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■ノーベル賞受賞・本庶佑教授が語った オプジーボと従来の抗がん剤の「決定的違い」
◆文藝春秋 2016年5月号
■ノーベル賞受賞・本庶佑教授が語った オプジーボと従来の抗がん剤の「決定的違い」
◆文藝春秋 2016年5月号
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ノーベル賞受賞・本庶佑教授が語った オプジーボと従来の抗がん剤の「決定的違い」10月1日、
京都大学・本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授のノーベル医学・生理学賞受賞が決まった。
本庶氏の研究を基にして作られた免疫薬「ニボルマブ」(商品名:オプジーボ)は、
従来の抗がん剤との比較実験で圧勝。
従来の抗がん剤と何が違うのか。
評論家の立花隆氏が、本庶氏の「画期的研究」に迫った対談の抄録を特別公開する。
「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表された臨床試験データ
(ニボルマブ=免疫薬、 ダカルバジン=抗がん剤)
◆ ◆ ◆ 抗がん剤との比較実験で圧勝
立花 免疫療法と聞くと、僕はあまりいい印象を持っていないんです。
免疫系が病原菌をやっつけるように、何らかの手段で免疫力をパワーアップして、がんを攻撃できるようにするという発想はアイデアとして悪くない。
ヒトが本来持っている免疫系を使うわけだから、がんの三大療法である外科手術、抗がん剤治療、放射線治療より体に負担が小さいはずだという推測も納得がいく。
しかし、 これまでさまざまな免疫療法が華々しく登場しては、期待されたほどの効果を上げずにきました。そんな例をイヤというほど見てきたから、「今度こそ本当に効く」と言われても、今度もダメだろう、と思ってしまうんです。
本庶 ニボルマブ(商品名オプジーボ)が登場するまでは世界中のほとんどのがんの専門家が、免疫療法でがんが治るとは考えていませんでした。 実際、これまでの免疫療法はほぼ失敗しています。立花さんのように「本当かな」と思われるのも当然ですね。
立花 本庶さんの研究チームが発見したPD-1は、免疫細胞の表面にあって免疫細胞に「攻撃ストップ」を命じるブレーキのような働きを持つ分子です。 免疫は暴走して自分の臓器や神経を攻撃しはじめることもありますが、そうならないようにブレーキ機能がついているわけですね。
本庶 そうです。私たちの研究では、がん細胞は免疫細胞からの攻撃にさらされると、このブレーキを踏む分子(PD-L1)を出したり、他の未知の仕組みで免疫細胞の攻撃をストップさせることがわかりました。 がん細胞が免疫細胞による攻撃をはねのけ、際限なく増殖を続けることができるのは免疫細胞の監視を逃れる仕組みを持っているからなんですね。
これを応用して、もし免疫細胞にブレーキがかからないようにすれば、がん細胞に対する攻撃はもっと続くのではないかと考えました。 ニボルマブという新薬は、がん細胞が免疫のブレーキを踏めないようにブロックします。
免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しいタイプの薬です。
末期のがんが小さくなった
立花 今、世界中の医療関係者、がん患者の間で話題になっているようですね。
新しい免疫療法として絶大な期待を寄せられていますが、正直なところ、僕はまだ、免疫なんかで本当にがんをやっつけられるのかな、と思っているんです。
効果を裏づけるしっかりしたデータはあるんですか?
