愛の物語

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いやしの姫 その25

 「何か用なの、こんなに朝早く。あわてて
おりて来ちゃったよ。こんな格好でごめん」
 陽一は、スリッパをはいている。
 パジャマのズボンの片方が、膝までめくれ
あがっていた。
 「わたしこそ、急に来ちゃってごめんね」
 それだけ言うと、ふたりはだまった。
 悠子は、陽一の瞳をじっと見つめた。
 何か言わなくてはと、陽一は必死に言葉を
さがした。
 「あっあのさあ」
 「思っていてくれたんだ、私のことを」
 悠子の目に、涙がにじんだ。
 陽一は、恥ずかしそうにうつむいた。
 「ようちゃん、顔をあげて」
 涙が、頬を伝って流れている。
 陽一は、
 「そうだよ。ゆうちゃんが好きなんだ」
 と、男らしく答えた。
 「邪魔されてたらしいわね」
 「悠子に近づくなって、言われたこともある」
 「まあ、ひどい。だれが言ったの」
 「サチさ」
 「なるほどね。これでわかったわ」
 「ずいぶん色んなこと知ってるね。誰から
聞いたの」
 「今は。言えないけど。そのうち教えるわ」
 「誰だっていいけど、その人、キューピットだ」
 悠子は微笑んで、
 「ほんと、そうね」
 と言った。
 「とてもうれしいよ。まさか来てくれるなんて
夢にも思わなかったもの」
 角を曲がって、陽一の母が自転車に乗って
現われた。
 「あら、よういち。そこで何してるの」
 と、声をかけた。
 十メートルくらい離れている。
 「じゃあ、あたし行くわね」
 「うん、学校でね」
 母が陽一のそばに来た。
 「そんな恰好で。女の子としゃべってたんだ。
あの子、誰なの」
 「クラスの友達」
 「まあ、あんたもすみにおけないわね」
 と、陽一の肩をぽんとたたいた。 
 了 
 
 
 
 
 

いやしの姫 その24

 悠子は、次の日朝早く起き、ひとりで朝食を
すました。
 台所にパンの焦げたにおいが、漂っている。
 「どうしたの、ゆうこ。早すぎるんじゃない」
 起きたばかりの母が言った。
 悠子は、どきりとしたが、
 「ちょっと用があるのよ、学校で」
 と、言いつくろった。
 「ふううん。めづらしいわね」
 悠子の顔を、じろじろ見た。
 「何よ、母さん。あたしだって、もう大人よ」
 「あら、そうだったわね、ごめんなさい」
 母は、歯ブラシを口にくわえて話していた。
 声が聞き取りにくかった。
 口をゆすごうと、洗面所に戻っていった。
 悠子は、腕時計を見た。
 早く家をでなくては、陽一に逢えなくなる。
 夕べは、陽一のことを考えて、よく眠れな
かった。彼の気持ちがわかったからには、
なんとしても、自分の気持ちを早く伝えたい
と思った。
 陽一は、最近休みが多い。
 無理もない。
 いじめられてばかりだからだ。
 学校に来るかどうかわからないが、家の近
くまで、出かけることにした。
 自転車をとばした。
 五分後。
 家のまわりに、人影はない。
 物陰にかくれて、家の二階を見あげた。
 二階が子供部屋だ、と思った。
 窓のカーテンは、閉まっている。
 十分だけ、待ってみることにした。
 三毛猫が寄ってきて、足元にからみついた。
 しゃがんで、猫を抱きあげようとすると、玄関で、
ガラガラと音がした。
 買い物かごをさげた女の人が出てきた。
 みゃあと鳴きながら、猫は走って行った。
 彼女は、猫を抱きあげると、ほほずりした。
 陽一のお母さんに、ちがいなかった。
 自転車を乗りだして行く。
 門をでて、路地を左にまがった。
 ふいに、二階のカーテンが開いた。
 よういちくん。ようちゃん。
 心の中で、さけんでみた。
 目が覚めたばかりのような陽一の顔が、
のぞいた。
 悠子は、両手をふった。 
 陽一は、急に窓をしめた。
 姿が、見えたはずだわ。
 悠子は、心の中で言った。
 何らかの意思表示をしてくれると思った。
 十分が、とっくに過ぎていた。
 急がないと、学校に遅れてしまう。
 悠子は、がっかりした表情で自転車を押し
はじめた。
 角をまがると、陽一が、パジャマ姿で、立っ
ていた。
 
