日記

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お茶ですよ。

 階下で、S子の声がする。
 「あなたあ。お茶がはいりましたよう」
 「おおい。わかった」
 夫のМは、すぐにおりて行かない。
 pcの前にすわりつづけている。
 
 「あなたあ。聞こえないのう」
 Мは、夢中で物語を描いている。
 妻の声が、邪魔だなと思っている。
 「あたしのこと無視するの。ご飯つくってあげないわよ」
 痛いところをついてくる。
 さすがは長年の付き合いだ。
 
 Мは、おしまいのクリックを押した。
 「あなたあ。これが最後のよびかけよう」
 「はあい。今やめましたあ」
 「あらそう。よかった。おりていらっしゃい」
 どんどんどん。
 どしんと、一階にМの両足が着いた。
 
 S子は、居間でテレビを見ながらお茶を飲んでいる。
 「はい、どうぞ」
 「ありがと」
 「あたしが最初に声をかけてから、どのくらい時間がたったでしょうねえ。あんたが降りてくるまで」
 「ごめん、ごめん」
 「お話を描いていたもので」
 「まあいいけど」
 「ありがとう。不思議なくらいだよ」
 「何が」
 「こんなにお話が描けるようになるなんてさ」
 「この三カ月毎日がんばっていたものね」
 「うん」
 「あんたにはそんな才能が隠れていたのね」
 「おれだってわかんなかったよ」
 
 S子がお茶をつぎたした。
 「ほんというとね。あたしさびしいのよ」
 「ああっ、正直だね」
 「今度あたしが呼んだらもっと早くおりてきてね」
 「はい。わかりました。あなたさまのことを大切にいたします」
 「わかったら、それでよろしい」
 S子は、せんべいを二つに割った。
 半分をМに渡した。
 
 

狐の一言

 雪柳 ふくらむ陰で 狐去り
 
 かつさんや藻遊さんのようなわけにはいきませんが、一句捻りたくなりました。
 先ほど家の庭先で、一匹の狐を見たのです。
 七時頃です。
 辺りは暗くて何も見えません。
 用事をすませ、家に帰る途中です。
 庭に車を乗り入れたところでした。
 軽トラックのライトに何者かが照らされました。
 前を横切りました。
 初めは犬だと思いました。
 おとなの犬くらいの大きさです。
 やや黒っぽい茶の毛並みでした。
 たいそう身軽で、しっぽがとても長かったのです。
 顔は見せてくれませんでした。
 
 一瞬のできごとでした。
 私の好きな動物に違いないと思いました。
 お礼を言うために来てくれたんだと感じました。
 「われわれのことをそれほど心配してくれているのか、どうもありがとう」
 庭と田んぼの間に小さな堀があります。
 ひょいと跳びこえて行きました。
 すぐに戻りました。
 姿はどこにもありません。
 目をこすってよく見ました。
 見当たりません。
 犬はこのように早く走れません。
 小説狐火の女狐を想いました。
 ゲイコに化けたあの狐が、裏山に住む生身の狐に連絡したのかと、思いました。
 キツネ通信で。
 「けっさん宅に行ってくれ」
 
 「狐火」を書き終えました。
 ほっと一息いれているところです。
 今日は街の図書館にでかけました。
 小説を何冊か手にとって、飛ばし読みをしました。
 何事も初心者は大変です。
 得るものがないかと右往左往しています。
 新聞にも目をとおします。
 
 気になる記事を見つけました。
 狐の数が最近少なくなったということです。
 代わりにイノシシが増えたというのです。
 悲しくなりました。
 拙著狐火に登場する女狐のことを思いました。
 山では狐が元気に以前と同様に暮らしているものと思っていたのです。
 もっと残念なことが書かれていました。
 ある所で、ミイラになった狐の遺体が発見されました。
 調査によると、その狐はラーメンを食べていたことがわかりました。
 
 狐は雑食です。
 ほとんどは山の幸です。私の家の裏山で最近彼らを見かけないのです。
 気になっていました。
 最後に見たのが約二十年前です。
 立派な狐でした。
 人を化かせるんだと言っても皆さんは、きっと信じてくださるでしよう。
 狐はウリボウを食べます。イノシシの子供です。
 この頃イノシシが裏山に出没して畑を荒らすようになりました。
 この十年余りのことです。
 このことからも狐が少なくなってしまったことが分かります。
 私は狐が好きです。タヌキより近寄りがたい存在です。
 狐にとっても、住みにくい世の中になっているようですね。
 