本庶 いちばんはっきりした効果がわかる臨床試験のデータは、 2014年11月にアメリカの医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表されたものです。
この臨床試験では、
悪性の皮膚がんであるメラノーマの患者418人を2つのグループに分け、
一方(210人)にニボルマブ、
もう一方(208人)には、当時メラノーマにいちばん効くと言われていた抗がん剤のダカルバジンが与えられました。
いずれの患者も、他の処置を受けた経験はなく、医師にメラノーマと診断されたばかりの人が選ばれています。
どちらの薬を投与されるかは、患者にも、医師にも知らされませんでした。
立花 ランダム化比較試験ですね。臨床試験ではいちばん信頼性が高いとされる方法です。 本庶 プラセボ効果といって、何かいい薬をもらっていると思うだけで元気になる効果が知られています。 そういう心理的作用を防ぐために、新薬の臨床試験では、この手法が広く利用されているのです。
先ほどの結果ですが、臨床試験開始後、1年後まで生きていたのは、
ニボルマブを投与された患者で70%、
抗がん剤では40%以下でした。
ニボルマブ投与では1年4カ月後でも生存率はほぼ横ばいの70%。
それに対して抗がん剤を投与された患者の生存率は20%を切ってしまった。
立花 いちばん効くと言われた抗がん剤にも大きな差をつけた。 本庶 そうです。 あまりにはっきり差がついたので、臨床試験を続けるのは非人道的だからやめろ、と第三者委員会が途中でストップさせたくらいでした。
これ以上続けても学術的な意義はあるかもしれないけれども、
ニボルマブのほうが有効だとわかったのだから倫理的に問題だと判断されたのです。
その後、それまで抗がん剤を投与されていた患者にもニボルマブが処方されました。
立花 どう感じましたか、その劇的な展開を聞いたときは? 本庶 それほど驚きませんでした。 私がこの薬の効果を確信したのはもっと前です。
2006年からアメリカで臨床試験がはじまり、効いているらしいという噂を耳にしていたのですが、その結果は2012年6月に「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」で発表されていました。報告された症例には、治療を止めた後2年以上がんが大きくなっていないものが多数含まれていたのです。
これに世界中の医療従事者たちがびっくり仰天した。
立花 なぜですか。 本庶 当時は免疫療法が効くなんて信じる人はほとんどいませんでしたから。 しかも試験に参加したのは、
従来の治療法ではもう手の施しようがないと言われた末期がんの患者さんたちでした。
にもかかわらず、2年以上がんの大きさが変わらない人も、小さくなる人もいた。
これだけ効果が長続きすることも、従来の抗がん剤ではなかったことでした。
それで「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2012年6月2日付)は一面で「人類とがんの長い戦いに終止符を打つ期待の最新研究が始まった」と報じました。 ヨーロッパのマスコミも大騒ぎした。
全然話題にしなかったのは、日本のマスコミだけでしたね。 効果が長く続く
立花 日本では、2014年7月に厚労省からメラノーマに対する治療薬としてニボルマブが薬事承認を受け、その年9月に「オプジーボ」として発売されますね。
話題になりはじめたのはこのあたりでしょう。
昨年12月に、肺がん(非小細胞肺がん)に適応拡大される前後から一気に注目度が上がりました。
本庶 今は、腎がんとホジキンリンパ腫(血液のがん)の申請も済んでいます。 毎年2つ、3つ、どんどん承認が進んでいくと思いますね。
アメリカのNIH(国立衛生研究所)のHPを見るとわかりますが、
現在様々ながんを対象に、ニボルマブの臨床試験が200種進められています。
すべてのがんに同じように有効かはまだ分かりませんが、胃がんも、頭頸部がんも、膠芽腫(こうがしゅ/脳腫瘍の中で最も悪性度の高いもの)も、卵巣がんも入っています。
いろいろな種類のがんに効く可能性があるという点は、これまでの抗がん剤とちがうところなんですよ。
卵巣がんについては、京大の婦人科でも小規模な臨床試験を行いました。 この時は18人に行って、3人は非常によく効いた。
腫瘍がずっと小さくなって全然再発しない。
いちばんよく効いた60代の女性は、京大病院で余命3カ月と言われていましたが、治療をはじめて4カ月で完全にがんが消えた。
今ではゴルフまでして元気そのものです。効く人には非常によく効くのです。
立花 逆に言うと効かない人には効かない? 本庶 そうです。 さきほどの2014年の論文を見ても、
70%の人は1年を超えても生き続けたけれど、
30%の人は1年以内に亡くなっているわけですから。
立花 ただ、効く人には長く効くわけですね。 本庶 そこがこれまでの抗がん剤とは違う、もう一つの特長です。 これまでの抗がん剤だと、時間の経過とともにどうしても生存率は落ちていって最後はゼロに近づいていきます。
患者さんの視点から重要なのは、この生存率(「治療後、何年生きているか」)のはずです。
ところがこれまでの抗がん剤は、腫瘍が小さくなることを「効いた」としていた。 一時的にがんが小さくなっても、がんが治ったとは言えない。
再発したり、最初に発生した場所とは別の臓器に転移したりして亡くなってしまったら同じことです。ニボルマブによる治療は、効果が長続きする。
これが従来の抗がん剤とはまったくちがうところなのです。
