愛の物語

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いやしの姫 その20

 「ああ、こわかった」
 陽一は、声にだした。
 そのあたりに鬼がひそんでいるのではない
か、と見まわしたほどだった。
 ひたいに冷や汗をかいている。
 このままじゃ、ずっと学校にいけなくなるなと
陽一は思う。
 夢にでてきたあの人形。
 水戸黄門だ、と冗談を言ったおじさんが話し
ていたものかもしれない。
 人形が燃えさかるように輝いた時、鬼たちが、
びっくりしたような表情をしていた。
 鬼とは、美知。
 子供たちは、彼女の手下だ。 
 夢が現実を映すものだとしたら、そういうこと
になる。この苦しい場面を脱出するにはどうし
たらいいか、と陽一は、懸命に考えた。
 先生に言いつけたら、よけいにいじめがひど
くなる。多勢に無勢だ。
 駄目でもともとだ、と陽一は腹をくくった。
 Mの言うことを、信じることにした。
 だが・・・・・・。
 簡単には、放送室には入れない。
 今度、夢のなかに現われたら、助けてくだ
さい、と頼んでみることにした。
 翌日は、登校できた。
 美知の態度は相変わらずだったが、手下の
動きがにぶいように感じた。
 昼休みに、体育館に入った。
 三年生の百合子さんが、ピアノを弾いていた。
 四人の女の子が、彼女のそばで演奏を聴い
ている。
 陽一は、体育館の入り口で壁にもたれてす
わった。すさんだ心が、いやされて行くのがわ
かった。
 陽一は、気持ちが良くなってきた。
 目がとろんとしてきて、
 「おかあさん」
 と、つぶやいた。 
 ピアノの音が突然やんだ。
 「ねえ、あの子。見て」
 百合子が体育館の片隅を指さした。
 みゆきが、ふりむいた。
 彼女は、この間まで美知の手下だった。
 岩上教頭のおかげで、心をあらためたのだ。
 「あんなところですわりこんで、一体何をして
いるのかしら」
 みゆきは心配した。 
 「あたし、見て来るわ」
 ほかの三人と連れだって、ステージを降りた。
 みゆきが陽一の肩を揺すったが、起きない。
 「下級生だわ。どうしたのかしらね」
 「よほど疲れているんだわ」 
 みゆきが、声をかけた。
 「ねえ、ねえ、あたしは、人形よ」
 口をついてでてきた言葉に、みゆき自身が
驚いた。
 「ええっ。今何て言ったの」
 「あたしだって、自分で自分がわからない
のよ」
 女の子たちがざわめいた。
 「もう一度話しかけて」
 いつの間にか、百合子がそばにいた。
 「うん、やってみる」
 みゆきがしゃがんで、口を開いた。
 「ようちゃん、ようちゃん。おきて」
 陽一が、目をぱっちりとあけた。
 みゆきがつづけた。
 「ゆりちゃんに、たのむのよ。いじめられてい
るから、助けてって」
 陽一は、自分の頬を、思いきりつねった。
 ピンと張った糸が、切れそうになっていた。
 青色のカーテンが、朝日に照らされている。
 午前八時。
 陽一は、まだベッドにいる。
 学校へ行くのなら、とっくに起きていなけれ
ばならない時刻だ。
 「よういち、どうするの。じかんよお」
 階下から、何度もママの金切り声が聞こえ
ていた。 
 頭のなかが、もやもやしている。
 おなかが、痛くなってきた。
 そうとう神経がまいっているんだ。あんなに
奴らにいじめられるんだもの。
 ママが、あがってきた。
 ドンドン。
 ドアをたたいた。
 「ようちゃん、学校、どうするの」
 「おなかが痛くて、我慢できないんだよ」
 「しょうがないわねえ。連絡しとこうか」
 「うん、あしたは行けると思うから」
 「ママは、仕事に出かけるけど、ご飯の用意は
してあるからね。気分が良くなったら、食べなさい」
 「ありがとう」
 陽一は、ほっとした。
 また、眠りについた。
 夢をみた。
 家の近くの林の中に一軒の古い屋敷があった。
 あばら家である。
 雨どいが壊れて、たれ下がっている。
 つる草が壁をつたわって、家をおおっていた。
 真っ暗な夜道を、陽一が懐中電灯の明かりを
たよりに、その家を訪ねていくところだ。
 昼間みた家とは、趣が違った。
 立派なお屋敷である。
 玄関をあけると、女中がでてきた。
 応接間に通された。
 しばらく待っていると、奥さんがあらわれ、
 「ちょっとこちらへ」
 と、さそう。
 あとについて行った。
 台所に子供たちがいた。
 数えてみると、十人いる。
 出されたごちそうをいっしょに食べることになったが、
なぜか、陽一の前には、からの皿があるだけだった。
 ほかの子供の前には、ごちそうが山盛りだ。
 奥さんがわきに来て、
 「あなたは、どうして食べないの」
 と、きく。
 だって、何もないもの、といいたかったが、なぜだか
言えない。 
 「さあ、今夜のとびきりのごちそうよ」
 奥さんが、両手で、陽一のからだを持ち上げ、まな板
の上にのせた。
 すごい力だ。
 子供たちが、服を脱がしにかかった。
 目をみひらいて、まわりを見た。
 家族が、すべて鬼に変身していた。
 口のなかが見える。
 とがった歯だ。
 よだれをたらしている。
 舌なめずりをしている。
 べちゃべちゃ、音がした。
 子供たちが、陽一のからだをおさえた。
 赤鬼が、包丁を振りかざした。
 台所の食器棚の上に、着物姿の人形が見えた。
 燃えるように、光りを放っていた。
 はあはあはあ。
 息使いの荒さに驚いて、陽一は目がさめた。
 
