愛の物語

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 R国兵士の隊長が、拡声器を使って、飛行船に向かって呼びかけをはじめた。 
 「無駄な抵抗はやめなさい。すぐに手をあげて出てきなさい」
 彼のわきに、胸に金のバッジをつけた政治家らしい男の人が三人いた。
 動物たちが、一斉に吠えたてた。
 Sとメイが、ハッチから姿をあらわした。
 メイは、大丈夫よ、心配しないで、家にお帰りなさいと言った。
 彼らは、兵士たちの脇をとおって帰って行った。
 Sとメイは、警察に連行された。
 Sは必死で事情を説明したが、まったく受け入れられなかった。
 彼はすぐに釈放された。
 メイは、冷たく暗い留置場に、ひとり取り残された。
 「わからず屋さんばかりね。あたしの力を使えば、すぐに出られるけど、それはできない。かえって、魔女の疑い
が強くなるわ。ほんとに困ったわ」
 メイは涙を流している。
 一匹のハツカネズミが、牢の中に入って来た。 
 チュチュと、メイはネズミ言葉で話しはじめた。
 「こんにちは」
 ネズミは驚いて、頭をあげた。
 「わたしたちのことばが分かるんですか」
 「ええっ」
 メイは微笑んだ。
 「何か悪いことをしたんですか」
 「何にもしないわ。ただ、みんなが誤解をしているだけなのよ」
 「誤解って」
 「あたしが魔女だって」
 「まじょっ。あなたがですか。そんな馬鹿な。匂いでわかりますよ。あなたは魔女なんかではありません」
 「ありがとう」
 「ここから出たいでしょう」
 「ええ、とっても」
 「わたしにまかせてくれますか。だしてさしあげます」
 「そんなことできるの」
 「簡単ですよ。牢番から鍵を奪ってきます。一日だけ辛抱していてください」
 夜になった。
 牢番が夕食を持ってきた。
 鍵を開けた。
 「ご飯だ、食べな」
 ネズミは、あとをつけた。
 詰め所にもどった彼は、物陰に隠したウイスキーの小瓶を出した。
 グビリと、うまそうに飲んだ。
 眠ってしまった。
 鍵は、机の上に置いたままであった。
 鍵についたひもをかむと、引っ張りはじめた。
 メイのいる牢まで行く。
 途中で一匹増えた。
 「メイさん。お持ちしましたよ」
 「大変だったでしょう。どうもありがとう」
 メイは内側から手をまわして、牢を開けた。
 「さあさあ、こちらへどうぞ」
 ネズミは、秘密の抜け穴をとおって行く。
 廊下を突き当たって左に曲がると、ドアがあった。
 堅そうな金属製のドアだった。
 「ドアの上の鴨居に鍵があります」
 メイは手で探った。
 何かに当たった。
 「それで開けてください」
 ギギーと音がして、ドアが開いた。
 階段があった。
 冷たい風が、顔にふきつけた。
 
 「ううううん。ママ。ママなの」
 目を開けた。
 人の輪郭が、はっきりしてきた。
 「ああっ、お父さん」
 「目が覚めたかい、メイ」
 「お父さんは、この星の人間だから、詳しいことは、なにも分からないが、大変だったんだろう。疲れたろう」
 「ううん。へっちゃらよ。若いんだもの」
 メイは、ほほ笑んだ。
 メイの身体を包んでいたオーラが、すううっと消えていった。
 普通の地球人と変わらなくなった。
 「良かった。元の姿になれて。お前が言わなくても、大体のことは分かる。赤ちゃんの時は、ここにいたんだも
のな。一人ぽっちじゃなかったろう」
 「ええ。ママもパパもいたわ」
 メイは、Sさんが、地球の父で良かったと心から思った。
 「お父さんは、お母さんと一緒に、大変なのにあたしを育ててくれてたわ」
 「いいんだよ。いつかは、お前の本当の親が、あらわれると思っていた。今まで楽しませていただいた。神様に
感謝をしなくてはならん」
 Sは、別れが近いと思った。
 「お父さん、実はね。両親が、遠い星から旅をしてきて、今は、この近くに来ているの。故郷の星が、悪魔の率いる人たちに占領されてしまったのよ。もう帰れないの」
 Sは、メイの気持ちをおもんばかって、何も言いだせずにいる。
 「どうなるんだ。メイ。この先」
 「でも。あたしたちの力で、なんとか未来を切り開けそうなの」
 「そうか。お父さんは、何にもしてやれないけどな」
 「もう、充分にやってもらったわ」
 Sは、絨毯の上に腰をおろした。
 「ああ、ごめんなさい。気がつかないで。ここにすわって」
 Sは、ロッキングチェアにすわった。
 「疲れたでしょ。お仕事。お茶をいれるわ」
 Sは、椅子を揺らしはじめた。
 「こりゃいいや。楽ちん楽ちん」
 「お父さん。子供みたい」
 「そうだな。あははは」
 あたりが騒がしい。
 動物たちが、メイに逢いたがっている。
