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歌声の講座の「森のくまさん」は早口言葉のやうで手ごはし
ふり絞り天辺より出す「サンタルチア」歌ひ終はりて汗のにじみぬ
朝めしは夕べ残りし菜を入れて「だご汁」作る湯気を上げつつ
身を少しよじりて伸ばす指先に鋏カッター鉛筆の箱
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道の辺にさらされているクマゼミの子を残せしやここに果てたる
自動ドア開けば総身に熱風を受けて出で行く八月の街
「次期総理」とテレビの音を聞きながら厨に玉ねぎみじん切りする
一瞬に季節のはざまは過ぎゆくや裏のこおろぎ一斉に鳴く
日光を全身に浴び命綱揺らせしもわが過去となりたり
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家族寝ね静かとなりし午前二時電気スタンドの小虫見ており
この夜も耳鳴りはして目につきし卓のくもりをごしごし拭う
真夜中のガラスに映りし照明の暗き光と私の顔と
狂いたる時計の針はふるえつつ今を離れし時刻をしめす
善く生きているねと励ましくれし師に胸を張れるや老いそむる今
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起き抜けの一歩の重心危うくてたたら踏みいる夫に言わねど
雨空の照りを返せる薔薇の葉のしずく受けてはかすかに揺るる
病院の磨かれし床歩くとき靴底の泥はしがみつきいる
処置室に名を呼ばれたる男性は幼のごとく素直に立ちぬ
いつの日より前後変わるや娘のあとに従うごとく通る改札
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灯り消し闇を歩けば現世に取り残されし体はゆれて
入梅となりてしき降るこの地にも粛々と時は流れてゆけり
降る雨に傘は鼓動のごとく鳴りわれの小さき空間守る
雨に照る路地に人なくわれ一人さつきこぼるる中を歩めり
衣食住足りて今夜もありがたくいただきますと命を食ぶる
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