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5 パイ−π
「ここでは、すべてのものが生物で出来ています。」
「あなたも?」
「体はもちろん、服までもね。」
「ええ、すげーエコじゃん、」マサルは若者言葉で言った。
「地上で、ビットというのかな、こちらでは、πといってます。」
「おっπ?」ノリオが言った。
「すけっち!」キミコがノリオをどついた。
「いて!おお、ぱい、といっただけじゃないか。」
「まだいうの。おかあさんのおっぱでも吸ってきなさい!」
「ところで、あなたがたが、すべて物質で行おうとしていますね。神の神殿が
そうであるように。しかし、それでは、物質の非循環性が、いろんな問題を引
き起こします。」
「ええ、物質の非循環性って?」ノリオが言った。
「てっとりばやくいえば、『糞詰まり』ということだよ、」マサルが言った。
「もっといい譬えないのかしらね、兄さん」キミコがノリオの耳元でささやい
た。
「たとえば、今のマイクロプラスチックの問題、とか。」
「ああ、そうだね、」ヨムサ・リョムがいった、「マイクロプラスチックこそ、
生物界の一大事ですね。地上の人はまいにち何万トンものプラスチックごみを
海に捨てていますね。その循環サイクルは、1000年以上です。その間に細
かくくだかれたやつがあらゆる生物をむしばむ。恐ろしいことだ。」
「πの世界に問題はないんですか。」マサルが言った。
「問題はまったくありません。というのは嘘です。命の世界に『問題がない』
ということは絶対にありません。ほとんど毎日なんらかの問題が発生します。
その内容は極秘事項なので言えません。」
「もう言ってるじゃない。」
「そ、それは、・・・・あとの問題にしましょう。」
「いやねえ、先送りなんて、地上の政治家と同じじゃない。」
「そうですか・・・・」
「キミちゃんそれ以上は失礼だぞ、」マサルが言った、「ところで、ヨムサ・
リョム様、ここの科学技術を見たいんですが、どうでしよう。僕たちから見れ
ば、宇宙人的ですが。」
「宇宙人じゃありません。」
「地下に住んでいても、宇宙という言葉に対する認識はあるようね、」キミコ
が言った。
<弱いつながり>
「我々は地下の生物ですが、宇宙循環リングというものを持っています。ウイ
ルスぐらい小さくなると、地球の重力から解放されます。つまり、ひとりでに
浮いてくるのです。そして弱いつながりを保ったままでいれば、どこまでも高
いところまで上ってゆくことができます。地上の衛星の様に何トンもの重さを
持ってしまうと重力をふりきるとんでもない推進力が必要ですが、我々の「弱
いつながり宇宙船」はほっといても浮かびます。そして成層圏までも上がって
ゆくことが出来、後は太陽風や太陽の光を利用すれば、宇宙の旅ができます。
「しかし、それじゃ時間がかかって、」サマルが言った。
「我々は数億年という寿命を持っていますから、数万年の旅など何でもないの
です。」
「ほんと、急がば回れだね。」
「ええ、その譬え適切かどうかチェックするね、」キミコが言った、「ま、い
いか、ゆるしてあげる。」
「私たちは何万年も昔から宇宙船を飛ばし続けているんですよ。近い星なら、
なんども行って帰ってこれる。必要最小限度の装置だけでいいんです。それは
データー収集です。我々の「弱いつながり宇宙船」は宇宙船を作っているもの
すべてがπという生物なのですから、すべてがその能力を持っています。」
「なるほど、目的の星に行ったら、一部分がカメラになったり、CCDになっ
たりすればいい。スゲー!」マサルが言った、「で、どれぐらいの先まで行く
ことができます。」
「いま50光年ぐらいのリングがあります。」
「ええ、それじゃプロキシマ・ケンタウリとかクジラ座τ(タウ)星などもリ
ングに入りますね。」
「一つ疑問、」キミコが言った、「恒星に近づけば、恒星からの光で近づけな
くなるんじゃ。」
「大丈夫、その時は、編成を変え、『強いつながりの宇宙船』、つまり小さく
なれば、いいんです。そうすれば、光の圧力は受けなくなります。」
「なるほどね、すごい!」
「そこは、すげー!だろう。」キミコが言った。
「いちいち、言葉をチェックするな!」
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