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現代の医学の発展のスピードには目を見張るものがあります。どの疾患分野であれ、新たな疾患、病態、
治療について、多くの医師により膨大なデータが収集され、最善の診断と治療方法が検討され、雑誌などに
発表され、教科書も書き換えられていきます。
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しかしながら、公式確認から60年以上経過した今でさえ、水俣病に関する情報は正しく伝えられておりません。
メチル水銀中毒としては、第二次世界大戦前のハンター・ラッセルなどの研究があったとはいえ、このような
大規模な疾患の発生は、それまで世界のどこにもありませんでした。したがって、本来は、水俣病が公式に
確認された後、新たな疾患および病態の発生として、例えば、「暫定的な知見をもとにした被害拡大防止→汚
染地域全体の実態調査→病態の解明→暫定的な診断基準→医学研究に基づく、疾患の更なる探究」という
手順が取られるべきであったにもかかわらず、そのような手段が講じられてきませんでした。
本来は、被害地域全体の調査がなされ、継続的に住民の健康状態が調査されるべきだったのです。
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水俣病公式確認当時を含め、初期の水俣病に関与した医学者が重症例などを確認した後、行政機構に取り
込まれていく中で、このような当然の手順で追求することを止めてしまいました。また、水俣病の実態を明らか
にしようとした熊本大学の水俣病第二次研究班の医師らによる積極的な調査研究も、結果的に抑えこまれてい
き、そのような流れの中で、特に大学などの中では水俣病の研究はタブー視されていきました。メチル水銀の
曝露を受けた人々が数十万人存在してきたにもかかわらず、水俣病の研究をおこなってきた医師というのは
数えるほどしかいないのです。
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それだけでなく、一部の「専門家」が、国の水俣病診断基準である、いわゆる「昭和52年判断条件」に、
データや医学的検討に基づかない「お墨付き」を与えてきたために、2,000名余りの認定患者以外は水俣病では
ない、すなわち、「メチル水銀による健康影響は認められない」とされてきたのです。当然のことながら、一般の
医学雑誌や教科書も、それを前提として書かれてきました。
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ですから、地域の臨床家を含め、日本全国の医師、医療従事者が、「水俣病のことは分からない」と言って
しまう状態になってしまったのです。水俣病は脳が障害を受ける疾患ですから、本来は神経内科疾患なの
ですが、行政とかかわり「昭和52年判断条件」を支持してきた医師の多くが神経内科医で、学会の重鎮等で
あったため、神経内科医の大半は、水俣病の知識も診療経験も持ち合わせず、世界的に問題になっている
メチル水銀の人体影響についても知る機会がないという、皮肉な状況になっているのです。
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人間の脳細胞の数は140億個といわれています。劇症水俣病の最重症患者の脳は肉眼でもわかるくらい
の泡沫状組織になっていましたが、それはごく一部の症例であり、多くの患者や住民は惨劇のなかのサバ
イバー(生存者)であり、多かれ少なかれ中枢神経の可塑性が保たれており、障害をもちつつも、例えば記
憶や学習等の能力が廃絶するわけではないのです。例えば、140億個のニューロンの数パーセントあるい
は数10パーセントがメチル水銀により失われた際の影響、それも曝露年齢によっても異なる影響がどうな
るかは、医学では未知の領域なのです。メチル水銀中毒と同様の障害を引き起こす類似の神経疾患という
のはほとんどないのです。
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しかも、メチル水銀中毒などの中毒性疾患の研究は、現場の患者住民を観察し、
それも重症から軽症者に向かって進まなければならず、正常との境界を問題にしなければ
なりません。軽症例の追求こそ最も重要な課題の一つなのですが、そのことも神経内科分野の専門家
に十分理解されているとはいえません。
もっとも、この間、行政により救済されてきた患者らは、
このような境界例ではなく、健康障害が明確な人々です。
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残念ながら、神経学の専門家ならば当然有していなければならないこのような基礎的な態度をしっかり
持っている専門家というのは必ずしも多くありません。それは、水俣病においては、学界に対する行政の
影響力が異常に強かった歴史があることが原因であろうと考えられます。2009年7月17日の朝日新聞で、
環境省の環境保健部長(当時)は、水俣周辺地域の健康調査に関して、「カネというバイアスが入った中
で調査しても、医学的に何が原因なのかわからない。」と述べました。この発言は、環境被害では補償が
関連しうる可能性が高いことを考えると、「環境被害等による被害者の苦痛は自動的に無視されてよい」
そして「環境被害による苦痛についての医学的検討は必要ない」ということを意味しています。環境省は
いまだにこの発言を訂正しておりません。
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これまで、水俣病や水俣病患者に対する差別がありました。それは、病気自体に関するものであったり、
金銭的利害に関するものであったり、様々な形をとって行われてきました。そのため、この数十年間、
水俣周辺地域の多くの人々は、水俣病による症状を医師や隣人に伝えるのではなく、自分の病気を隠し、
耐えつづけなければならなかったのです。
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これまで、水俣病に関して地域内外で、「水俣病は感染する」、「水俣病患者は金目当て」などという無知に
基づく差別的な発言がなされてきました。本来、環境被害や食中毒疾患が発生したときに、行政はそれを
徹底的に調査し、住民に知らせ、対策を立てる義務があったのにそれを怠ってきたのです。患者や住民に
は何の責任もありません。
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近年、企業活動や製品による事故などがあったときは、企業が先に消費者に情報提供し、対策を立てる