 
 
 
 
 

いやしの姫 その18

 サチの嫌がらせは、つのる一方だった。
 教室の中で、陽一が悠子の前に立った
だけでも、その間にサチの仲間が立って、
邪魔をした。
 サチの息のかかった連中はどこにでもいた。
 陽一は、授業がおわり、廊下にでた。
 トイレに行くところだ。。
 サチの手下は、女だけではない。
 用を足している時、となりの男が、
 「よう、いい男」
 と、冷やかした。
 上から、陽一のからだをのぞきこんだ。
 「おれのより、ちいせえな」
 陽一は腹が立ったが、自分をおさえた。
 相手の魂胆がわかったからだ。
 ケンカをふっかけている。
 陽一よりも、一歳年下のDだった。
 からだは、陽一よりもでかい。
 腕っ節も強そうだ。
 サチは、何としてでも、陽一に悠子をあき
らめさせようとしていた。
 挑発にのらずに、無事トイレからでてきた。
 廊下にでたところで、陽一は、足をひっか
けられた。
 前のめりになって、転んだ。
 今度は、女だった。
 同級生ではない。
 両肘をついて、廊下に、はいつくばった。
 「なっ、何をする」
 廊下にでて、おしゃべりしていたクラスの女
子生徒が、集まってきた。
 「ようちゃん、大丈夫。あんた、どうしてそん
なこと、するのよ」
 足をかけた女の子に、抗議してくれた。
 陽一はおとなしいが、真面目にクラスの役
目をこなす。
 女の子の評判はいい。
 その中に、悠子はいなかった。
 陽一のそばに来たくても、当然ながら、邪
魔されていたのだ。
 陽一は、わき上がって来る怒りをしずめよ
うと、必死だ。
 「オーライ、オーライ。ドンマイ、ドンマイ」
 自分に向かって、エールを送った。
 決して、いじめた相手に、手をあげるような
ことはしない。
 えらいぞ、陽一。
 辛抱が肝心だ。
 今に見ていろ、と心の中で叫んだ。
 
 

