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caplio GX100 / ricoh
新海誠 監督 のアニメーション映画 『秒速5センチメートル』 においては、
駅/列車でのシーンが、物語の中で 質・量ともにかなりのウェイトを占めている。
小田急線、新宿駅、埼京線武蔵浦和駅、宇都宮線の大宮駅〜ヒガハス〜小山駅、両毛線の岩舟駅 …
丁寧に描かれた鉄道風景が、観客の心に深い印象を刻んだに違いない。
鉄道シーンの描写に重点が置かれたのは、其処が多くの観客も共有する日常生活空間であり、
あるいは、青春の(苦い)思い出を想起させる舞台装置でもあるからだろう。
テーマ曲に 山崎まさよし の “one more time , one more chance ”を選んだ理由について
新海監督は、 「まず既存の楽曲であり、なおかつ 大衆によく知られているもの …
曲に対する観客個々の思い入れが、わずか数分の短編作品へ感情移入してゆく助けとなるから」
という旨を述べている。観客にとって見慣れた、馴染み深い鉄道シーンを丹念に描写することは、
この眼目にもよく合致していると思われる。
では、新海監督、あるいは制作スタッフの "鉄分" は濃いのだろうか?
いわゆる "鉄ちゃん / 鉄道ファン" なのか? ・・・ と問われると、それは「否」であろう。
透徹した観察・取材の上に制作されたアニメーションにも拘わらず、鉄道のシーンに関しては
処々に齟齬が目につく。具体例を挙げれば、宇都宮線が踏切を通過する1シーン。
レールの継ぎ目で発生する「ガタンゴトン」というジョイント音と、列車の速度が著しく乖離している。
また、両毛線が降雪で立ち往生するシーンも、停車地点のカーブ半径があまりにも急である。
カット毎のディテールが優れているだけに、このような不自然さが目立ってしまうのは残念でもある。
さらに、新海監督の前作 『雲のむこう、約束の場所』 では、
津軽線に取材したと思われる鉄道シーンが豊富に盛り込まれており
キハ40系らしき気動車が再三にわたって登場するなど、個人的にも嬉しい演出ではあるのだけれど、
この作品でも重大な考証ミスを犯している。
津軽線が立派に電化されており、そこにディーゼルカーが走っているのである。
もちろん、電化区間に気動車が運用されるのは何ら不思議なことではない。
だが実は、津軽線の電化は、青函トンネルの開通に併せて輸送力強化の為に実施されたのであり、
物語中の 「南北分断によって青函トンネル建設は放棄された」 という設定に従うのであれば、
閑散ローカル線である津軽線は、依然として非電化区間であって然るべきと考える。
綿密な現地取材が、却って裏目に出てしまった感も否めないが、もし制作スタッフの中に
鉄道に造詣の深い方がひとりでも加わっていたならば、このような矛盾に気付いたかもしれない。
医療や法律関係の実務が描かれる 映画 / ドラマにおいては、その分野の専門家が
「医事監修」「法務監修」という立場から、制作陣に助言を与える事はよく知られているが、
本作のように、鉄道シーンの演出が大きなウェイトを占める作品においては、
「鉄道監修」というポジションで、助言できる人に参画してもらった方がよい気もする。
* * *
新海監督作品の鉄道シーンについて、考証ミスと思われる箇所を指摘してはみたけれど、
それでも 『秒速5センチメートル』 における描写は、非常にクオリティーが高いと考える。
「あぁ、こんな絵をカメラに収めてみたい」と思えるような魅力的なカットが随所に登場し、
繰り返し鑑賞したくなってしまうのだから。
「鉄道」という趣味の枠の外にいるクリエーターが、どのように「鉄道」を捉え、表現しようとしたのか?
そして観客はその描写をどのように受け取ったのか? ・・・興味の尽きないところではある。
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このブレは絶妙ですね。
ボクもブレ写真は好きなので、もっと沢山撮って見せてもらいたいです。
色々と参考になりますしね。
あ、医療系のドラマは「ありえねー」ってのが多いっすよw。
これは文句なしにポチですね。
2007/11/16(金) 午前 7:31
高尚な記事に対して甚だ失礼とは思いますが、わたくし夕べはちょうどこの下をほろ酔い加減で歩いておりました
2007/11/16(金) 午前 10:56
素晴らしい!!こういった見解もありますか!
僕は実際に「両毛線」を使った経験がありましたが、さすがにそこまでは気がつきませんでした!
「雲のむこう〜」も鑑賞しましたが、そんな決定的なものがあったとは!素晴らしい知識に、脱帽です!
あ、トラックバック、お返しいたします(^^)ありがとうございました!
