愛の物語

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 森に行けば、何か、手掛かりが見つかるかも知れない。 
 大変なことになったわ。
 パパやママがあぶない。
 ゆっくり考えている暇はない。
 すぐに行動に移した。
 お父さんにわけをすべて話した。
 Sは、この日が来るのを覚悟していたようだった。
 首を縦にふった。
 森まで乗せて行ってもらった。
 お母さんは、泣きながらメイを見送った。
 X星人は、自然のままの生活を営んでいた。
 必要最低限しか、科学の方法を持ちいない。
 生活必需品は、アガペットの力で、過不足なく手に入れることができた。 
 電気は、水や風や温泉の熱でおこす。
 欲張りな生き方をする者は、どこにもいなかった。
 それは、神の御心にかなっていた。
 隣のY星人は、悪魔の誘惑に負けてしまった。
 大欲を抱くようになった。
 際限なく、物をほしがった。
 あちこちの星を侵略していき、遂に、X星に攻め込んできた。
 鉱物アガペットに目をつけ、機械で穴を掘っては、奪い去っていく。
 X星人にとっては、大切な宝だ。
 生き残った人々は、地下に活路を見出した。
 メイが聞いた轟音は、街の天井に穴が開いたのだった。
 先にドリルの付いた戦車が侵入した。
 ハッチが開き、Y星の兵士がひとりふたりと降下していく。
 両手に、光線銃をかまえている。
 彼らは、アガペットの力を下げる方法を開発してきた。
 銃にその装置をつけていた。
 バチッバチッバチッバチッ。 
 X星の砦が、次々に陥落していった。
 兵士も必死だった。 
 自分の体をバリアでおおった。
 光線を盾で防ごうとした。
 それらは、アガペットで作られている。
 光線が命中するたびに、壊されていった。
 X星のオサが、最後の作戦会議を持つことにした。
 生き残りをかけて、ハコブネ飛行船を、宇宙に旅立たせることにした。
 オサは、メイの祖父ミシェルだった。
 生き物のカップルを、すべて乗せることにした。
 人のほかに、動物や植物も含んだ。
 すべての種の保存を考えた。
 メイのママとパパも乗る。
 今まで聞いたことがないような音と光の中で、自分たちが負けたことを悟った。
 時間が、あまり残されていなかった。
 地下深くに作られた滑走路から、今まさに、飛行船ルイが飛び立とうとしていた。
 目指すは、地球だった。
 
 ある夜メイは夢を見た。
 ママが出てきた。
 テーブルをはさんで、向かい合っている。
 口を開けて、一生懸命何か話している。
 でも、声にはならなかった。
 メイの耳には、ちゃんと聞こえてきました。
 「メイ。もうバスの中から、お祈りするのはやめなさい」
 「どうしてなの。みんなが喜ぶわ」
 「いままでは、それでよろしい。これからは、まわりに誰かがいるときはやらないこと。でないと、メイが困ったこと
になりますよ。先日も、悪魔と間違われたでしょ。目立たないように、能力を使うこと。分かりましたね」
 メイは中学生になったが、まだまだ未熟だった。
 お母さんの指摘で、それが分かったようだった。
 「それとね。X星人には、首の後ろに星のしるしがあります。メイにも、うっすらと現れています。悪魔の使いでは
ありません。自信をお持ちなさい。実は、X星は悪魔の攻撃を受けているのです。彼は狡猾です。何にでも変身し
ては人の心を惑わします。用心しなさい。故郷の街は、荒れ果ててしまいました。でも、秘密の場所に生き残った
者がいます。ママもパパも大丈夫です。神のご加護があります。あなたを含めても、少ない人数しか存在していま
せん。大切な身体です。あなたひとりの身ではないのですよ。あなたに神の祝福がありますように」
 毅然とした物言いだった。
 翌日から、メイは大人になった。
 コバルトブルーの湖のように、青い瞳がキラキラ輝いている。
 慎重な態度になった。
 Sさん夫妻が、とても驚いた。
 村の人々も、メイの事をとやかく言わなくなった。
 メイは、十八歳になった。
 親友のジュンは十四歳になった。
 かけがえのない友です。
 ジュンねえちゃん、と呼んでくれる。
 校庭の隅で会って以来、ずっと仲良しです。
 森で野イチゴを摘んだり、虫やチョウを追いかけたりした。
 互いを意識して、最近は距離を置いていた。
 でも、心の底では、固い絆で結ばれていた。
 車で一時間くらい離れた所に、大きな街があった。
 ある会社の事務員として、メイは来春から働くことになっていた。
 ママからコンタクトがあった。
 「メイ。成人おめでとう」
 「でも、ママ。あたし、まだ二十歳前よ」
 「X星では、その年で大人です」
 「そうなんだ」
 「お前を送り出してから十八年。私たち夫婦も四十代になりました」
 「まだ若いわ」
 「地球人なら百歳近くまで生きることができますが、私たちは、その半分くらいしか生きられないのです。特別な
能力をさずかっている分だけ、寿命が短いのです」
 メイは話を聞いているうちに、涙がこぼれてきた。
 「泣かないで、メイ。身体はなくなっても、私たちにはユウタイがあります。近いうちになんとかして、あなたのもと
にパパと行きます。連絡を入れます。待っていて下さい」
 切迫しているような口ぶりだった。
 声とともに、大音響が聞こえた。
 悪魔の攻撃が激しくなっていた。
 