 しきりに、ハッチをたたいたり、ひっかいたりしている。
 メイは、外に出た。
 「ばあ」
 トンと、地面におりた。
 大喜びだ。
 熊は熊なりに。
 リスはリスなりに。
 ウサギはウサギなりに。
 メイに挨拶をした。
 メイは、彼らの言いたいことがわかった。
 ピーピー。
 口笛が聞こえた。
 後ろの大きなモミの木の影に、誰かがいた。
 動物たちが、警戒して、メイのまわりに集まった。
 ヒグマだけが、平気な顔をしている。
 のっそりのっそり、木のそばに近づいた。
 直径一メートル以上あった。
 ぐるりとまわった。
 背中に、男の子が乗っていた。
 「ジュン」
 メイが、大きな声を出した。
 ジュンは、恥ずかしそうにしている。
 「ぼくも、メイに逢いたかったんだ」
 メイは、涙をこぼしている。
  近づいて、ジュンと手をつないだ。
 小鳥が、恋の歌をさえずりはじめた。
 「まあっ」
 メイが、真っ赤になった。
 動物たちは、嬉しくなって、駆け回りはじめた。
 ハッチの中から、Sが呼んでいる。
 「メイ。お湯がわいたよ。お茶を飲もう。食べ物があるから、みんなも、どうぞ」
 森の入り口の方から、何台もの車のエンジン音が聞こえてきた。
 兵士が乗っている。
 銃をかまえていた。
 ジープに頭髪の白くなった男の人が、乗っていた。
 R国の有名な天文学者ルークだった。
 きっと、月の表面の異変に気付いたに違いない。
 メイと月の異常が関係がある、と思ったのであった。
  邪推であった。
 三人姉妹の父と、きょうだいであった。 
 思い込みの激しい人たちだった。
 動物たちが身構えた。
 次の日朝早く、Sは森に仕事に出かけた。 
 メイをともなっていた。
 飛行船のある所まで、送り届けた。
 メイは、早速ママといつでも交信できるように、準備を整えはじめた。
 月面の様子を知りたかった。
 スイッチを入れた。
 船内はメイの部屋である。
 十八歳の娘らしく飾りたかった。
 花柄のカーテンを取り付けた。
 上がり口には、きれいなマットを敷いた。
 森の友だちが訪ねて来てもいいように、木の枝を水平に取り付けたり、絨毯を敷いたりした。
 うさぎとだけでなく、どんな動物たちとも話ができるようになっていた。
 テーブルには花瓶をおいた。
 森で摘んだ季節の花々を飾る。
 床にロッキングチェアをおいた。
 編み物をしたり、本を読んだりしたかった。
 冬は冷え込むので、今から暖炉も用意した。
 メイだけの豪華な部屋であった。
 ママやパパと会話ができる家庭であった。
 着信音が聞こえた。
 モーツアルトの音楽を選んだ。
 「はい。メイです」
 「おはよう、メイ」
 「どうですか。月の様子は」
 「順調よ。ドームの中で、X星と同じ環境がつくられていくわ。メイのおかげよ」
 「あたし、もう一度神様に念を押すわ。」
 「その必要はないわ。一度でいいの。神様に失礼だからね。細かいところまでやって下さるわ」
 「あっそうか。あたしと同じに思ったら、だめよね」
 ふたりで笑いあった。
 「美しい音楽ね」
 「モーツアルトよ。ミューズの神様にとりつかれた人。素晴らしい作曲家」
 「ふううん。地球に行けたら、まっさきに聞いてみたいわ」
 「ママ。今日は、あたし一日ここにいるから、何かあったら連絡してね」
 「ありがとう。了解しました」
 夕方、キコリの仕事を終えたSが、飛行船に立ち寄った。
 ハッチが少し開いていた。
 「メイ、メイ」
 返事がない。
 メイを探しに、船内に入ろうとした。
 ハッチを開けた。
 鳥が飛び出してきた。
 リスもウサギも続いた。
 後ろで、物音がした。
 唸り声がする。 
 熊や鹿がいた。
 森中の生き物たちが集まって来ていた 
 メイの身を案じているのだった。
 敵意がないとわかると、静かになった。
 メイは、椅子にもたれて眠っていた。
 サナギがチョウに変わるように、美しくなっていた。
 美しいだけではない。
 自分の使命を自覚している。
 魂がキラキラと輝いている。
 背中から頭頂部にかけて、金色のオーラを放っていた。
 十八の女の子らしい部屋になっていた。
 Sは、驚いた表情で、部屋になった船内を見わたしている。
 肩にやさしく手を置いた。
 
 
 メイは、S父さんの家で眠っている。 
 E母さんが、添い寝してくれていた。
 手をつないで、両足をお母さんの足にからんでいた。
 心労が激しかったことを、両親がおもんばかってくれた。
 朝方、メイは夢をみた。
 ママがあらわれた。
 声をともなっていた。
 「メイ。メイ」
 「ううん。なあに。だあれ」
 「私よ。ママ」
 「何か、ご用なの」
