと思ってな。家にはまだ嫁入り前の娘もいる。山あり谷ありだ。長い月日には、いろいろあるからな」
舅はまだ還暦前である。府庁の職員を、この春定年退職した。
「お母さん、ふつつかものですが、よろしくご指導ください」
「ええ、ええ。覚えていただきますよ。だんだんにね」
哲夫の祖母が、姑のわきで微笑んでいる。
「よろしくおねがいします」
丁寧に頭をさげた。
「そうか。いい嫁じゃの。良かった良かった。ふたりとも京の人間じゃ。土地にもすぐ慣れてもらえる」
「お姉さんができて、嬉しいわ」
祖母のとなりに、哲夫の妹がすわっている。
ほっそりした体型は、舅ゆずりのようだ。
美人だが、冷たそうな印象を受けた。
新婚夫婦が、連れだって墓詣りをした。
田んぼの畔を歩く。
「ぼっちゃん。おめでとうございます」
苗を植えている男が言った。
「はい。ありがとう。忙しいですね」
北の方は山が連なる。一番左が小倉山だ。
「大昔は、本当にさびしいところだったらしい。あだし野っていう名を知ってるだろ。千年以上も前は、遺体を地面に埋めなかったらしい」
「古典に出てくるわ。それじゃ。カラスたちが大騒ぎでしょう」
「残酷な光景だった。空海さまが見かねて、土にかえすようにと、おっしゃたようだ」
「太古の人が、死ぬことをどんなふうに考えていたのか、分かるような気がするわ」
「魂の存在が、今よりもはっきりと、人々の間で信じられていたようだね。生きすだま、って、真理子知ってる」
「知らないわ」
「生きている人間からその魂がぬけ出て、憎いと感じている相手にまとわりついたりすると考えられていたのさ」
「とってもこわい世界だったのね」
「物の怪、魑魅魍魎、幽霊、生きすだまがうろつきまわると信じられていた。祈祷師がたくさんいたんだ」
「科学が進歩していなかったんだもの。しかたないわ」
「現代人よりも、自然に対して恐れを抱いて暮らしていたんだ。ある意味でそれは正しかったと思う」
「そうね。自然が一番よ。台風や地震。今だって人はそれを止められないもの」
小道に出た。
向こうに竹藪が見える。
「お墓はもうすぐだよ」
墓地で一番大きな造りだった。
線香に火をつける。
水を墓石に頭からかけた。
両手を合わせておがんだ。
「マリ、念仏寺に寄って行こうか」
「ええ。なんかこわいわ。でも行きたい」
竹林を通る。
タケノコ取りをしている人に行きあった。
鍬のような物で、掘り起こしている。
「簡単なものじゃないのね。食べるとおいしいけど」
「そうだよ。根っこなんだもの。この季節には欠かせない材料だ」
奥の深い竹林であった。
雑木の林が続いている。
真理子の視界の隅に、一軒のひなびた家が映った。
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