愛の物語

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 森の中で、メイは両親と対面した。 
 更地になっている場所に、両親が乗って来た飛行船がある。
 木の葉から、しずくが垂れている。
 昨夜から雨が降っていた。
 今朝早くあがったばかりだった。
 森の動物たちが、更地を囲んでいる。
 二十一年ぶりの再会だった。
 ママとパパは、老いていた。
 だが、気持ちは、充実している。
 メイの元気な姿が、ふたりを幸せにした。
 輝くような美しさだ。
 彼女のわきに、Sさん夫妻が立っている。 
 ジュンもいた。
 彼の肩に、フクロウに化けた父がとまっている。
 「大変なご苦労をお掛けいたしました」
 メイの父が、お礼を言った。
 「いえいえ。私どもは、楽しませていただきました。この子が来てくれたお陰で、どれほど幸福になったかわかりません。ありがとうございました」
 メイの母が言った。
 「とんでもありませんわ。感謝するのは、私どものほうです」
 メイはこらえきれずに、ママに抱きついた。
 みんなが喜びにわいた。
 「母さん、あたし、ここにいてもいいかしら」
 メイは、遠慮ぶかげに言った。
 パパとママは、顔を見合わせた。
 にっこり笑った。
 「そう言われると思っていたんだ」
 パパが断言した。
 「いいさ、メイ。こんなに良いお友達がいるんだ。ここにいるといいよ。お前だって働きはじめたんだ。もう大人
だ。私たちが、あれこれと、指図することではない」
 メイは、パパに抱きついて頬ずりした。
 パパは、よろけそうになった。
 「おいおい。こんなにお前は大きくなったんだ。ちょっとは手加減してくれよ」
 みんなが、大笑いした。
 「私たちは、月に帰ります。しばらくは、基地にいて、X星が落ち着くのを待って、故郷に帰ることにします」
 Sさんは、うなずいた。
 「メイをお願いします」
 ママは、Eさんに近づいて、彼女を抱きしめた。
 「わかりました。大切なお子さんです。大事にいたします」
 Eさんは、心からの言葉を口にした。
 「時々訪ねてきますから。よろしくお願いします」
 ふたりを乗せた飛行船は、垂直に上昇していく。
 翼を二回、上下に振った。
 空のかなたにのぼって行って、見えなくなってしまった。
 了
 三年たった。
 ルークは、必死になって、メイを探していた。
 地球乗っ取りを図る悪魔にとって、唯一の邪魔ものであった。
 「ルーク、メイは見つかったか」
 X星にいるY星人の大統領から、頻繁に連絡が入った。
 「すみません。それがまだなんです。私が開発した機械で、居所をつかもうとするのですが、いつも最後の場面
で画像がぼやけてしまって。なんとも申し訳ありません」 
 「成人して以前よりパワーアップしている。メイがいる限り、地球に大挙して押し寄せることはできん」
 「はい。わかりました。全力をあげます」
 ルークは、人の心を奪うことができた。
 洗礼を受けた人々を、邪悪な道に導いた。
 自分の家や天文台に連れてきた。
 彼の言葉には、悪意がこめられていた。
 彼の話を聴いたとたんに、人が変わってしまうのだった。
 互いにののしりあったり、暴力を使いはじめたりするのだった。
 神を恐れぬ行為であった。
 神が、ご存じないはずは、なかった。
 天使が乗った船団を、先ずY星に派遣された。
 怒りの鉄槌がくだった。
 一筋の光が、Y星に打ち込まれた。
 攻撃の矢は、それで充分だった。
 黒雲がわきあがった。
 雷鳴がとどろきわたった。
 地軸を揺るがすような大あらしが、一か月以上続いた。
 晴れあがった時、Y星は、元の美しい星に変わっていた。
 よこしまな心が去っていた。
 人々は、真善美を希求する態度を取り戻していた。
 続いて、X星にも同様のことが起こった。
 神の力は、偉大だった。
 何者も反抗することは出来ない。
 暗黒の宇宙に逃れ去ろうとする堕天使ひとりひとりに、容赦ない攻撃を浴びせた。 
 宇宙のチリに、なり果てた。