ようになりました。本来ならば、被害者の為に行政と企業が先に行動すべきであるのに、今なお、水俣病の
認定申請でさえ、患者本人がしなければならないのです。
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チッソおよび行政は、自らが広げてしまった汚染物質による被害の実態を解明するための調査をほとんど
行おこなわず、第二次世界大戦後のメチル水銀による健康被害のかなりの部分は、私たちを含む日本の
現地での症例によって解明されてきたのです。しかも、メチル水銀では、低濃度汚染や長期汚染の影響に
関して、広大な未知の領域が残されており、
少額の補償のみに限定された現状の政策で済まされる問題ではないのです。
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おそらく、このホームページをご覧になられる皆様も、「水俣病」と聞くと、痙攣を起こして踊り狂うように
苦しまれたり、やせ細って関節が曲がって固まったりされた、劇症型水俣病患者の姿を思い浮かべられる
のではないでしょうか。
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このような劇症型水俣病はメチル水銀中毒の頂点に位置する病態であり、
そのような方々の多くは現在すでに亡くなっておられます。
原田医師の病像ピラミッドに表現されているように、重症患者から軽症患者まで、
メチル水銀の曝露量と個人の感受性により、様々な病像と重症度を示しうるのです。
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しかも、特にメチル水銀の成人曝露による水俣病では、神経内科の診察では運動系よりも感覚系の神経が
傷害されるため、他人からは一見障害がないようにさえ見えます。
しかも、詳細に観察すると、感覚、運動、精神系の機能が薄く広く、
重症者では、厚く広く障害されていくのです。
また、傷害されるのが大脳皮質を中心とした中枢神経であるため、中等症例あるいは軽症例では、
症状の動揺がみられたり、特定の機能についての改善がみられたりするのです。
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このような人々についても、多くの場合、感覚をよく調べてみることでその障害がわかります。
ただし、メチル水銀の胎児曝露で知られている胎児性水俣病では、運動障害が著明な人でも感覚障害が
ほとんどない方もおられます。このように、水俣病は非常に多彩な病像を有しているのです。私たちのよう
に何千例をみている医師ですら、患者の自覚症状を聞き、きちんとした神経学的検査をすることなしに、
水俣病を診断することはできません。見た目だけで、水俣病らしさについての論評をしないでください。
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また、「水俣病の患者は、・・・」という形で、患者の意思や感情、性格等に関する論評を行う人がいます。
しかし、多様な社会的立場、多様な人格、性格を有する地域住民全体が被害者であったのであり、そのよう
な患者層に対する心理的特徴づけなど不可能なのです。そのような論評のしかた自体が、無知と誤解に
基づくものであり、差別につながるものです。もしそのような一定の心理傾向が存在するとすれば、それは
差別や水俣病に対する恐怖心や水俣病を避けようとする気持ちでしょう。
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日本の国民が、水俣病に対する劇症例の印象をそのままにすることは、
現在の国の誤った水俣病判断条件(いわゆる昭和52年判断条件)を維持する上でも役立ったかもしれません。
熊本県、鹿児島県の水俣病認定審査会は、これまで、昭和52年判断条件に適合する患者の多くも棄却
してきました。一時期を除いて、判断条件も厳しく適用したのです。当然のことながら、このような国側の
医師は、ごく一部を除き、軽症例や感覚障害に関する研究そのものをしてきませんでした。
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そのような厳しい状況の中で、熊本大学水俣病第二次研究班、原田正純医師、藤野糺医師などが、
実際の患者に関するデータを集め、水俣病の実態と病態の解明のために努力してきました。私たち県民
会議医師団も、水俣病の諸症状、特に感覚障害に関する研究を行い、多くのことを見出してきました。
特に、近年の研究では、水俣病で全身性感覚障害と四肢末梢優位の感覚障害の両方が起こりうること、
中枢神経障害であるにもかかわらず、手袋足袋型の末梢神経障害様の表在感覚障害を起こすこと、
などが分かってきました。
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しかし、一方で、まだまだ未解明のことが数多く残されています。それは、メチル水銀中毒のように、
中枢神経系、特に大脳皮質細胞を様々な程度に広く障害するような疾患は、これまでほとんど存在して
こなかったからなのです。大脳皮質の障害では、症状の動揺、優位に障害される機能の個人差、可塑性
による症状の一時的あるいは中長期的改善などが起こりうると考えられるからです。一方で、年月を経る
ことにより、症状が新たに出現したり、増悪したりする症例も少なくなく、これらは、断続的または持続的
低濃度汚染や加齢に伴う可塑性の破綻が原因と考えられます。
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また、水俣病患者の中には、一見正常に見えて、実際に仕事につくと、作業がうまくできなかったり、
理解や判断などでハンディがあったりという例が少なくありません。このような判断力や集中力などを
含めた高次の脳機能に対するメチル水銀の影響について、私たちも、データを蓄積しつつありますが、
まだまだこれから解明していかなければならない課題が残されています。
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世界では、低濃度水銀の成人や胎児の脳への影響がいわれています。
成人あるいは母親の毛髪水銀が10ppm前後あるいはそれ以下の濃度で、成人の知能や運動機能の障害、
出生胎児の成長過程での障害が報告されるようになっています。特に、妊婦や小児などでは、
メチル水銀濃度の高いクジラやマグロなどの大型魚の摂取を控えるようにという
勧告が各国で出されています。
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