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第六キャンプ

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ここから最後の頂上までは高度差548m、距離1,300m、
日本の山ならひとっ飛びだがここはバーチカルリミッテッドの世界、
何をするにおいても人間の限界をはるかに超えた世界なのだ。

出発の準備

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最終アタックへの準備
やっとテントが建ったが底は4分の1空中にはみ出している、
昨夜の第五キャンプもそうであったが完全にきちんと張れる場所は無いのだ。
氷を割って飲み物を作る。流動物しか体が受け付けないのだ。
夜中に出発の為、今から出発の準備をしておく。

荷物は最少限を考え、予備の手袋に予備のゴーグル、
ビデオカメラ、ビデオバッテリー5本、デジカメ、ヘッドランプ、
1リットル入りのテルモス(携帯魔法瓶)、板チョコ3枚、
酸素ボンベ5.5kg2本、何度もザックへ入れたり出したり、
一眼レフのカメラはシンゲに持たせる、後は全てテントに残す。

この高度では何をするにも酸素マスクを付けての作業。
まして3人用のテントに三人である、
その狭いテントの中でコンロを炊くのだ。

ここまでに何度かやっと出来たお湯をひっくり返し、
その度にテントはパニックとなる。水分はすぐに凍結してしまうから…

山頂アタック前

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出発時間は夜中の2時とし、装備を付けたりお茶を沸かすため
起床は2時間前の12時とする。
それまでまだ3〜4時間の余裕がある。
寝袋に頭まで突っ込んで何とか寝ようとするが
無理なことは分かっている。

アタック前の緊張で頭が冴えているのだ。
色々なことが、この先のルート、子供、天候、母、
登頂、家族、撤退の時期、友達、衛星電話、下山、ローン、
葬式、記者会見、にぎり寿司、車、等など、
とどめなく次から次と涌くように出てくる、気がおかしくなりそうだ。

出発前の緊張で膀胱が満杯だ。
小便に出たいがテントの一番奥に位置しているので出づらい、
苦しいがしっかり握り締めてこらえるしかない。
少しでも荷を減らすために
第四キャンプにトイレボトルを置いてきたのが失敗だった。

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そして、遂に、あっという間に出発の時が来た
外の天気が気になる、テント出入口の紐を解いてそっと頂上のほうを見る。
「やったー、月光が雪面を白く照らし出している」。
昨夜パサンと話し「出発のとき天候が悪ければ退却」と決めていたのだ。

登山靴は何とかテントの中で履くことが出来るが、
アイゼンやハーネス(安全ベルト)を装着するにはどうしても
外で付けざるを得ない。

外は-30度、出発準備のシーンをビデオに収めようと
バッテリーをセットしスイッチを入れたが
3秒ほどでビデオが動かない「しまった」ビデオが凍りついたのだ。
バッテリーをいくつも取り替えても全く作動しない、

何てことだ。必死の思いで肌身につけて大切に暖めていたのに。
ベースキャンプから頂上までのルートを克明に撮影したビデオは無い。
この撮影に成功すれば世界で初の貴重な記録となり、
テレビ局に売り込めたのに、ちょっとしたたくらみは一瞬にしてパーとなった。

考えがあまかった。世界初のエベレストベースキャンプから
頂上までの全ルート撮影はあきらめよう!

気を取り直し登頂することに集中しよう。
テントの外、ヘッドランプの明かりに素手でアイゼンバンドを
締めるが自分の手なのに感覚がすぐに無くなる。
あまりの冷めたさにやっぱり手袋を着けて締めるがうまくいかないので
やっぱり又素手になってやるしかない。

月光の薄明かりの中ヘッドランプの明かりが見える。
すでに他のパーティーが先行している。
ちょうど0時に出発、2時間ほどで先行パーティーに追いつく、
ヘッドランプを照らしながら最初の関門第一ステップを越える。
10m程高さの岩場である、もうすでに頂上へと続く北東稜に入ったのだ、

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これは幻覚なのか。どうして、どうして手袋は無いのか、
酸素マスクは、温かい飲み物は、もっと暖かい服は無いのか、
そしてほかに仲間はいないのか、私のザックの中には
予備の手袋、温かい飲み物が入っているが、どれも自分のためのもの、

それも最悪のときのために用意しているのだ、
誰とてそれらを与える勇気は無い、
ここはチョモランマ(エベレスト)なのだ。

死ぬか生きるか闘いの場なのだと自分に言い聞かせるしかない、
後ろ髪を引かれしばし立ち止まって考えたが、
結局何もなすすべが無く、両手を合わせて通過するしかなかった。

月光が煌々と山頂の真上に輝いている。
月光が私を頂上へ導いてくれる、
はるか眼下の山々が月光に照らされた水晶の山のように写し出され、
この光景に吸い込まれそうだ、ここは火星なのか、いや夢なのか、


それとも幻覚なのか、鳥肌が立つほど美しいが、
とても冷たい光景である。何人かへたり込んでいる人を追い越し、
やっと最大の関門である第二ステップに差し掛かった、
もうヘッドランプもいらないくらい明るくなった、ヘッドランプを
胸のポケットに無理やり押し込む。

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山下健夫(登山家)
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