2007/11/16(金) 午後 9:56
Loki さん> exif data を参照しましたら、 ssは1/4秒でした。
0.3秒前後が、おいしいところかもしれませんね。
手振れ補正機能は on ですから、小生の技量でも 電光掲示板を写し止めることができました。
2007/11/17(土) 午前 7:36
あにき! まさに人間交差点 ・・・それが駅station
2007/11/17(土) 午前 7:37
aw さん> いえいえ、恐縮です。
映画を観たら、小山から両毛線の旅に出たくなりました。
作品のモチーフになった風景を、自分なりに撮ってみたいものです。
2007/11/17(土) 午前 7:38
新海監督の作品、確かに鉄道風景は多いですね。踏切、駅、線路・・・意図をもって使われているように感じられます。信毎CMも、ハイブリッド車両? 小海線? と目を止めた記憶が・・・。「鉄分」少な目でも、グッと身近に鉄道風景を認識してしまうのが、演出の妙かもしれません。
2007/12/17(月) 午前 9:54 [ kaz*_m*chi*9 ]
kaze machi さん> 「鉄道ファン」「鉄ちゃん」ではない・・・という方でも、みなさん一度は鉄道を利用した経験をお持ちでしょうし、むしろ知らず知らずのうちに、生活の中に溶け込んでいるノだと思います。だから、その存在を余り意識しないのかもしれません。
新海監督は、あたりまえの「鉄道」の風景を、丹念に追求された・・・そこに「秒速5センチメートル」の絵力の根源があるように思われます。
2007/12/17(月) 午後 0:28
お詳しいですねえ。とても勉強になります^^
私は知識がないのですが、新海監督の「鉄道」の美しさには十分参ってしまいました。私たち、こういう美しさの中で実は日々暮らしているんだなあ。と。トラバさせて下さいませ^^
2008/1/24(木) 午前 8:30
renn さん> TBどうもありがとうございます
一応「てつどう」ブログですので、そちらの方面からの考察を試みたしだいです
鉄道シーンだけに注目して、見返してみたら、新たな発見があるかもしれませんね
2008/1/24(木) 午後 1:02
やっぱり鉄道があったらから
あのような雰囲気が出たのかもしれませんよね!
2008/4/4(金) 午後 9:34
「鉄道シーン」にこだわっただけのことはあると思います
2008/4/5(土) 午前 5:57
こんばんは。キハさん。
このような視点は、やはり専門家でないと持ち得ないところだと思います。
非常に勉強になる一方、プロの方はあらゆる観客の満足に答える形で作品を制作しなければならないということに同情する思いがしました。
う〜ん。やっぱり何回か繰り返し観る必要があるのかも?
2008/4/11(金) 午前 3:20
けんいちさん>小生、特に鉄道の専門家でもありませんが、 鉄道施設や列車の形式には、何らかの「理由/事情背景」があります。
その"理" に適っていない箇所は、いかにフィクションとは申せ、つい目に付いてしまうのです
2008/4/12(土) 午前 1:59
「秒速5センチメートル」それは花びらが地上に落ちる速度だそうですね。素晴らしい鉄道の絵がありますよね。おじゃまします。履歴からきました。このDVD私も持っていますよ。数回見ました。ブログの中で私も紹介しました。いい年をして最近「鉄ちゃん」になったものです。キハさんの写真ただの鉄道写真ではなくなんだかドラマでも見ているような写真が多いですね。おきにいり、登録させてもらい時々お邪魔いたしますのでよろしく。
2008/9/20(土) 午後 11:57
yattokoトシさん>はじめまして。先日、江ノ電関連の記事にお邪魔させていただきました。「秒速5センチメートル」DVDもお持ちなのですね。小生も、この作品に大いに触発されまして、この書庫にあるような記事を書いてみた次第です。映画をご存じの方の目に留めていただき、とてもうれしく思います
鉄道ブログのような、写真ブログのような、そのどちらでもないような・・・立ち位置のあやふやなブログではございますが、時折、お気軽に覗いていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします
2008/9/21(日) 午前 0:30
「南北分断前の海底を潜るトンネル計画」、おそらく青函トンネルでしょうが、
実際には今のルートは別に下北半島から抜けるルートも予定されてようです。
それを見越してすでに電化されていた、という設定にしたのかと思って
いましたが・・・
2008/10/6(月) 午前 0:59 [ 透明人間 ]
透明人間さん> 興味深いコメントを添えて下さり、ありがとうございます。仰るとおり、前線への輸送力強化のために、トンネル開通とは別に電化工事が実施された・・・というスジは成り立ちますよね。
ただ、戦闘地帯に含まれることが想定される線区は、不測の事態後の復旧作業を勘案し、 "非電化" としておくのが常套ではないか…とも考えられる訳でして・・・もっとも、そこまでマニアックにツッコまれるのは、新海誠監督としても心外でありましょう
東北本線〜野辺地からむつ〜大間岬を経て、下北半島沖合を掘削する・・・事実上の最短ルートも検討されていたようですが、地質調査の結果難工事が予想されたため、現行の津軽半島(吉岡-三厩)ルートが選択されたと、小生も仄聞致しました
2008/10/6(月) 午前 1:30
初めまして。TBが入っていたのでびっくりしました。すみません、訪問したのに素通りしてしまいまして。少し古い記事でしたので、躊躇してしまいました。
「One more time〜」の採用理由が理解できました。しかし、ちょっと強すぎる詞なので、新海氏の読み以上に観る者に感情移入させすぎになってしまったのでは?とも思っています。
私は鉄道は詳しくないのですが、鉄道通さん達の視線から見ても面白い内容になっているのですね。
TB、ありがとうございました。
2009/8/23(日) 午後 9:26 [ マルワブルー ]
マルワブルーさん> TBだけで失礼しました。コメントありがとうございます。
「感情移入させるには、強すぎる」という指摘は的を射ていると思います。
ご覧になる方によっては、新海誠監督の作品というより、山崎まさよし作品のPV・・・という印象を与えてしまうかもしれません。現に、web上には、そのような感想もしばしばみられます。
小生は「鉄道通」という程でもないのですが、おそらく、鉄道ファンの目からみても、
なかなか面白いアニメーションに仕上がっているのではないかという気がします。
普段何気なく見過ごしていた 鉄道風景の美しさを示唆してくれる作品だと思います。
2009/8/28(金) 午前 1:13