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私は幻覚を見ているのか
慎重に第二ステップ(戦艦の舳先みたい)の上に這い出ると
すぐ正面に頂上が迫って威圧的だ、
左側の雪庇に気をとられながら恐る恐る200m程進むと、
左の雪庇に仰向けになった死体があるではないか、
また、私は幻覚を見ているのか、
ゴーグルをずらし目をこすってみるとまだきれいな真新しい死体である。
どうして仰向けになっているんだ、
この氷の斜面で格好が不思議でならない、素手の両手を握りしめ、
こぶしを空に向かって「かかってこい」と言いたげな格好で
凍り張り付いている。つい最近の遺体であろう、
頂上目前にして、また1人チョモランマの餌食となっている。
「志半ばにして」誰のせいでもない、自分の責任である。
それがチョモランマであることを自分に言い聞かせる。
握りこぶしの指がウインナーソーセージを
焼き過ぎたときのように黒く焦げてプリッと割れて赤みが覗いている。
頭は谷側両足は山側(雪庇)に伸ばし、白目をむき出しのまま、
まるで瞬間にして凍ってしまったのか、どう考えても理解できない、
両手を合わせそっと通り過ぎる。
どこまでも青い宇宙が天高く続いている、
山また山の、神々の世界か、あの世の世界か、
人工の物は何一つ無い、神秘の世界。
酸素を吸うあえぎ声とアイゼンが氷を噛む音だけが聞こえる。
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