(構成:緑慎也) 「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2016年5月号 【詳しくはこちらでお読みいただけます】
■ノーベル賞受賞・本庶佑教授が語った オプジーボと従来の抗がん剤の「決定的違い」
◆文藝春秋 2016年5月号
ノーベル賞受賞・本庶佑教授が語った オプジーボと従来の抗がん剤の「決定的違い」「当時は免疫療法が効くなんて信じる人はほとんどいませんでした」source : 文藝春秋 2016年5月号
10月1日、京都大学・本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授のノーベル医学・生理学賞受賞が決まった。
本庶氏の研究を基にして作られた免疫薬「ニボルマブ」(商品名:オプジーボ)は、従来の抗がん剤との比較実験で圧勝。
従来の抗がん剤と何が違うのか。
評論家の立花隆氏が、本庶氏の「画期的研究」に迫った対談の抄録を特別公開する。(出典:文藝春秋2016年5月号)
◆ ◆ ◆ 抗がん剤との比較実験で圧勝立花 免疫療法と聞くと、僕はあまりいい印象を持っていないんです。
免疫系が病原菌をやっつけるように、何らかの手段で免疫力をパワーアップして、がんを攻撃できるようにするという発想はアイデアとして悪くない。
ヒトが本来持っている免疫系を使うわけだから、がんの三大療法である外科手術、抗がん剤治療、放射線治療より体に負担が小さいはずだという推測も納得がいく。
しかし、これまでさまざまな免疫療法が華々しく登場しては、期待されたほどの効果を上げずにきました。
そんな例をイヤというほど見てきたから、「今度こそ本当に効く」と言われても、今度もダメだろう、と思ってしまうんです。
本庶佑(京都大学特別教授) 提供=京都大学
本庶 ニボルマブ(商品名オプジーボ)が登場するまでは世界中のほとんどのがんの専門家が、免疫療法でがんが治るとは考えていませんでした。実際、これまでの免疫療法はほぼ失敗しています。立花さんのように「本当かな」と思われるのも当然ですね。
立花 本庶さんの研究チームが発見したPD-1は、免疫細胞の表面にあって免疫細胞に「攻撃ストップ」を命じるブレーキのような働きを持つ分子です。免疫は暴走して自分の臓器や神経を攻撃しはじめることもありますが、そうならないようにブレーキ機能がついているわけですね。
本庶 そうです。私たちの研究では、がん細胞は免疫細胞からの攻撃にさらされると、このブレーキを踏む分子(PD-L1)を出したり、他の未知の仕組みで免疫細胞の攻撃をストップさせることがわかりました。がん細胞が免疫細胞による攻撃をはねのけ、際限なく増殖を続けることができるのは免疫細胞の監視を逃れる仕組みを持っているからなんですね。
これを応用して、もし免疫細胞にブレーキがかからないようにすれば、がん細胞に対する攻撃はもっと続くのではないかと考えました。ニボルマブという新薬は、がん細胞が免疫のブレーキを踏めないようにブロックします。免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しいタイプの薬です。
末期のがんが小さくなった立花 今、世界中の医療関係者、がん患者の間で話題になっているようですね。
新しい免疫療法として絶大な期待を寄せられていますが、正直なところ、僕はまだ、免疫なんかで本当にがんをやっつけられるのかな、と思っているんです。
効果を裏づけるしっかりしたデータはあるんですか?
本庶 いちばんはっきりした効果がわかる臨床試験のデータは、2014年11月にアメリカの医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表されたものです。
この臨床試験では、悪性の皮膚がんであるメラノーマの患者418人を2つのグループに分け、一方(210人)にニボルマブ、もう一方(208人)には、当時メラノーマにいちばん効くと言われていた抗がん剤のダカルバジンが与えられました。
いずれの患者も、他の処置を受けた経験はなく、医師にメラノーマと診断されたばかりの人が選ばれています。
どちらの薬を投与されるかは、患者にも、医師にも知らされませんでした。
「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に発表された臨床試験データ(ニボルマブ=免疫薬、ダカルバジン=抗がん剤)
立花 ランダム化比較試験ですね。臨床試験ではいちばん信頼性が高いとされる方法です。
本庶 プラセボ効果といって、何かいい薬をもらっていると思うだけで元気になる効果が知られています。
そういう心理的作用を防ぐために、新薬の臨床試験では、この手法が広く利用されているのです。先ほどの結果ですが、臨床試験開始後、1年後まで生きていたのは、ニボルマブを投与された患者で70%、抗がん剤では40%以下でした。
ニボルマブ投与では1年4カ月後でも生存率はほぼ横ばいの70%。
それに対して抗がん剤を投与された患者の生存率は20%を切ってしまった。
立花 いちばん効くと言われた抗がん剤にも大きな差をつけた。
立花隆(評論家) ©文藝春秋
本庶 そうです。あまりにはっきり差がついたので、臨床試験を続けるのは非人道的だからやめろ、と第三者委員会が途中でストップさせたくらいでした。
これ以上続けても学術的な意義はあるかもしれないけれども、ニボルマブのほうが有効だとわかったのだから倫理的に問題だと判断されたのです。
その後、それまで抗がん剤を投与されていた患者にもニボルマブが処方されました。
立花 どう感じましたか、その劇的な展開を聞いたときは?