 大きな望遠鏡で、事態の推移を見つめていたルークはあわてた。
 飛行船に乗り込んだ。
 月面に、強行着陸しようとした。
 X星の生き残りの人々との間で、闘いが始まった。
 「メイ、メイ」
 メイは、アパートの部屋で眠っていた。
 ママが必死で、メイに呼びかけていた。
 「外に出て、空を見上げてごらん」
 満月だった。
 黒い雲がドームのあたりに漂っている。
 「何が起こってるの」
 「ルークが闘いを挑んできたの。助けてちょうだい」
 「どうすればいいの」
 「あなた、首にネックレスしてる」
 「ええ」
 「それは、ママがお前が赤ちゃんの時にしてあげたものよ」
 「紅色の石は、アガペットよ。あなたの力は、その石のおかげよ」
 「そうだったんだ。ママ」
 「お祈りしてちょうだい。石をひたいにあてるのよ」
 「なんて願えばいいの」
 「神様。邪悪なルークの魂を葬り去ってください」
 「わかった」
 フクロウと小鳥が、飛んできた。
 メイの肩にのった。
 「私たちも力を貸します」
 アガペットがオレンジ色に輝いた。
 ビシッ。
 一筋の光が、月まで放たれた。
 ルークの乗った飛行船に命中した。
 月面のクレーターに墜落していった。
 
 
 
 秘書は、受付係を兼ねていた。 
 部屋の窓をトントン叩くものがいた。
 下半分が、すりガラスになっていた。
 おかしいわね。あんな所を叩くなんて。
 誰なんだろう。
 メイは、窓を開けた。
 小鳥が、口ばしでつついていた。
 メイは、優しい表情になった。
 森の中の動物たちを思い出した。
 「こんにちは。小鳥さん」
 「メイねえさん。ねえさん。ぼくです。わかりますか」
 メイは驚いた。
 忘れるはずがない。
 仲良しのジュンの声だったからだ。
 「ジュン、ジュンなの」
 「はい。そうです。びっくりしたでしょう」
 「どうしたの。鳥の姿で。人間じゃなかったの」
 「ぼくの家系は、シャーマンなのです」
 「シャーマンって」
 「魔法使いの一人なんです。動物に変身したりするのが得意なんですよ。ぼくは見習い生です。今にも地上に
落ちそうで怖いです」
 メイは、うふふと笑った。
 「そうだったの。全然知らなかったわ。ごめんなさい。本当に無事でよかったわ。森の中で逢ったきりだったんですもの。あたしたちは、お父さんと警察に連れていかれたもの。ジュンがいなくなったのは、わかったけれど、とても探す余裕がなかったしね。」
 「あのとき、飛行船の陰にいたんです。フクロウに化けた父がやって来て、なんとか森の奥に逃げのびることができたんですよ。これからも、あなたのことをお助けしますから。父は何でもよく知っています。あなたのことをお助けするようにと、言われています。惑星Xからおいでになり、今、ご両親がお近くに来ていらっしゃることも」
 メイは本当に驚いた。
 地球にも、こんなに目先の聞く人達がいるんだ。
 「ジュン、お願いがあるんだけど、聞いてくれる」
 「はい。何でもおっしゃってください」
 「Sお父さんの所へ行って、あたしが無事でいることを、知らせてちょうだい」
 「はい。わかりました」
 「それとね、ジュン。その言葉づかいは、止めてくれる。ジュンとは、お友達なんだから、そんなに丁寧に話さないでね。小さい頃からの仲良しなんですもの」
 「ありがとう」
 会社の玄関の自動扉が開く音がした。
 紺のスーツを着た紳士が入ってきた。
 ジュンは、メイの肩から大空に飛び立った。
 メイは、家に戻れなかった。
 警察が見張っていた。
 会社を訪ねることにした。
 入社までには、まだ間があった。
 社長がいた。
 初めは、誰だか、分からないようであった。
 「メイちゃんなんだ。驚いたなあ。今日は、デートがあるの」
 「いいえ」
 「何か用なの」
 メイは、もじもじしている。
 「社長さん、私をここにおいていただけないかしら」
 「一体、どうしたんだ」
 メイは、うつむいている。
 「実は」
 社長は、メイがそこまで言った時、
 「わかった。訳は、聞かない。こんなに素敵なんだ。僕の秘書をつとめてくれないか」
