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「よう、おめえさん。こんな夜更けにどこへ行くんだい」
吉べえが土間に腰かけて、草鞋の紐を結んでいる。
布団を敷いていた妻のおよねが声をかけた。
「ちょっくら、お山の桜を見て来るから」
「何も夜中に行くことはないだろう。あぶないよ。わたしら庶民は、
夜中にうろつくもんじゃないことぐらい分かっていそうなもんじゃないか」
「そりゃそうなんだが」
「分かってるんだったらさ。ねえ、おまえさん、後生だから」
およねは、両手を合わせてたのんだ。
吉べえは、うんうんうなずいて、「だけどな、姫様がお召しになる着物のこ
とが気になってしょうがないんだ」と、草鞋の履き心地を確かめている。
およねの方を向いて、にこっと笑った。
「そう心配するんじゃねえ。本当になったら、しょうがないじゃねえか」
「早く帰って来ておくれね。近頃ぶっそうだよ。辻斬りは出るし、強盗が押し入る。
お役人は大忙しだ。そんなのと間違われでもしたら、大変だからね」
「俺が、強盗。そんなツラに見えるかい」
「馬鹿だね、外は暗いんだよ。歩いているだけでも、疑われるんだ」
米吉は、だまった。
女房の心配はもっともだ、と思った。
期限までに、染物をしあげなくてはならなかった。
お城の姫様の着物だ。
本物の桜の色に染めてくれ、とのお達しだった。
本物そっくりと言ったってな。
吉べえは、頭が痛かった。
どうしたらいいか、思案に明け暮れていた。
桜は、まだ蕾のままだ。花が咲かない。
花びらを集めることができなかった。
何かほかのやり方を、考えなくてはならなかった。
先代から、草木染めを生業にしはじめた。
二代目の吉べえは、責任が重い。
家業をつぶしてはならず、しっかりした土台を築かなくてはならない。
お城からの注文は、身に余るほどの光栄だ。
日頃の吉べえの腕前を、見込まれてのことだった。
神社の境内につづく石段をのぼる。
ホウホウ、ホウホウ。
フクロウの鳴き声がした。
からだが、ぶるっと震える。
腕を組んだまま、足もとを見つめて歩く。
吉べえは、気が弱い。
大げさなくらいに、幼い頃から暗闇をこわがった。。
だが、仕事に対する熱意が恐怖をうわまわった。
頂上に着いた。
月はでている。
お社がおぼろげに見えた。
白い霧が流れている。
お目当ての桜の木は、やしろのすぐそばだ。
樹齢三百年の古木だ。
吉べえは、ゆっくりと近づいた。
ひゅううと風が吹いて、木の枝がざわめいた。
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小説を書こう。
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伊豆の河津桜の開花が遅れている、と聞きました。
この冬の寒さが厳しかったせいでしょう。
偏西風が蛇行して、吹いていたらしいですね。
科学の進歩のおかげで、天気情報がかなり正確になりました。
喜ばしいことです。
人工衛星が伝えて来るのですものね。
私の若い頃は、富士山頂に丸い形のレーダーを取りつけるのだと
いうことで、世の中が驚きました。
日進月歩なんだな、と目を丸くするばかりです。
冬には、
「日陰の雪が解けないうちは、また雪が降るぞ」
春から夏にかけては、
「あの山が白くなれば、すぐに雨が降って来る」
「黒雲が愛宕神社の上に出たら、雷に用心しろ」
父の言葉を思い出しました。
生活の知恵でしょうか。
ズバリ、そのとおりになりました。
古来より、先人たちは花を愛でて来ました。
花と言えば、桜をさしました。
梅も人気がありますね。
我が家には、裏山に梅の木が五本あります。
まだ蕾がかたいままです。
春は名のみ、といったこの頃ですね。
さて、三月の小説のテーマですが、どうしましょうか。
あまり大きなものじゃない方がいいですね。
身のまわりにあるちょっとした物事でも
いいんじゃないかと思います。
同人のみなさん。
「これは、小説になりそうだ」
そういうものがあれば、気軽に提案して下さい。
なければ、今、お話しした桜とか梅とかにまつわる
お話を作ってみたらいかがでしょう。
もちろん、他の花でもいいですよ。
読者の皆様。
いつもコメントをお寄せくださり、感謝しております。
ご意見、ご希望などありましたら、このコーナーにも
どしどしお寄せ下さい。
今後ともよろしくお願い致します。
[文責 父けっさん]
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みなさん、こんにちは。
きょうは、朝からあいにくの空模様でしたね。
関東地方で、こんなに雪が積もったのは、何年ぶりでしょう。
大変な一日でした。
私は、一日中、雪かきにおわれました。
靴やタイヤがすべって、人が怪我をしたり、車が人や物に衝突したりしました。
夕方、そんなニュースを聞いて、こたつで頭をかかえてしまいました。
怪我をされた方々には、お見舞い申し上げます。
この冬は、平年よりずっと雪が多いと聞きます。
雪深い地方では、屋根に積もった雪を下ろすのに、大変な苦労をなさっておられます。
屋根から落ちて怪我をしたり、落ちてきた雪に埋まって亡くなった方がおられました。
