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例えば誰か一人の命と引き換えに世界が救えるとして、僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ・・・。
私の好きなミスチルの曲の一節。
私はどう考えても絶対に世界を救うことはできない。
でも・・・
連休を利用して、まっくんと帰省した。
訳あって暫く疎遠になっていた実家だったが、昨年から再び何度か訪れるようになっていた。
じいじ、ばあばとまっくんは私の身勝手な振る舞いで失ってしまった時間を埋めようと、帰省中の予定はびっしり。
そんな三人の姿を見て、反省さずにいられる程の図太さは私にはなかった。
さて、前回の帰省で話題に出たのが鍾乳洞探検。
実家の近く、車で30分程のところに鍾乳洞がある。
私も子供の頃連れて行ってもらったらしいが、さっぱり記憶にない。
そんな事を両親の前で言えば、舌打ちと冷えた視線を浴びるのがオチ。
黙ってじいじの鍾乳洞の説明に適当な相槌を打っておけばいいサ、と大して関心のない様子を決めこむ私の隣で目をキラキラと輝かせて鍾乳洞探検に思いを馳せるまっくん。
これは2月の事。
それ以降、まっくんの鍾乳洞探検に対する情熱の炎は増すばかり。
当然、今回の帰省のメインイベントに当てられた。
国の重要文化財の指定を受けているその穴は名前を千仏鍾乳洞といい、プチ探検家達には随分有名なところらしい。
人が入る事ができるのは入口から1200m程のところまで。但し照明があるのは900mのところまでで、後の300mは懐中電灯が必要だという。
更に普通に靴を履いたままで行けるのは500m程のところまでで、その後はズボンの裾をまくって深いところは膝くらいまである水の中をざぶざぶ行かなければならないそう。
そらプチ探検家達大喜びのスポットに違いなかろう。
かくして鍾乳洞探検に出かけたまっくん探検隊。
事前に調べたところでは、小学校低学年くらいの子供は大抵水に入って暫くして、人が一人ようやく通れるくらいの難所が続くあたりで怖くなって引き返すことになるそうで、まっくんもそのクチだろうと、タカをくくっていた。
鍾乳洞に入ると、まっくんは怯むことなくズンズンと奥へ進んで行く。
足を濡らさなければ進めないところになっても全く臆することなく入水。
先に音を上げたのはばあばとじいじの方。
難所続きの鍾乳洞に辟易して、引き返すことに。
二人になったまっくん探検隊だったが、まっくん隊長の冒険心は衰えを見せず、難所を小さな身体で次々とクリア。
後から付いてくる私に手を差し伸べる余裕さえある。
連休中とあって、鍾乳洞は結構な混み合い。
ただ、奥になるに従って探検家達の姿はまばらになってきた。
果たしてまっくん探検隊は照明のある最深部に到達。
私が小さくガッツポーズを決める隣に鍾乳洞深部、灯りのない漆黒の闇を強い眼差しで見つめる小さなまっくん隊長。
まさか・・・
その時、後ろから懐中電灯を持ったグループが。
グループは当然、さらに深部に向かってアタック。
そのこぼれ灯を見て、まっくん隊長が一言。
「こうじ、行くよ」
(まっくんは父親である私を物心ついたころから呼び捨てにしている)
冷静に考えれば無茶な話。
知性のある親ならばここは断固諦めるべき。
でも、その時のまっくん隊長には私に有無を言わせないカリスマが宿っていた。
こぼれ灯を頼りに進むこと数十m、照明の整備された洞内とはうって変わって真っ暗な環境になかなか歩が進まない。
ふと振り返ると、そこは漆黒の闇。
危険を感じた私はまっくんに挑戦の断念を促した。
当然、拒絶。
しかし親として絶対に続行はさせられない。
暗闇の中で足を滑らせたケースや、進む方向が分からなくなったケースなど、今後の危険性を繰り返し説き、引き返すことに。
暗闇の中を二人、手を繋いで照明のあるところまでおぼつかない足取りで戻る道中、まっくんは悔しさに涙した。
私の事も責めた。
私は内心、まっくんのことを頼もしく思った。
内気で、争いごとを好まないまっくん。
ゲーム待ちの列に割り込まれても、仕方ないやと平然としているまっくん。
女の子の友達が多くて、ままごとの好きなまっくん。
でも、私の前をさっきまでと変わらないしっかりとした足取りで、しかし勇敢に暗闇に立ち向かったのに挑戦に破れた悔しさを背中に滲ませて歩くその姿は、今までのまっくんの印象とは異なって見えた。
鍾乳洞を出て、じいじ、ばあばと合流して濡れた足をばあばに拭いてもらいながら、まっくんは人目もはばからず号泣した。
鍾乳洞の最深部には三つの滝があるという。
私はまっくんと必ず滝を見ようと決意した。
私の好きなミスチルの歌の一節。
ヒーローになりたい。
ただ一人、君にとっての。
私はどう考えても絶対に世界を救うことはできない。
でもまっくんのヒーローになりたい。
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