 
 
 
 
 
  
 「ちょっと待って。メイ」
 長女のAが、メイのすぐ前に出て、言った。
 女の子四人組は、事が簡単におわると考えていた。
 メイは気が弱い。
 何でも言うとおりにするだろう。
 勝ち誇った顔をしている。
 メイは、闘う準備が完了していた。
 ママが言ったことです。
 心と体が、ほとんど成熟していた。
 反撃を始めた。
 「何だっていうの。あんたたち」
 強い口調だった。
 四人ともびっくりした。
 少し後ずさったほどだ。
 「あんたは悪魔の子だって、うちの親が言ってるよ」
 二女のBが、おずおずと言った。
 「どこが悪魔なのよ」
 「スカートをめくって見せて。太ももにしるしがあるわ」
 Fが強気で言い張った。
 「何言ってんのよ。そんな恥ずかしいこと。できるわけないでしょ」
 メイが反論した。
 四人とも、たじたじになっている。
 思っていたのとは、まったく違った展開になったからだった。
 「悪魔と取引きしたでしょ」
 Aがまだぶつぶつ言っている。
 「ばかばかしい。あたしが魔女だっていうの」
 Fが三姉妹に命じた。
 「スカートをぬがすのよ」
 四人がかりで、腕ずくで押さえつけようとした。
 「いやっ」
 メイが、Fの右手をたたいた。
 騒ぎ声が、職員室まで聞こえた。
 教頭先生がやって来た。
 運転手のDさんもやって来た。
 発車時刻が近づいたからだった。
 Dさんが、教頭先生に何か耳打ちしている。
 ダルク先生は、うんうんと首を縦にふっている。
 「メイはバスに乗ってもよろしい。あとの四人は校長室に来なさい」
 Dさんは、メイの味方だ。
 バスの中で、彼女がどんなことをしていたのか、よく知っていた
 草も木も。田や畑も。牛や馬も。
 家屋敷にいたるまで、元通りになって行くのを驚いて眺めていたのだ。
 毎日毎日、メイは祈っては、手をかざしていたのだった。
 すべてを、彼は見ていた。
 メイのおかげだと確信していた。
 不思議なことだとは、思った。
 悪魔は堕天使でした。
 神様がなされた仕事に反対した天使たちだった。
 神に似せて創られたアダムを認めなかったからだった。 
 神様が天から彼らを追放した。
 人間に対して、憎しみを抱いていた。
 メイのような行為をするはずは、なかった。 
 メイは、中学校に進学した。
 ジュンは、小学三年生になった。
 通学バスの中で顔を見合わせると、ウィンクを交わす。
 男の子らしく顔の表情にも、たくましさが付いてきた。
 村が大あらしに見舞われてから、数年たっていた。
 でも、なかなか元の姿にはもどらなかった。
 被害が大きすぎた。
 メイは大人たちから悪魔よばわりされて、嫌われていた。 
 すぐに、何かのせいにしたがる人たちが多いせいだった。
 今朝もバスが家までやって来た。
 メイがぴょんと乗りこんだ。
 窓際にすわる。
 森を過ぎた。
 荒れ果てた村の景色が目に映った。
 胸の前で十字をきり、手を合わせる。
 あたたかな物が、身体の奥からこみ上げてきた。
 一種のエネルギーだ。
 それが手のひらに集まる。
 遠く離れて手をかざしても、その力は弱まらない。
 対象物に作用した。
 その物体をつくっている最少物質の動きを活発にしました。
 惑星Xの住人なら、だれでも持っている能力だった。
 地下深くに横たわっているアガペットという鉱物の影響だった。
 しおれた草木や作物が立ちあがり、弱った動物が元気になった。
 家々が元の姿になった。
 ジュンは、彼女が何のためにそうしているのか、知っていた。
 微笑んで、彼女の仕草をながめていた。
 彼女の様子を気をつけて見ていた者が、ほかにもいた。
 一番被害が大きかった家の三人の娘だった。
 村オサの娘たちだ。
 父の考えが、娘たちにも大きく伝わっている。
 「ねえねえ、メイを見て」
 中学三年生の長女がいった。
 「あれ、変なことしてる。お祈りしたり、窓に手をかざしたりしてるわ」
 次女だ。
 「ずっとああやってるわ。友だちがいないから、頭が変になっちゃったのかしらね」
 三女が言った。
 「みんな、あの子は悪魔の子かも知れないから、近付くんじゃないって」
 まわりにすわっている子たちに聞こえるように、わざと大きい声でいう。
 三人姉妹の近くにすわっていた女の子が言った。
 「そうよ。悪魔の子に違いないわ。でないと、あんな儀式みたいなことをやらないわ」
 長女が言った。
 「その証拠を見つけましょうよ。悪魔なら、太ももに星のしるしが付いてるそうよ」
 放課後四人は、バスの陰でメイを待った。
 金曜日になった。
 たくさんの荷物を持って、メイがバスに乗ろうとした。
 四人がメイの前で、そろって両手を横にあげた。
 メイは、十歳になった。 
 部屋の窓を開けると、三月のひんやりした空気が入り込んできた。
 うううん。とっても気持ちがいいわ。
 嫌なことは、何でも忘れちゃいそう。
 ルウルウルウウ。
 鼻歌が出はじめた。
 雪を頂いた山々が連なっているのが見える。
 あの空のずっと向こうに、ママとパパがいるんだ。
 あたしはひとりじゃないんだ。
 大きな秘密を抱えたメイだった。
 小学校では、相変わらずいじめられていたが、何とも思わなくなった。
 メイがいつも微笑んでいるので、いじめっ子たちは、気味が悪くなった。
 いじめもしだいに減って来た。
 この頃、願い事が何でもかなうわ。
 ママの言ったとおりだわ。
 メイは驚いている。
 ほかの子たちと身体は同じなのにと、不思議だった。
 今夜は、カレーが食べたいなと思うと、台所からカレーの匂いが漂ってくる。
 お弁当にサンドイッチがいいなと願うと、そのとおりになった。
 そのくらいのことなら、誰でもたまには経験することだったのですけれど。
 