 いやがる父にむりやり教えてもらいました。
 幼い頃のクリスマスの夜のことを。
 関西弁で話します。
 分かりにくいところがあると思います。
 
 昭和三十年代のことやから、今のように物はぎょうさんあらへん。
 おやじの給料が数千円やった。せやけどおふくろは、
 なんとかして子供たちを喜ばしてやろと思ったんやろな。
 借家住まいで部屋の数が少ないし、冬の夜やから盆地のせいかほんまに寒かったで。
 お風呂は親戚のおじさんのところでもろて、帰ったらすぐにふとんにもぐりこむんや。
 ストーブはあらへん。火鉢に炭がいこっているだけや。
 手は温まるけど、体全体を温めることはでけへん。
 うまいケーキなんか、当時はなかなか庶民の口には入らへんかった。
 パーテーなど夢みたいや。
 五十年、いやもっと前やったかな。よう覚えとるんやから、よっぽどうれしかったんやろな。
 布団を頭からかぶって、枕元をじっとみてたんや。
 おふくろがキャラメルやお菓子をいつもはいてる靴下の中に入れてるんや。
 あっサンタさんって母ちゃんのことやったんや。
 その時からずっと思うようになったんや。
 それまでは、うちには煙突がない。せやからサンタさんが入ってこれへん。
 そんなとこ抜けてきたら、えらいこっちゃ、体中が真っ黒になる。
 本気で心配したもんやったで。
 
 父を尊重して方言で書き記しました。

どんど焼

 「米良し実良し大豆も小豆もよく当たれ、まゆ玉やあきがきいました」
 
 子供たちの元気のいい声が玄関先で響きます。
 旧年中の役割を終えた縁起物を回収します。
 今日はどんど焼です。
 
 子供にとってはお年玉がもうひとつ増えるうれしい日です。
 昔から続いている村の行事です。
 最近はとりごや作りに大人が加わります。子供が少なくなりました。
 以前は子だくさんの家庭が多かったので、村中どこへ行っても子供たちの声が聞こえました。
 ダマシ小屋は子供が作ります。大きなほうは大人が作ります。
 どちらの小屋も一本の太い竹が支えます。先におおきなだるまを付けます。
 まるであたりをにらむかのようです。 
 
 一月八日の夕方午後五時半。会場に行ってみました。辺りは薄暗く星が瞬いています。
 あまりにきれいなので、しばらく星座を観察していました。すーと視界を流れ星が横切ります。
 冬の空は空気が澄んでいます。火の球になって尾を引きながら一瞬で消えました。
 願い事をひとつしました。
 
 「こさやんのおじちゃん、とりごや手伝っておくれ」
 「おうよしよし。アンコになるものを用意したかい」
 「うん。一か月前から、おんののの父ちゃんや近所の男衆が、みんなで笹や竹をそろえてくれました」
 「そうか。それじゃ始めようか。目をついたり手にケガせんようにのう」
 二時間ばかりかかったでしょうか。ダマシ小屋が完成しました。
 「おおい。さつまいもがふけたぞう。みんなで食べろや」
 ザルに山盛りにして、奥さんのおタカさんがやって来ました。
 子供たちは大喜びです。
 可愛い手を真っ赤にしてほうばります。
 
 こさやんは、僕の曽祖父です。部落の子供たちの人気者でした。
 よく相撲をとりました。今でも床の間に行司が持つウチワが飾られています。
 今から七十年前です。家は藁ぶき屋根でした。
 祖父は、二十数年前に亡くなりました。彼の長男です。
 「父は酒が好きだった」と、よく言っていました。
 「お前に似た顔をしていたよ」と、不思議なことも言われました。
 先日隣のHさんと話す機会がありました。いろいろと昔のことを教わりました。
 そこに、こさやんが登場したのです。「いろいろ世話になったんだ」と、おっしゃいました。
 逢ったことのない曽祖父が、とても身近に感じられました。
 

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