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『アドネイアス』より 39 静かに、静かに! 彼は死んでいない、眠っていない― 生の夢から目覚めたのだ― 嵐のような幻影に迷い 影たちと詮無い闘いを続け 狂おしく夢うつつのうち、魂の刀で 傷つくことのない虚無の群れを斬るのはわれら。― 僕たちは朽ちる 納骨堂の屍の如く。 恐れと悲しみが 日々、僕たちを悶えさせ、食い尽くし 冷たい希望が、この生身の土くれに蛆虫のようにたかる。 40 彼は、地上の夜の闇を高く越えていった。 妬み、誹り、憎しみ、傷み そして、喜びと呼び違える不安が もう彼を傷つけたり苦しめたりすることはない。 年を重ねれば染まる世間の害毒から 彼は安全であり、もう決して嘆かなくてよいのだ 冷酷になった心や、虚しく灰色になった頭を。 また、魂自体が燃えるのをやめた時 魂の火の失せた灰を悲しむもののない骨壷に詰めることもない。 41 彼は生き、目覚める― 死んだのは(死)で彼ではない。 アドネイアスのために嘆くな― 若い(曙)よ 涙の露をみな輝く露に変えよ、あなたから あなたが嘆く魂は去ってはいないのだから。 洞窟よ、森よ、嘆くのをやめよ! 泣くな、しおれた花よ、泉よ、そして、(大気)よ 見捨てられた(大地)に喪のヴェールのように 掛けたスカーフを取って、(大地)を露わにせよ (大地)の絶望に微笑みかける歓びの星たちにまで。 42 彼は(自然)と一つになった。聞こえる 彼女の音楽すべての中に彼の声が、低く呻く 雷の音、夜の優しい鳥の歌に。 彼がいるのが感知される 闇にも光にも、草からも、石からも あの(力)が動く至る所で彼は広がる (力)は、世界を決して倦まぬ愛で導き 下から支え、上から照らすのだ。 43 彼は、美の一部 かって彼がより美しくした美の。彼が自分の役割を 果たす一方、唯一無二の(精霊)の創造力が この愚鈍な世界を吹き浚い、地上で影響力をふるう 新しい後続のもの全てを今の彼らの姿へと変化させ 自身の美への飛翔を拒む強情な滓(かす)を 形のない塊が耐えられる限り強いて そして、その美の中で、力の中で、燃え上がらせ 木々から、獣から、人から、(天)の光へと昇華させる。 44 時の空に輝くものたちは 翳るかもしれないが、消えることはない 星々のように与えられた高みへと上がり そして、死は低く垂れ込める靄であり、その輝きに ヴェールを掛けても消すことはできない。高邁な 思考が若い心を、死すべき運命の人間の肉体から引き上げ 理想の愛と現世の生が、若い心の中で争い この世の運命を得ようとする時、死者はそこに生き 暗い嵐の中を光の風のように動く。 47 アドネイアスを悼むのは誰か。おお、前に出よ 哀れな痴れ者よ、自分自身と彼のことを正しく知れ。 お前の喘ぐ魂で宙空の(地球)を掴め 中心から発するように、お前の魂の光を放て 全ての世界を超えて、その遠くまで及ぶ力が 空虚な周縁に十分満るまで。それからその光を 収斂させよ、日常の日と夜の中の一点へ そして心を軽く保て、希望がお前を沈ませぬように 希望が希望を焚き付け、お前を死の淵に誘った時に。
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1820年2月、肺結核によりキーツがローマで客死した。そのことをシェリーは4月に知り、すぐに彼を悼むこのエレジーに着手した。アドネイアスとは、ギリシャ神話の美青年アドニス(Adonis)と主(Lord)を意味するヘブライ語アドナイを合成したものと考えられている。(「シェリー詩集」/アルヴィ宮本なほ子編) |
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