 初夏のある休日の朝。
 森に出かけた。
 小道を歩いている。 
 鳥がさえずっている。
 リスが忙しそうに、木にのぼったり下りたりしていた。
 目の前を野うさぎが横切った。
 お話しできるといいのに、と思った。
 ガサガサと音がして、草の中からうさぎが現れた。
 メイを見つめている。
 そっとしゃがんだ。
 ぴょんと、道に飛び出た。
 「おはよう」
 男の人の声がした。
 メイはあたりを見回しましたが、誰もいない。
 うさぎは、小さい円をえがいて走り回っている。
 「うさぎさんなの。今のごあいさつは」
 「そうだよ」
 口をもぞもぞやっている。
 両手を差しのべると、そばに寄ってきました。
 メイは、思わずだきあげた。
 うさぎは、じっとしている。
 嬉しさをとおりこして、怖くなるほどだった。
 誰にも秘密だった。
 気の毒ですが、お父さんやお母さんにも内緒だった。
 ジュンという年下の男の子の友だちができた。
 一年生だった。
 休み時間に校庭の隅で、地面に棒きれで絵を描いた。
 うさぎやリスです。
 そばにきのこを描いた。
 いつの間にか、男の子がとなりにしゃがみこんで眺めていた。
 「おねえちゃん、おじょうず」
 にこにこしていた。
 「本物だといいのにね」
 チャイムが鳴った。
 授業が始まる。
 メイは立ちあがった。
 ジュンは、なかなか絵のそばを離れない。 
 「さあ、行きましょう」
 ジュンの手を取った。
 五、六歩、あるいた。
 彼は後ろを向いたままだった。
 描いた絵のあたりの土が、もこもこ動いていた。
 ぴょんと、うさぎがとび出した。
 にょきにょき。
 きのこが生え始めた。
 すごい勢いだった。
 たちまち、笠が開いた。
 ジュンが、かけだした。
 メイは、だめよと言って、追いかけた。
 ふたりは、まるで夢を見ているように感じた。
 森の中にいるようだった。
 メイは、素早く願い事をした。
 「早くお帰りなさい。ここにいると、みんなの迷惑よ」
 すべてが、元に戻った。
 「誰にも内緒よ。今からおねえちゃんとお友達なんだからね」
 耳元でささやいた。
 ジュンは「うん」とうなずくと、右手の小指を立てた。

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