 
 
 
 

いやしの姫 その23

 悠子は、ジャージを着た子が気になって
しかたがない。
 「先輩、ほんと、その子。誰なんですか」
 悠子が前に顔をだすと、後ろにひっこむ
素振りを見せた。
 笑顔をたやさない。
 見ているだけで、心が暖まる。
 身体は大きいが、まるで三歳児のようだ。
 「しかたないわね。教えてあげる。ちょっと
耳をかして」
 百合子の口元に、右の耳を近づけた。
 「実はね、・・・・・・」
 「ええっ。ほんとですか。さっきのお人形さん」
 「世の中には、時々、信じられないことが起
こるものよ」
 「小さい頃から、いっぱい人形をだいてきま
した。たまには、怒って振り回したり、放り投
げたりしたことがありました。その度に、母に
叱られました。お人形、痛いって言ってるわよ、
って。大きくなるにつれて、どの人形にも、作っ
た人の気持ちがこもっていると思って、大事に
あつかうようになりました」
 「私だって、同じようだったわ」
 放送室のケースに入った人形。
 髪が長く、着物を身に付けていた。
 今にも、口をききそうに思えた。
 怖いくらいに、よく出来ていたのを、悠子は
思いだした。
 「こ・ん・に・ち・は」
 百合子の口がこわばり、言葉がたどたどし
くなった。
 驚いた表情で、悠子は次の言葉を待った。
 「よういちくん、かわいそう」
 少しなめらかな口調になってきた。
 「ええ」
 と、言わずにはいられなかった。
 「かんがえてあげてね。どんなにじゃまされ、
いじめられても、あなたのことを、おもいつづ
けているの」
 ひとつひとつの言葉に、心がこもっているのが
わかった。
 言霊がとりついていた。
 「よくわかりました」
 と、悠子は答えた。
 
 
 

いやしの姫 その22

 「土手にもどりましょ」
 百合子が、さそった。
 着ものを身に付けた人形が、百合子がすわっていたところに、横たわっていた。
 「あら、このお人形」
 悠子が抱きあげた。
 頭の先から、足の先までみつめた。
 「ひょっとしたら、放送室に置いてあるものじゃないかしら」
 百合子は、だまったままでいる。
 これから何がはじまるのだろう、と胸がどきどきしていた。
 「ゆうこちゃん、その人形、私にかして。とにかくすわりましょう」
 「はい、先輩」
 悠子は、百合子の左側にすわった。
 人形が気になって、しかたがない。
 百合子は、人形を自分の右側においた。
 人形はあたたかかった。まるで血が通っているようだ。
 何かが起きる前触れにちがいない、と思った。
 知らない顔をしている方がいいと考えた。
 「悠子ちゃん、同じクラスに陽一くんって、男の子がいるでしょ」
 百合子は、本論にはいった。
 「ええ。とってもおとなしい子ですよ」
 「今度のことは、陽一くんとあなたのことが原因なのよ」
 「何でしょうね、一体」
 「私と陽一君は、今まで話をしたこともありませんのに」
 「あなたは、特別、彼に興味はないの」
 「ええ。彼が、私を見る目が気になりはしますが」
 「そうよね。それは、感じるでしょ」
 「はい。女ですから」
 「好意をもってくれているのが、わかるでしょ」
 「ええ、うれしいです」
 「それでいいのよ」
 百合子は、誰かが右側にすわっている気がした。
 もぞもぞ、何かが動いていたのだ。
 ちらっと見た。
 青いジャージを着た人形姫が、ほほえみながらすわっていた。
 こくりと、頭をさげた。
 百合子は、力づよい応援を得た気がして、言葉をつづけた。
 「美知の手下が、あなたのクラスにいるの」
 「ええ、だいたい見当がつきます」
 「その子が、あなたにやきもちをやいているの」
 「そんなことって」
 「あるのよ。わかるでしょ」
 「女ですから、なんとなく。あの子、いいな、くらいは思います。でも、邪魔立てするなんて、
とても許せないわ」
 と、百合子の顔を見て、言った。
 悠子の色白の肌が紅くそまった。
 青いジャージの子が、百合子のわきにいるのに気づいた。
 
