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翌朝、エリザベスは階段を下りていくと、手紙を持って書斎から出てきた父親に出会った。
「じつは今朝、びっくりする手紙を受け取ったんだ。内容はおもにおまえに関係することだから、すぐに知らせたほうがいいと思ってね。娘がふたりも結婚間近だとは知らなかった。とにかくおめでたいことだから、おめでとうを言わせてもらおう」
これは、キャサリン夫人ではなくダーシー氏からの手紙だと思い、エリザベスの顔はみるみる赤くなった。
「察しがついたようだね。こういうことには、若い娘は勘が鋭い。でも、おまえがいくら賢くても、この手紙の主が誰か、ぜったいにわからん。じつは、コリンズ氏からの手紙だ」
「コリンズさん!あの人が、いったい何の用があるの?」
「もちろん、大事な用があるから手紙をくれたんだ。まず、ジェインの結婚にたいするお祝いの言葉で始まっている。おまえに関係あるのは、こういうことだ。
『ジェインさまにつづいてエリザベスさまもまた、遠からずベネット姓とお別れするとのこと、しかもそのお相手は、わが国でも指折りの名士のおひとりであるという、その噂についてであります』
リジー、そのお相手が誰だかわかるかね?
『その青年紳士は莫大な財産といい、名門の血筋といい、すばらしい後見人といい、人間が望みうるすべての幸せに恵まれた人物であります。しかし、このようなすばらしいお話ではありますが、貴殿ならびにエリザベスさまにひと言ご忠告申し上げます。この紳士から結婚の申し出があった場合、即座にご承諾なさりたいお気持ちはわかりますが、その早まったご承諾が、どのような不幸を招くことになるやもしれません。くれぐれもご用心なさるよう、重ねてご忠告申し上げます』
リジー、この青年紳士はだれかわかったかね?だが、すぐにわかる。
『ご忠告申し上げる理由はこうであります。その方の叔母上にあたるキャサリン・ド・バーグ夫人が、この縁組を好意的に見ていないと考えらえれるからであります』
つまり、その青年紳士はダーシー氏というわけだ!どうだ、リジー驚いたかね?この噂の出所は、コリンズ氏かルーカス夫妻かどっちか知らんが、なぜわざわざ、すぐに嘘とわかるような名前を選んだのかな?ダーシー氏は、女性を見ればアラ探しばかりしているし、おまえの顔などちゃんと見たことがないんじゃないかね?とにかくあきれた噂だ」
エリザベスは父親の冗談に調子を合わせようとしたが作り笑いをするのがせいぜいだった。父親の冗談がこれほどつまらなく聞こえたのははじめてだ。
「面白くないかね?」
「面白いわ。先を読んでください」
「『この結婚はありえないことではないと、昨夜キャサリン夫人に申し上げましたところ、夫人はいつものようにさっそくご意見を述べてくださり、この結婚はベネット家の側に問題があり、たいへんな身分違いの結婚だから、ぜったいに認められないともうされました。そこで、小生は、これを一刻も早くエリザベスさまにお知らせし、彼女とダーシー氏がご自分たちのしていることを自覚し、キャサリン夫人の承認を得られぬ結婚は思いとどまるようご忠告するのが、自分の義務と考えた次第であります』
リジー、コリンズ氏はさらにこんなことも言っている。
『また、リディアさまの悲しい事件が大事に至らずに一件落着したことを、小生は心から喜んでおります。ひとつ気がかりなのは、結婚前にふたりが同棲していたことが、世間に知れ渡っていないかという点であります。しかし噂によれば、貴殿は結婚式のあと新郎新婦をお宅に迎えられた由、この点につきましては、小生は聖職者の義務として、驚きを表明せずにはいられません。それはまさに悪徳の奨励であり、小生がロングボーン村の教区牧師であれば、断固反対したでありましょう。貴殿はキリスト教徒として、ふたりを許すべきではありますが、すぐにふたりをお宅に迎えたり、平然とふたりの名前を耳にすることなど、断じてすべきではありません』
どうだね、リジー、これがコリンズ氏の言うキリスト教的寛容だそうだ!このあとは、コリンズ夫人の近況が書かれている。いよいよ赤ん坊ができるそうだ。だがリジー、ずいぶん浮かない顔をしているじゃないか。まさか淑女ぶって、くだらない噂に怒ったふりをしているんじゃないだろうな。われわれは何のために生きているのかね?隣人に笑われたり、逆に彼らを笑ったり、それが人生じゃないのかね?」
「あら、とっても面白いわ」とエリザベスは言った。「でも、なんだか変な話ね」
「だから面白いんじゃないか。噂の人物がダーシー氏じゃなかったら、この話は面白くもなんともない。だが、彼はおまえにぜんぜん気がないし、おまえも彼が大嫌いだというのに、そのふたりが結婚するというんだから、こんな愉快な噂はないじゃないか。私は手紙を書くのは大嫌いだが、コリンズ氏との文通だけはぜひ続けたい。彼の手紙を読むと、ウィッカムより好きになってしまいそうだ。ウィッカムの厚顔無恥と偽善も捨てがたい魅力があるがね。それでリジー、この噂について、キャサリン夫人はなんて言ってたのかね?この結婚には反対だと、わざわざ言いにきたのかね?」
この質問に、エリザベスは笑って答えただけだった。父親はこの噂をまったく信じていないので、それ以上うるさく質問しなかった。エリザベスは、おかしくもないのにおかしそうな顔をするのがたいへんだった。ほんとは泣きたい気分なのに、笑わなければならないのだ。ダーシー氏は彼女にぜんぜん気がないという父親の言葉は、何よりも彼女を苦しめた。 つづく…
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