心が動いたこと。

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人の心の底に潜む不思議に光を当てる百の物語 銭ィ婆の百物語・第6話
わたしが銭ィ婆から聞いた百物語です。面白かったら「転載」して銭ィ婆の百の物語を皆に聞かせてあげてください。
http://www.geocities.jp/zeniiva/100_62.JPG http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第1章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おかあちゃぁん、夕焼けデンキが、つかなぁい。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「あ、ホント、真っ暗だ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「まっ暗くらの、まっくろくろすけだぁ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  寝室を照らしている照明のひもをもう1回引くとスモールライトが点くはずなのに、真っ暗になってしまった。豆電球が切れたらしい。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ナッちゃんね、暗いの、こわくなぁい! おかあちゃん、こわい?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実は3歳。部屋が一気に真っ暗になったのをおもしろがって、ふとんからもぞもぞと這い出してきた。ふとんの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「夕焼けデンキ、つかないね。夕焼けデンキーッ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実はオレンジ色に点るスモールライトのことを夕焼けデンキと呼んでいた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おとうさぁん。ちょっと来て。この部屋、豆電球が切れちゃったみたい。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子は居間でテレビを見ている夫の雅之を呼んだ。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おとうちゃぁん。きてー。夕焼けデンキがつかないと、まっ暗だよー。オバケ、でるよー。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実はこんな些細なことでもワクワクするのか、声がはずんでいる。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  廊下の戸が開いて、雅之が現れた。照明のひもをパチパチと引いて、豆電球が切れたことを確かめた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「本当だ、切れちゃったなあ。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「じゃあ、今夜はまっ暗で、ねるの? 夕焼けデンキつけないで、ねるの?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん、そうだな。明日、日曜だから、シロガネ屋で電球買ってこよう。ナッチも連れてってやるぞ。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「わーい。風船くれるとこ?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん、風船もらえるぞ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ナッちゃん、ミカン色の風船がいい。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ナッチはミカン色が好きだなあ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「今日はまっ暗でねるの?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ああ、そうだな。ナッチは真っ暗な部屋で寝るのは、初めてか? 怖いか?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「こわくなーい。だって、ナッちゃんね、生まれるまえ、まっ暗だったよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「生まれる前?」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん、まっ暗でね。ずーっとそこに入ってたんだ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「へえ? 本当に覚えてるのか? そんなこと。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実は得意気な声で返事をした。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「まっ暗でねー、えっとー。まっ暗でね、あったかいんだ。イイキモチー。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「本当か? ナッチ本当に生まれる前のこと覚えてるのか?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん、おぼえてるぅ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「すごーい。じゃあ、そのときのこと、もっと教えて。」道子が思わず父と娘の会話に口をはさんだ。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「いいよ。そいでね、ぎゅうっとでてくるの。それから、ぱあって・・・夕焼けデンキみたいにねぇ、ぱあって・・・ミカン色でね。・・・あーあーあーってナッちゃん泣いたぁ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「それって、生まれた瞬間のことね。ぎゅうっと押し出されて出てきたってこと?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「そしたら夕焼けデンキみたいに明るくなったのね。何か見えた?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ううん。何にも見えないよ。でも、目がずっと夕焼けデンキみたいなの。ナッちゃん、びっくりしたよ。まっ暗だったのにね、ぜんぜんちがうくなったから。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「生まれたとき、看護婦さんが最初に抱っこしたの覚えてる?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ううん。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ナッちゃんは生まれたとき、何て思ったのかしら?」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「わぁ!って思ったよ。でも夕焼けデンキみたいに見えたんで、こわくなかったよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「ナッチが生まれて初めて感じた光は、ミカン色だったんだな。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「んー。そう。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「生まれた時、嬉しかったか?」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ん?」 雅之の質問に対し、夏実はよく分からないようで、答えにはなっていなかった。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「とうさんとかあさんは嬉しかったぞ。ナッチが生まれて涙が出るくらい嬉しかった。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ふうん。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「きっとナッチがそのとき見た光は夕焼けデンキじゃないと思うな。それはきっと、朝焼けライトだ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「あさやけ? あさやけってなあに?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「朝焼けってのはな、お日様が昇るとき空がミカン色になることさ。1日の始まりの色だ。そうか、ナッチは朝焼け見たことないんだ。ようし、じゃあ、明日の朝は早起きして朝焼けを見に行くぞ。天気もよさそうだしな。桜山に登って日の出を見よう。ナッチ、朝焼けはきれいだぞ。感動するぞ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  雅之はスモールライトの点かない暗い寝室で、子どもがはしゃぐように声を弾ませた。夏実もころころと笑い声をあげた。そんな夏実を道子はぎゅっと抱きしめて頬ずりし、心ゆくまで、幼い娘の温かな肌の感触を味わった。 http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF
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人の心の底に潜む不思議に光を当てる百の物語 銭ィ婆の百物語・第6話