 

いやしの姫 その21

 ある日の土曜日の午後。
 百合子は、校門の外にいた。
 陽一の想いを、悠子に伝えるためだった。
 女は女同士だ。
 女の気持ちは、女でなくてはわからないところがある。
 悠子が、校門を通り過ぎるのを、待った。
 私服姿である。
 三年生は、部活動が、夏休みをさかいにして終わっていた。
 校門の道の向こうに、川が流れている。
 川岸にたたずんで、百合子は、色づきはじめた山を眺めていた。
 お山はこんなにきれいなのに。どうして人は、人をいじめるのかしら。
 人の心って、一体どうなってるのだろう。
 百合子の脳裏に、ものがなしい旋律が浮かんできた。
 悠子が、自転車に乗ってやってきた。
 校門を通りすぎたところで、右に曲がった。
 百合子が、大きな声をかけた。
 「なかつさあん。ゆうこさあん」
 悠子は、自転車をとめた。
 あたりを見まわしている。
 百合子をみとめたが、今までに話したことがない。
 先輩でもあった。
 返事をするのを、ためらった。
 「ゆうこさんでしょ」
 近づいて来た百合子に、思わずうなずいた。
 「そうですが、先輩、私に何かご用でしょうか」
 「話があるのよ。ちょっとこっちへ来てちょうだい」
 ピアノのじょうずな人だとは、知っている。
 ほかのことは何も知らないが、優しそうに感じた。
 悠子は、美知たちにつけまわされて、うんざりする毎日を過ごしてきた。
 とても不愉快な気持ちでいた。
 そのせいで、人を見る目が養われてきた。
 土手の草の上に、ならんですわった。
 「呼びとめて、ごめんね。ちょっとお話したいことがあって」
 「何でしょう」
 悠子は、不安な表情になった。
 長い髪を、手でいじっている。
 「すてきなことだから、心配しないで。ほら、見て。紅葉が始まったわ」
 「ほんとですね。ちっとも気づきませんでした」
 「ねえ、あたし、いじめられて、すごく落ち込んだことがあるの」
 「先輩が、ですか」
 「ええ。ほら、ピアノをみんなの前で弾いたりするでしょ。それが気にいらない人がいるってわけ」
 「なるほど。わかります」
 「私もです。最近、廊下を歩いていると、邪魔をされたりするんですよ。理由はよくわからない
んですが」
 「知ってるのよ、その訳を。私、ある人から聞いたの」
 「ええっ。そうなんですか」
 「その訳を知りたいと思わないこと」
 「はい。知りたいです。とっても」
 女生徒の一団が、校門からでてきた。
 何かの話をしては、きゃあきゃあ叫んでいる。
 美知が先頭だった。
 「あっ、悠子ちゃん。ちょっとこっちへ来て」
 木陰に場所を移した。
 悠子も美知がどんな先輩かを、知っているようだった。
 彼女たちが通りすぎるのを待った。
 「なんだか面白いわね。わたしたち」
 「ええ。仲間みたいですね」
 ふたりで顔を見合わせて、微笑んだ。
 
 
 
 
 
  
 
 

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