 と、言った。
 メイは、嬉しくて、涙がこぼれた。
 魔法なんて、使ってないわ。
 社長さんの意思よ。
 就職のお祝いだよと言って、たくさんのお金をいただいた。
 住まいも、世話していただいた。
 会社近くのアパートであった。
 若い女の子らしい飾り付けを楽しんだ。
 飛行船の中の物は、すべてなくなったけど。
 ここが本当のあたしのお部屋。
 涙が出るほど嬉しかった。
 社長の厚いもてなしに感動した。
 R国にも、こんなに話の分かる人がいるんだ。
 メイは窓を開けた。
 新鮮な空気が入ってきた。
 森の中ほどではないけど、地下のトンネルの中よりずっといい匂いだわ。
 彼女の乗って来た飛行船は、天文学者のルークのはからいで、解体されてしまっていた。
 ルークには、悪魔がとりついていた。
 メイの祈りも容易に、彼だけには届かない。
 月の表面で、暮らしはじめていたメイの両親は心配していた。
 メイに連絡がとれなくなっていた。
 「おかしいわ。メイに連絡がとれないの」
 ママが心配した表情で言った。
 「調べてみる。すぐに原因が分かるからな」
 月の基地から、R国の様子がはっきりわかる。
 大型スクリーンに映った。
 森の木々が、横にながれていく。
 更地があった。
 飛行船の着陸した所だ。
 立ち入り禁止の標識があった。
 四方は、いばら線で囲まれている。
 「残念だが、飛行船は壊されてしまった」
 「メイは、どうなったの」
 「ちょっと、それはわからない。疑い深い連中がいる。誤解されて、捕えられたかもしれない」
 ママは、椅子にすわりこんだ。
 涙をぽろぽろ流している。
 パパは、肩をやさしく抱きしめるのだった。
 階段は、地下の下水道に続いていた。 
 広々としていた。 
 臭気が漂っている。
 ゴミが浮かんでいた。
 わきの管から、汚水が垂れている。
 進行方向に流れていた。
 両脇が、歩けるように、平らな小道になっていた。
 メイは、そこを歩いている。
 知恵者のネズミが先導している。
 ハンカチで鼻をおおった。
 「ちょっと辛抱してくださいね」
 自由の身になれるのだったら、がまんしなきゃ、とメイは思った。
 小石につまずいた。
 石が飛んで、壁に当たった。
 トンネルの中で、コーンコーンと響いた。
 十分くらい歩いたろうか。
 ネズミがわきに入った。
 メイがあとに続く。
 丸く切り取られた空間が、上まで続いている。
 梯子が付いていた。
 天井が、少し明るかった。
 マンホールのふたのようだった。
 「ここを登ってください」
 メイは、冒険は初めてだった。
 一歩ずつ、慎重に足をかけた。
 もう少しだ。
 ネズミが、心配そうに見上げていた。
 手が、ふたに届いた。
 両手で、開けようと押した。
 少し動いた。
 動くわ。
 メイは、嬉しくなった。
 うんうんうなりながら、ふたをわきにずらした。
 まぶしい光が、差し込んできた。
 穴からはい出た。
 メイは、穴に向かって手をふった。
 ネズミは、前足を壁にあてて、上を見ていた。
 「お気をつけて」
 「ありがとう。さようなら」
 ビルの谷間の路地に、出たのだった。
 大通りをのぞいた。
 見覚えがあった。
 来年の春から勤めることになっている会社の近くだった。
 衣服が、汚れてくさかった。
 メイは、自分の力を使おうと決めた。
 ネズミのあたたかな気持ちにふれて、メイのエネルギーは、あふれんばかりになっていた。
 愛は、愛と共鳴し合うのだ
 ゴミ箱の陰で、両手を合わせた。
 神に祈った。
 願い事をした。
 物陰から出てきた時、光り輝くような乙女になっていた。
 都会のどの女の子だってかなわない。
 素敵なドレスを着ている。
 チャーミングだった。
 わざと、警察署の前を通った。
 警備のおまわりさんに、挨拶をしてみた。
 「こんにちは」
 彼は嬉しそうに、
 「こんにちは、お嬢さん」
 と、言った。

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