いやしの姫 その17

 「どうしたんだ。大丈夫か」
 Mは、少し離れたところから声をかけた。
 陽一は、まともに顔をあげられないでいる。
 目のまわりがずきずきした。
 手を当てると、熱い。
 ドーナツ型に赤くはれているだろう。
 女にやられたんだ。
 恥ずかしくて、しょうがない。
 立ちあがって、自転車をおこした。
 「今は、どういうわけか、男も女もない時代
だよな。おじさんがきみくらいの年には、考え
もしなかった事がおこっている」
 Mは、相手の気持ちを考えて、話した。
 陽一は、急いでその場を立ち去ろうとした。
 「ちょっと、待って」
 「何ですか」
 「おじさんは、ただのおじさんじゃないんだ」
 陽一は、首をかしげた。
 「どういうことですか」
 「水戸のご老公なんだ」
 陽一が、笑った。
 「どうして笑う」
 「だって、それって、テレビの番組でしょ。う
ちのばあちゃんが、良く見てますよ」
 Mは、少年に近づいた。
 「あっ、そばに来ないで」
 「ごめん、ごめん。顔を叩かれたからな」
 陽一が、こくりと、頭をたれた。
 「ちょっと見せてみな」
 素直に顔を突きだした。
 陽一の頭や首のまわりを、念入りに見た。
 「目のあたりは、湿布をした方がいいな。どう
する。うちへ帰るか。学校で手当てしてもらう
のは、いやだろう」
 「はい」
 「おじさんは、夜に体育館で鍵の開け閉めを
しているんじゃ。社会人がスポーツを楽しんで
いるんでな」
 「へえ」
 「教頭先生と、時々、話をするんだ」
 陽一の表情が、暗くなった。
 「おじさん、お願いだから、教頭先生に
言わないでくださいね」
 「そうだな。いじめがひどくなるものな」
 陽一がうなずいた。
 「わかるよ、きみの気持ちは。そうだ、いい
ことがある。放送室をしっとるか」
 「はい。それが何か」
 「ケースに入った人形があるだろう」
 「あったように思います」
 「今度、そこに入る機会があったら、その人
形に願い事をするといい」
 「何でも聞き入れてくれるんですか」
 「不思議な体験をしたんだよ。よほどじゃない
と他人に話さないんだけどな」
 Mは、わざと低い声で言った。
 「なんだか漫画の世界みたい」
 「漫画だっていいだろ。悩みが解決するんだ
から」
 陽一は、白い歯を見せて笑った。
 「やってみます」
 「他人にもらすんじゃないぞ。効き目がなくな
るからな。じゃあな、またあおう」
 Mは、口と目を使って、大げさにウインクして
みせた。  
 
 
 
 
 

いやしの姫 その16

 中学校の北側に道路が走っている。
 前は、一面の田んぼだ。
 刈り取りを待つばかりになった稲が、風に
そよいでいる。
 中学生が三人、道端でもめている。
 女がふたり、男がひとりだ。
 女のひとりは、サチだ。
 男の子は、路上にすわりこんでいる。
 自分でころがったのか倒されたのか、わか
らない。
 両手をついて、からだを支えている。
 わきに、自転車が横倒しになっている。
 運動場からは、見えにくい。
 桜がフェンスのわきに縦に植えられている。
 高さが、五メートルくらいに育っている。
 サチが、叫んでいる。
 「おめえ、なんで悠子ばっかり見つめている
んだ」
 「なんでって、言っても」
 「隣に、俺がすわっているんだぞ」
 「おれ、おれって」
 「悪いか、おれって言って」
 陽一は、サチの剣幕にたじろいでいる。
 じりじりと、あとずさっていく。
 後ろに、ユキがいる。
 陽一の背中を、両足でおさえた。
 サチは、しゃべればしゃべるほど、怒りが高ま
ってくる。
 まるで弱いものいじめをしているようだ。
 先日、百合子のことで、仲間とともに、岩
上教頭にしぼられたばかりだ。
 いわば、やつあたりである。
 陽一は、クラスの中でも、一番おとなしい。
 めったに自分から手をあげて発言しようと
はしない。ネクラな奴と言われてきた。
 二年生になって、口のまわりに髭が生えて
きた。声変りもはじまった。
 陽一にも、春が来たのだ。
 悠子は、初恋の相手だ。
 ひそかに、恋焦がれている。
 彼女を見かけても、声をかけられない。
 じっと見つめるだけであった。
 そばにいるだけでも、胸がときめいた。
 サチが、たたみかけた。
 「好きなんだろ。悠子を呼んで来てやろうか」
 陽一は、手を横にふって、
 「そんなこと、するなよ」
 と、むきになった。
 「おおっ、こいつ。たてついたぞ。面白い。
ちょっとかわいがってやれ」
 ゆきに命じた。
 ユキは、髪の毛をつかんでひっぱった。
 サチが横面をひとつ、パチンとたたいた。
 「そんなことされても、いやなものはいやだ」
 「おおっ、根性あるな」
 サチが、顔面にパンチをくらわした。
 Mが、自転車で通りかかった。
 「おい、何してる。乱暴はよせ」
 サチが逃げ出した。
 ユキもあとに続いた。
 
 
 
 
 
 
 

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