http://www.geocities.jp/zeniiva/100_62.JPG http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第2章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  次の朝。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実の家族3人は、はりきる雅之に連れられて、日の出前のうす暗いうちから桜山に登った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  最初は眠くてぐずっていた夏実だったが、桜山の展望台に着くと、雅之に肩車されてごきげんだった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  太陽が姿を現し始めた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  東の空は、太陽の光に染め出されて魔法のように色を変えていた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  その色をなんと呼べばよいのだろう。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ミカン色、茜色、黄金色、・・・すべての命に恵みをふりそそぐ温かいエネルギーに満ちた色だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「ほら、ナッチ。これが朝焼けライトだ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「わあ!」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  朝焼けライトが夏実のほおを染めていた。夏実は目を細め、天使のような笑顔を作った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  そのりんごのようなほっぺの両方についた小さなえくぼまで、朝焼けライトは照らし出していた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ナッチも生まれたとき、こんな光を見たの?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「うん、うん。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「そうか。きっと人生の始まりはこんな明るい温かい光に照らされているんだろうな。ナッチ、ほら、ごらん。これがおまえの世界だ。呼びかけてごらん。おーい、やっほーって。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実は雅之に肩車されたまま、あどけない声で元気いっぱいに叫んだ。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おーい。やっほー。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   雅之も、その後を追って叫んだ。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おーい。やっほー。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子も両手を口に当て、街に向かって声を飛ばした。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おーい。やっほー。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  展望台の下には初夏の緑に彩られた街並みが見えた。3人の声はすがすがしい早朝の空気の満ちた静かな街の彼方へと広がっていった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第3章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF   本当に人は生まれてくるときに、太陽のようなあたたかな色の光を見るのだろうか。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  3歳の夏実の放った言葉には、どこまでが真実でどこまでがイメージの世界のものなのか判定しがたい曖昧さがあった。けれども道子も雅之も夏実の言葉を信じていた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  当の夏実は、小学校に上がった頃には自分がそんなことを言ったなどとはすっかり忘れてしまっていたのだが・・・。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「え、生まれる時のこと? 覚えているわけないじゃん。そんなの。」 すまし顔で夏実は言う。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   けれども道子はときどき雅之にこっそりと、こう言った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「夏実はとっても記憶力のいい子だものね。本当に3歳のときは、生まれる前のことや生まれた瞬間のことを覚えてたのよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「そうかもしれないね。」と雅之も、うなずいてくれた。雅之も一人娘の夏実を、愛して止まないのだった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  一人娘というものは、どのように育てればよいのか分からぬこともあり、子育ては決して平坦な道ばかりという訳ではなかった。けれども心配や不安に直面するたびに、道子も雅之もあの朝焼けライトを見たときのことを思い出し、自分自身を勇気づけてきた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  大学生になった夏実は東京に下宿をし、思いの外早く、道子と雅之の2人だけの静かな生活が訪れた。茶箪笥の上には、夏実が小学生のとき沖縄旅行をした家族3人の記念写真がいまだに飾られている。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ある晩、雅之が晩酌をしていると、道子が茶箪笥の上の写真立てを手にとってのぞき込み、しみじみとこう言った。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おとうさん。あたしね、いまだに不思議に思うことがあるのよ。夏実が生まれたとき見た光っていうのは、あの寝室のデンキのようにぼんやりした穏やかな光なのか、それとも朝焼けのように明るく力強い光なのか、どっちなんでしょう。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「さあ、どっちかなあ。かつては自分も見たはずの光なんだろうが、皆目見当がつかないよ。俺としては朝焼けのように明るく力強い光がふさわしいと思うけどね。」そう言って雅之は、またあの日のことを思い出し、目を細めた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第4章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆   http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF   あの朝焼けを見た日から、30年の月日が流れた。長くて短い30年だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子は今、県立病院の癌病棟のベッドにいる。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  2度の外科手術、苦しい抗ガン剤の投与、放射線治療などのかいもなく、癌はあちこちに転移していた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  末期癌だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF
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http://www.geocities.jp/zeniiva/100_62.JPG http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第4章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  あの朝焼けを見た日から、30年の月日が流れた。長くて短い30年だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子は今、県立病院の癌病棟のベッドにいる。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  2度の外科手術、苦しい抗ガン剤の投与、放射線治療などのかいもなく、癌はあちこちに転移していた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  末期癌だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  妊娠7ヶ月の夏実は大きな腹を抱えて、毎日道子の世話をするために病院へ通っていた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「はあぁ、夕べは本当にしんどかった。全然眠れなかったよぉ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「また、痛くなっちゃったの。