|
【】
「次に、杭のようにしっかり立つという意味でのタントウという実習をします。
足を肩幅より広くして立って下さい。」
先生の指示に従って、みんなは足を広げた。
「足の親指を真っ直ぐ前に向け、足の内側を平行にして下さい。
その状態から、片足の膝を前に出し、そちら側に体重を掛け、それを左右交互に繰り返しましょう。」
私は、その動きが片足スクワットのようでロボット歩きみたいな妙な動きだなぁと思った。
「Oさんのように、上半身を真っ直ぐにして、体が左右にブレないようにしてみて下さいね。」
なるほど、Oさんは空手をしているだけあってか、腰が決まっている。
「ミカさんもナオさんも、初めてなのに、いい感じですよ。
さすがにヨガをなさっているだけはありますね。」
先生の言葉にミカと私は顔を見合わせ、ニヤッと笑った。
「膝を前に出しながら、体重を真っ直ぐ垂直に足の裏に落としていくようにして下さい。」
先生の指導に従ってしてみると、なるほど、体重が移動した後に、足の裏に向かって体重が真っ直ぐ落ちていくのがよくわかる。
やはり、この先生は、自分の体で実践し、体を使って確かめてから、それを私たちに伝えてくれている。
先生の誘導は更に続いた。
「それだけだと足腰の運動だけになってしまいますので、それを気功っぽくしていきますね。
口の奥から息が漏れ出ていくような感じで脱力しながら足の裏に真っ直ぐ体重を落としていきましょう。
その後、腰が上がってくる時に息が流れ込んできます。」
私たちが先生の指示に従って、呼吸をつけながら片足スクワットを続けていると、仏道修行をしているBさんが声を出した。
、 「これって、やはり禅ですね!
動きを伴っている禅ですから、〔動く禅〕だと言えますね。」
禅って何だっけ?と私は思い出していた。
そうだ、そうだ、心と体を一体化させることだ。
確かに、片足スクワットをしながら、それに呼吸をつけて動いていて、そのことだけしか考えていない。
確かにこれは〔動く禅〕だ。
私はBさんの言葉に感動した。
「次に、体重が足の裏に落ちましたら、足の裏で床を真っ直ぐ下に踏み込むようにしてみて下さい。
足の裏での踏み込みの力で腰が動かされているようにしていくんです。
そして、足の裏での踏み込みも、ずーっと踏み込むのではなく、一瞬だけにしてみると、やわらかな感じになってきますからね。」
そのようにしてみると、同じ動きなのに、全く感覚が違った。
それまでは、何と言うか、よくわからないけれど、膝の曲げ伸ばしをしていたような感じだったが、足の裏で床を踏み込んでみると、本当に足の力だけで腰がふわぁーっと動いている感じなのだ。
その後に先生が言った言葉は、私の感覚を言い当てていた。
「足の裏を使っての動きは風船バレーボールみたいな感じになってきますからね。」
これまでの感覚とは違う片足スクワットを私は楽しんだ。
「それでは、今度は片足に体重が落ちたところから、腰を降ろしたまま左右に滑らせるようにしてみましょう。」
動かすのではなく滑らせるという先生の表現が面白かったが、確かに自分で動かしているというのではなく、足の裏の力で腰は独りでに滑っていく、そんな感じだった。
「では、両足の真ん中でゆっくり動きが止まっていくようにしてみて下さい。」
私たちは、お相撲さんが四股を踏んだ時のような、空手の突きの練習の時のような足の構えになった。
「さて、ここからがタントウになります。
まず、膝頭が足の甲の真上に来るように、少し股を広げて下さい。
女の人はやり辛いかも知れませんね。
そして、上から見た時に、膝の向こうに指先が見えるくらいに膝を構えて下さい。
その構えを、馬の鞍に跨がっている形を表す言葉として、マホ、中国語ならマープーと言います。
馬に歩くという漢字です。
これはさすがにTさんは決まってますね。」
Tさん?
そうだ、太極拳をしている女の人だ。
「ここからが肝心なところなんですが、命門と言って、おへその真後ろの腰椎を後ろに押し出すようにしてみます。
つまり、お尻と背中が真っ直ぐになるようにするんですが、これを〔命門を開く〕って言うんですね。」
先生は、そう言ってから、一人一人の腰に手を当て、
「ここを後ろに押して!」
などと指導したり、自分の腰に手を当てさせて、腰の形を伝えたりしていた。
勿論ノことだが、私のところにも廻って来た。
先生は私の腰に手を当て、うまく出来ていなかったのか、私の手を先生の腰に当てさせ、
「こんな風に腰を押し出すんですよ」
と言って腰の骨を動かした。
腰骨がびくっといった漢字で後ろに来て、腰が真っ直ぐになった。
「自分たちで腰に手を当て合って、腰の形を確かめてみて下さい。」
あちこちで、隣の人と腰の形を確かめ合うようにしていた。
私もミカと腰に手を当て合って練習してみたが、これはなかなか難しかった。
「足を馬歩にして、命門を開いた後、肩の力を抜いて、お尻を降ろし、体重が踵に真っ直ぐ落ちるようにして、しばらく立ちましょう。」
このタントウはかなりきつかった。
膝が震えた。
大腿部の筋肉が痛くなった。
この形で体の中を〔ふぁんそん〕にする?
出来る?
私には、遠い課題のように感じられたのであった。
|