 夢の中でも、寝ぼけている。
 「起きなさい、メイ」
 強い口調になった。
 「はい」
 「これから、ママが言うことを、しっかりお聞きなさい」
 飛行船の中だった。 
 メイは、床に正座している。
 ママは、正面にいた。
 「あのね。まず、お月さまのことを頭の中に思い浮かべなさい」
 メイは精神を統一した。
 ひたいの裏に、満月が輝いている。
 「ズームアップしてごらん」
 望遠鏡で見るようにした。
 月が、ぐんぐん近づいてくる。
 クレーターが、メイの顔に出来た吹き出物のように、はっきりと見える。
 「もっと近づけて」
 「いやだ。こわい」
 「大丈夫よ。今に、大きな飛行船が見えて来るわ」
 まるでメイが月に着陸していくようだ。
 高い山や深い谷がある。
 溶岩が流れ出た跡が、川のようになっている。
 「空を見て」
 地平線の上に、何かが浮かんでいる。
 LUIと、横に書かれてある。
 「ルイだわ」
 「ママとパパはその中にいるわ。ほかの人や生き者たちと一緒よ」
 メイは、重力が地球の十分の一で、空気のない世界をぼんやりと眺めている。
 「どうすればいい、ママ」
 「ここからは、あなたの真骨頂よ。神様にお願いして」
 「何て」
 「半径二十キロメートルのドームをつくってください。小さな太陽をお願いします。土に含まれた水分を集めてくだ
さい。それを熱して蒸気をつくり、雲が湧くようにしてください。冷やして雨を降らして下さい」
 「ママ。待ってよ。それは無理よ」
 「どうしてなの」
 「あたしね。神様の思し召しで、いったんこういう状態になてしまったものを、X星人だからといって、勝手な願い
を聞き入れてくださるとは、とても思えないわ」
 「ううん。メイのいう通りね」
 「それでね、ママ。ママたちもお祈りしてちょうだい。みんなで。もちろん、あたしも頑張ってみるわ。あとは成り行きよ。願いが聞き入れられれば、ママの思うとおりになるわ。きっと。でなければ、あきらめましょう、いさぎよく」
 メイは、夢の中で、一心に祈りはじめた。
 体が、金色の炎に包まれていく。
 月の表面に、銀色に輝くステッキを持って立っていた。
 その杖で、トントンと月面の岩盤の表面をたたいた。
 地鳴りがした。
 もう一度、今度は強くたたいた。
 まるで車のエンジンがかかったようであった。
 地盤が動きだした。
 柔らかさを増していく。
 波打ちはじめた。
 黒雲がわき、雷鳴がとどろいた。
 沈黙の惑星が、活動を再開した。
 メイが地球に来てから、十八年たっていた。
 乗って来た飛行船は、ほとんど元の姿のままだった。
 アガペットを加工した船である。
 メイは、地面に平らになっている船に入って行った。
 まるで我が家のようである。
 操縦席にすわった。
 ヘッドホンが下りた。
 耳につける。
 ノイズが入り、すぐに人の声が聞こえた。
 「メイ。聞こえる。ママよ」
 「ママ。聞こえるわ。無事なの」
 「残念だけど、とうとう最後の砦が破られてしまったわ。メイのおじいさんが司令官だったのよ」
 その言葉の意味がわかったので、メイは涙があふれてきた。
 「どうなるの。わたしたち」
 シューシューという音が、ひっきりなしにしている。
 男の人の声がした。
 「今、地球に向かっているところだ。メイ。パパだよ」
 「パパ」
 メイは、泣き出しそうになった。
 「大丈夫だからな。心配するな。お前の力を借りなくてはならん時が近づいている」
 「わたしの力。できるかしら」
 「できるさ。無傷のX星人は、もはやお前独りだ。頼りにしている」
 「うん。がんばるわ」
 ママが、かわった。
 「あと一日で、地球に着くわ」
 「わたしは、何をすればいいのかしら」
 「できれば、その森の地下に、街を作りたいと思っているの」
 「ええっ」
 「メイは、何も心配しないで。ママたちのいう通りにすればいいのよ」
 飛行船ルイは、暗い宇宙を高速で飛んでいく。
 窓からは、星が見えない。
 光の渦の中を落ちていくようだった。
 乗り組んでいる人や生物たちの体調は、安定している。
 不意に、ルイは動かなくなった。
 宇宙空間に浮かんでいる。
 前方に、青い星が見える。
 水の惑星、地球だ。
 月も見えた。
 リーダーたちが、会議室に召集された。
 地球移住計画の最終プログラムが検討される。
 白熱した討議が行われた。
 すぐには、地球に行かないことになった。
 X星人、メイに偏見を持つ人がいることが、ネックになった。
 地球をめぐる衛星の月に、まず降り立つことになった。
 

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