そんなに痛いんだ。大変だね。でも看護婦さんがお母さんのこと褒めてたよ。すごく我慢強い人だって。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「そんなんで褒めてもらったって自慢にもならない。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「今は痛くないの?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ああ、本当にあのモルヒネって薬は強いんだよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「お水、飲む?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実はそう言って、吸い飲みの先を道子の口にそっと当てた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  実のところ、道子はもう殆ど目が見えなくなっていた。癌という病気は、道子の全身に広がるにつれて、今まで当たり前に持っていた身体の能力の1つ1つを奪い取っていった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  熱が高いせいだろう、道子には吸い飲みのガラスの口がひんやりと冷たく感じた。しかし強い薬の副作用で、道子は慢性的な吐き気に付き惑われていた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「この水はだめ。気持ち悪い。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「え? だめ?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「水道の水だろ。そん中には発ガン物質、入っているから。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「あら、まあ。本当?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  おかしなことを言う、道子の頭も癌とそれがもたらす苦しみに犯されて少しピントがずれてしまっているのか、と夏実は心の中で苦笑した。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「じゃあ、何を飲むの?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「午後の紅茶」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「レモン? ミルク?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ただの甘いの」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「わかった。買ってくる」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「かあさんのはいいよ。夏実、飲みなさい。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「え? わたしいらないわよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おなかの赤ちゃんが、甘いの欲しがってるよ。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「まさかあ。」 そう言って、夏実はちょっと笑った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「がんばって、その子の顔見るまで死なないからね。」 もう、目が見えなくなっている道子は言った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「あと、何日で生まれるんだい。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「あと2ヶ月とちょっとよ。でもこの子の顔見るまでなんて言わずに、2番目の子の顔も、3番目の子の顔も見てよね。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   夏実は大きな腹をさすりながら言った。明るい声をだしたつもりなのに、少し声が震えてしまった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「そう。明日生まれればいいのに・・・。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「やだ、それじゃ、未熟児じゃない。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「大丈夫。今は医療が発達してるから。産むときだってなんにも心配いらないよ。お医者さんを信じてね。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   道子の励ましに、夏実はなんと言葉を返せばよいのか分からなかった。「医者を信じれば何も心配いらない。」・・・その言葉をできればそのまま母に返してあげたい。けれども、これまでの道子の苦しみに満ちた治療と病状の経過をふり返ると、そんな虚しい綺麗事はとても言えないと夏実は感じた。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おとうさんは、どうしたんだろうね。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「やだ、まだ昼間よ。おとうさんは会社でしょ。あと1年で退職だから、そうしたらおかあさんと草津とか別府とか温泉めぐりしたいって、楽しみにして毎日仕事に行ってるよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   「竜也さんは。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「竜也さんも、会社よ。赤ちゃん生まれるからいっぱい稼がんとって、頑張って残業してる。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「そんな、根詰めんでなぁ。風邪ひいとらん?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「大丈夫、竜也さん、全然、風邪ひいてないから。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おとうさん、風邪ひいとらん?」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「大丈夫。みんな、風邪ひいてないよ。元気だよ。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実はそう言って、そっと道子の手を握った。ぎゅっと握りしめたらくしゃくしゃと折れてしまいそうな、乾いた痩せ細った手だった。   http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  
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http://www.geocities.jp/zeniiva/100_62.JPG http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 第5章 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  道子が会話らしい言葉を家族と交わしたのは、あれが最後だった。その後、道子は薄目を開けたままとろとろと眠っているような様子が続き、何を話しかけても「ん。」と言うばかりだった。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   すぐに喉にタンがからみ、濁った息苦しそうな音を立てた。津波のように襲ってくる激痛には、声も出せずに身体をよじって涙をこぼして耐えていた。道子の身体に繋がれる管や点滴の数が日に日に増えてきた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   とうとう、痛みの最中に腸閉塞を起こした。未だかつて味わったことのないほどの苦しみと激痛が道子を襲った。道子は声にならぬ声でもがき苦しみ、心の中で叫だ。   http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  ううう、、、か、、、神さま、、、これ以上耐えられない!  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  どうしてこんなにしてまで生きなければならないのですか! http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  こんな、無意味な苦しみを創ったのはあなたですか?  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   く、、、苦しすぎる、、、ひどすぎる!  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  生きるということは、こんなにも、し、、、しんどいものなのですか?  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  道子の体内から「時間」というものが無くなっていく。1秒の経過が永遠に感じるほどに歪む。下腹部を中心に身体のいたるところに鋭い牙で食らいついてきて、離れることのない激痛。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子はたくさんの管やコードが繋がれたまま、別の部屋に移された。  