本庶 それほど驚きませんでした。私がこの薬の効果を確信したのはもっと前です。
2006年からアメリカで臨床試験がはじまり、効いているらしいという噂を耳にしていたのですが、その結果は2012年6月に「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」で発表されていました。報告された症例には、治療を止めた後2年以上がんが大きくなっていないものが多数含まれていたのです。
これに世界中の医療従事者たちがびっくり仰天した。
立花 なぜですか。
本庶 当時は免疫療法が効くなんて信じる人はほとんどいませんでしたから。
しかも試験に参加したのは、従来の治療法ではもう手の施しようがないと言われた末期がんの患者さんたちでした。
にもかかわらず、2年以上がんの大きさが変わらない人も、小さくなる人もいた。
これだけ効果が長続きすることも、従来の抗がん剤ではなかったことでした。
それで「ウォール・ストリート・ジャーナル」(2012年6月2日付)は一面で「人類とがんの長い戦いに終止符を打つ期待の最新研究が始まった」と報じました。
ヨーロッパのマスコミも大騒ぎした。
全然話題にしなかったのは、日本のマスコミだけでしたね。
海外メディアでも話題に 効果が長く続く立花 日本では、2014年7月に厚労省からメラノーマに対する治療薬としてニボルマブが薬事承認を受け、その年9月に「オプジーボ」として発売されますね。
話題になりはじめたのはこのあたりでしょう。
昨年12月に、肺がん(非小細胞肺がん)に適応拡大される前後から一気に注目度が上がりました。
免疫薬「オプジーボ」 本庶 今は、腎がんとホジキンリンパ腫(血液のがん)の申請も済んでいます。
毎年2つ、3つ、どんどん承認が進んでいくと思いますね。
アメリカのNIH(国立衛生研究所)のHPを見るとわかりますが、現在様々ながんを対象に、ニボルマブの臨床試験が200種進められています。
すべてのがんに同じように有効かはまだ分かりませんが、胃がんも、頭頸部がんも、膠芽腫(こうがしゅ/脳腫瘍の中で最も悪性度の高いもの)も、卵巣がんも入っています。
いろいろな種類のがんに効く可能性があるという点は、これまでの抗がん剤とちがうところなんですよ。
卵巣がんについては、京大の婦人科でも小規模な臨床試験を行いました。
この時は18人に行って、3人は非常によく効いた。腫瘍がずっと小さくなって全然再発しない。
いちばんよく効いた60代の女性は、京大病院で余命3カ月と言われていましたが、治療をはじめて4カ月で完全にがんが消えた。
今ではゴルフまでして元気そのものです。
効く人には非常によく効くのです。
立花 逆に言うと効かない人には効かない?
本庶 そうです。さきほどの2014年の論文を見ても、70%の人は1年を超えても生き続けたけれど、30%の人は1年以内に亡くなっているわけですから。
立花 ただ、効く人には長く効くわけですね。
京都大学発の新薬 ©時事通信社
本庶 そこがこれまでの抗がん剤とは違う、もう一つの特長です。
これまでの抗がん剤だと、時間の経過とともにどうしても生存率は落ちていって最後はゼロに近づいていきます。
患者さんの視点から重要なのは、この生存率(「治療後、何年生きているか」)のはずです。
卵巣がんが消えた
ところがこれまでの抗がん剤は、腫瘍が小さくなることを「効いた」としていた。
一時的にがんが小さくなっても、がんが治ったとは言えない。
再発したり、最初に発生した場所とは別の臓器に転移したりして亡くなってしまったら同じことです。ニボルマブによる治療は、効果が長続きする。
これが従来の抗がん剤とはまったくちがうところなのです。
(構成:緑慎也)
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