半面、雪の多い年は、米は豊作だと言います。
雪が解けて、川を下り、田んぼをうるおす。
水不足を心配する必要がないからでしょうね。
インフルエンザが流行っています。
近くの中学校では、学級閉鎖に追い込まれていました。
この雪は、いいお湿りになりました。
さて、二月が今日で終わります。
ご存じのように、平年より一日多かったですね。
二月の課題作品が出そろいました。
もたんもぞさん。
小説「熟少女仮面」誕生編。
続きがあります。
どんな物語になるか、楽しみです。
実験的な小説です、とおっしゃっています。
新しい試みにチャレンジされる心意気に、拍手を送りたいと思います。
麻さん。
スケッチ「米」
ある日の生活の一こまを、切り取っておられます。
会話部分が、お話を生き生きとさせています。
物語を書くのは慣れないご様子ですが、上達したいという熱い想いには、頭が下がります。
ご両人様には、毎回、力のこもった作品をお寄せくださり、大変感謝しております。
少しでもお力になれれば、幸いです。
春は、もう一息です。
体調に気をつけて、互いにがんばりましょう。
次回のテーマは、あとで発表することにしましょう。
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うううん、小説って、むずかしいなあ。
腕を組んで考えこんでいます。
一年くらい物語を紡いできました。
この数日は、なんだかぼおっとしています。
実力以上に、がんばってきた反動かな。
このあたりで、充電しなくちゃ。
きっとこんな時期も必要なんだろう。
そう思っています。
また書きはじめますよ。
お楽しみに。
さて、二月の課題。
かわいい。
楽しい。
生きがい。
もたんもぞさんに、出していただきましたね。
「早起き」
「三年ぶりに」
「薄氷」
三つの拙作を、お読みいただけましたでしょうか。
いずれも課題を意識して書きはじめましたが、物語が
あらぬ方向に展開してしまったかもしれません。
ご勘弁ねがいます。
月末まで、あと九日あります。
今年は、一日多いですね。
気楽な気持ちで、書いてください。
長短は問いません。
みなさまがたの作品を、お持ちしています。
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散歩する人の視線が集まる。
栄子は自転車を道端によせ、すわりこんだ。
母親の怒りが静まるのを待っている。
こんな時は、落ちついていることだ。
体調の変化を見届けなくてはならない。
吐き気がしたら、大変だ。
病院に行かなくては、と思う。
ふらつきは、収まっている。
数分たった。
やれやれ、大事にいたらなかったようだ。
私の心がけが良かったからかも、と思う。
今まで店の手伝いをしようなんて気は、めったに起こさなかった。
今朝何気なく、突然そう思ったのだ。
ふっと、祖父の面影が浮かんだ。
この自転車だって、元をただせば、栄次郎のものだ。
どこを探しても、こんな年代物は見つからない。
幸いなことに、女の子のケガは大したことはない。
祖父が、助けてくれたとしか思えない。
母親の甲高い声が、小さくなっている。
「しょうがないおねえちゃんよ。小さな子とぶつかるなんて」
栄子は恥ずかしくて、顔をあげられないでいる。
女の子が、そっと栄子の頭をなでた。
栄子は顔をあげて、「おねえちゃんを許してね」と、頭をさげた。
「あっ、血だ。ママ、おねえちゃんが大変」
娘のやさしさに心を打たれて、母親はその場にしゃがみこんだ。
白いハンカチをだして、栄子にわたした。
「大丈夫なの。救急車を呼んだほうがいいかしら」
「はい、大丈夫です。頭のけがは大したことはありません」
「なんなら、私の家で休んで行きますか。すぐ近くですから」
「ご迷惑をかけるから」
人々が集まりはじめた。
「さあ、行きましょう」
母親が栄子の自転車を押して行く。
栄子は、小さな自転車の荷台に女の子をのせた。
竹林のわきには、似たような家が百軒ばかり建ちならんでいた。
この十年くらいの間に、できたばかりだった。
彼女の家は、一つ目の角を曲がってすぐだった。
一時間後。
栄子が玄関を出た。
「コーヒー、おいしかったです。ごちそうさまでした」
ふらつきがなく、歩ける。
頭をおさえると、小さなふくらみがあった。
血は止まっていた。
こぶの上に、白い物が見える。
女の子がばんそうこうをはったのだ。
ふうふうと、小さな息を吹きかけ、「いたいのいたいのとんでけ」と言われた時には、泣き笑いした。
栄子は、自分でも意外に感じるほど、見ず知らずの相手にいろいろと話した。
特に祖父の思い出話が多かった。
女の子の母親は、嫌な顔をせずに栄子の話を聞き、私にも良い祖父がいたわ、と微笑んでくれた。
「きよみずさんの坂道のお店ね。タバコ屋さんのとなり」
「ええ、そうです」
「あとで、寄ってみるわ。街に買い物に行くから」
「どうぞ、待ってますから」
栄子は、玄関さきの路上で礼を言った。
「おねえちゃん、またね。バイバイ」
お昼近くになっていた。
栄子は、あわてずに走りはじめた。
了
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