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  お願い、ここから出して欲しい! 早く出して! お願い、おうちに帰して!  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF  心電図は非情なまでの規則正しさで時間の経過を刻んでいたが、道子の心臓はその時間経過についていけなくなっていた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ベッドの周りには家族が立っているようだった。医師が道子の胸を押して何とか心臓をもたせようとしているようだった。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  病室がずんずん暗くなり、それと同時に、ようやく痛みが遠のいていった。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ふわっと楽になる感じだった。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ああ、ありがとう。お医者さん、看護婦さん。あなたたちのお陰だ。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ありがとう。おとうさん、ナッちゃん。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  道子はそう言うと、真っ暗になった病室で、疲れを癒すためにすやすやと眠りに落ちた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  どのくらい時間がたったのだろう。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  ぱたん、と病室のドアが開いた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おかあちゃん。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF
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人の心の底に潜む不思議に光を当てる百の物語 銭ィ婆の百物語・第6話
http://www.geocities.jp/zeniiva/100_62.JPG http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF    「おかあちゃん。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  部屋は暗かったが、道子にはその声の主が誰であるかはすぐ分かった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF    「ほら、夕焼けデンキ買ってきたよ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ほら、道子、豆電球買ってきたぞ。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ミカン色の風船、もらったぁ。」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実は嬉しそうに、ころころと笑った。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「この部屋は真っ暗じゃないか。はやくデンキを点けよう。」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF そう言うと雅之は道子のベッドに上り、夏実を肩車した。なぜか部屋は真っ暗なのに、道子にはその姿を見ることができた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「ナッちゃん、たかい、たかーい!」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 夏実は舌足らずのかわいい声で歌うように言いながら、豆電球を天井にはめ込みキュッキュッと回していった。天井のすごく高いところが、ぽっと、ミカン色に明るくなった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「わーい、夕焼けデンキだぁ」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夏実は雅之の肩から下ろしてもらうと、道子の布団の上でバンザイをしてぴょんぴょん飛び跳ねた。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夕焼けデンキに照らし出された部屋を見回すと、そこは道子たちが昔住んでいた借家の寝室だった。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「ああ、やっと、おうちに帰ってきたんだ! ただいま、ナッちゃん!」  道子は声を弾ませてそう叫ぶと、布団の上ではしゃいでいる夏実を抱き寄せて、頬ずりをした。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  夕焼けデンキはいつの間にか、明るさを増していた。どんどん明るくなっていった。いつの間にか、それは太陽に変わっていた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   3人は桜山の展望台にいた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「よかった! また朝焼けライトを見に来ることができた!」 雅之が嬉しそうに声をはずませた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「本当に、なんて愛おしい光でしょう。」 道子が眩しさに目を細めながら言った。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 朝焼けライトは夏実のりんごのような頬にできたかわいいえくぼを、照らし出していた。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「ねえ、おとうさん、わたし、分かったの。夏実が生まれた瞬間に見た光は、生きてる世界の光だったんだわ。生きてる世界はこんなにも明るく温かいの。夏実がわたしのお腹から出てくるとき、最初は夕焼けデンキのように遠くに見えたのが、どんどん近づいてきて、この世に生まれ落ちた瞬間はこの朝焼けライトのように眩しい光になったのよ。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「ああ、そうだね。すごくあったかくて、いい光だね。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF そう言うと雅之は両手を口に当て、街へ向かって声を飛ばした。   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF  「おーい、やっほー。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF   夏実も父をまねて幼い声を飛ばした。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「おーい、やっほー。」  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 道子もうきうきして、思いきり叫んだ。  http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「おーい、やっほー。」   http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 3人の声は、朝焼けライトに照らされてキラキラ光る静かな街の空へと広がっていった。   http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF    http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「俺と夏実は街に戻るから。」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF しばらく景色をながめた後、雅之は言った。道子は深くうなずき、雅之と夏実を抱きしめた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「わたしは、ずっと、ずうっと、ここにいる。朝焼けライトに照らされる、夕方デンキに守られる、ナッちゃんとおとうさんを、ずっとここで見てるから。」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 「うん、わかった。そうしておくれ。道子がここで見ていてくれれば、俺も夏実もいつも勇気が持てるよ。」 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 道子は雅之と夏実を抱きしめ、たさくんのキスをした。    http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF それから手を振り、展望台から降りてゆく2人の姿をいつまでも見守っていた。 http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF 次第に遠ざかって小さくなっていく雅之と夏実の姿は、温かな光に照らされてキラキラと輝いていた。    http://www.geocities.jp/zeniiva/d.GIF その光は、ミカン色、茜色、黄金色、・・・すべての命に恵みをふりそそぐエネルギーに満ちた色をしていた。生きている世界が放つ、素晴らしい光芒だった。(完)  http://www.geocities.jp/zeniiva/a.GIF

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