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ゾマーさんのこと

本との出会いは偶然のほうが断然楽しい。

読みたい本を手早く手に入れたいときはネット注文が便利なのだけど、私の場合はレビューを読んだり金額と照らし合わせたりしているうちに時間が経ってしまう。
時間を掛けて考えていると、本当にこれを購入してまで読みたいのだろうかと思うようになる。
半年前に本を大量に処分して、これ以上蔵書を増やさないと決めたばかり。図書館で探そう。
でも実際はあんまり探さない。リクエストも滅多にしない。その度に受け取りに行くのが面倒だから。
そのうち別の本に気持ちが移って、そっちが読みたくなる。
この繰り返し。
 
その点、本屋さんではそれほど迷わないで購入してしまう。いわゆる衝動買いってやつだ。
特に古本屋さん。
前から気になっていた本を見つけると、「私を待っていてくれたのね」と、つい買ってしまう。
後から調べたらアマゾンの中古品で買ったほうが安かったということもままあるが、足を運んだ書店だと、「これも出会いだから」と自分を納得させられる。
まったく知らなかった本でも、目が吸い寄せられて手に取った挙句買ってしまうこともある。
 
一年くらい前に立ち寄った、駅からも遠く離れた路地にある古本屋でも出会いがあった。

普通の家のように見える入り口。開けるとそこは土間で、数棹の木の書棚と昔の小学校にあったような木の机に本が並べてある。靴を脱いで上がる奥の座敷も古本屋の続きのようだ。
書棚をざっと眺めたら店主の拘りが見える品揃えである。
押し付けがましいような、期待が持てるような・・・
奥にいる店主は髭を蓄えた寡黙なおじさま。きっと本が大好きなんだろう。
ふと机の上に目をやると、そこは児童書コーナーのようだった。
 
「あ、サンペだ!」
昔から好きな『プチ・ニコラ』の挿絵を描いていたサンペの絵が表紙の本が目に留まった。
『ゾマーさんのこと』 パトリック・ジュースキント著・ジャン=ジャック・サンペ絵・池内紀訳
 
新書版をもう少し幅広くしたくらいの小さなハードカバー本。
パラパラとめくってみると、サンペのカラー挿絵がたくさん載っている。
何も考えないで購入。

 
家に帰って他にも数冊買っていた「読みたかった本」を先に読んでいたから、これをちゃんと読んだのは数週間も経ってからだったと思う。
児童書という枠が頭にあったので、ゾマーさんという人に出会った良質な男の子の成長物語なんだろうというくらいの発想しかなかった。軽い気持ちで読み始めた。
 
戦争が終わって少しばかり経ったドイツの小さな村。
リュックと杖を携えて、村や森の中や湖の周りを一日中歩き回る風変わりなゾマーさん。
「ぼく」が小さかった頃からずっと、ゾマーさんは風景としてあらゆるところにいた。
木に登っている時も、好きな女の子に振られる時も、自転車を練習してピアノのレッスンに通う時も。
ゾマーさんと「ぼく」の間近な接触はたった一度。
その時に聴いたゾマーさんのあの一言と表情が「ぼく」の記憶にじわじわと染み込む。
本の帯には「どこへ行くのだろう? 黙って、いつも、ゾマーさんは歩いている。」とある。
そして、「ぼく」が16歳になる頃、屈辱と怒りで自殺まで考えたある日、またゾマーさんを見かけた。
ここから顛末までが、この本のクライマックスになる。
 
全部を読み終えた時、深くて静かな衝撃を胸に受けたまま動けなくなってしまった。
 

久しぶりに「出会った」本だった。生涯手放したくない本の一冊に入れてもよい。
考えてみたら、どんな出会いも偶然と不意打ちから始まる。
学校指定図書や教科書に載っている作品にときめきを感じなかったのは、予めこれは「良い」と押し付けられた感があったからで、こどもの頃は図書館でタイトルや直感だけで選んだ本のほうがずっと面白いと感じた。 これは自分が「発見した」と思うからだろうか。
下手な予備知識がないほうが感動が大きいとも言える。
 
 
 ※ パトリック・ジュースキントという作家は、以前に観たことがある映画「香水」の原作者だった。
小説の「香水」も読んだ。「鳩」という小説も読んだ。どれも印象が違うがそれぞれ面白かった。
この「ゾマーさんのこと」は彼が42歳の時に出版された。実話なのか創作なのかは謎。
でも私は実話として読んだ。
1949年生まれ。なんだか捉えどころのない不思議な作家だ。

閉じる コメント(18)

同感‼️
本とは出会うものです。
いや、まあそりゃネットの本屋や巨大書店の品揃えのいい本屋は便利です。
選択肢がたくさんあるのだけど、逆に量に阻まれて一冊が見えない。いつ行っても意外と同じ本棚ばかりを覗いてたりします。
これが古本屋や個性的な書店の棚を見てると普段見かけない本と出会うことがあります。
ドキドキします。
不意に息が止まって、私の中の秘めたる乙女が顔を出し、あぁもしかしてこれが
恋なのかしら…と呟きつつ彼をさらって行ったりしてしまいます

2019/3/23(土) 午前 0:54 GECKOO

この本屋さんは、わたしのブログのコメントにチラッと書いてくれた店ですね。
こういう本屋で買った本は記憶に残るんですよね…。あぁあの時買った本だって。
季節がどんなで、いくつの時で、旅行先だった…とか。
そういうところもいいです。

2019/3/23(土) 午前 0:58 GECKOO

それにしても面白そうな本です。
「香水」は話題になった時に私も読みました。
奇想の小説だと思っていて、主人公の悪魔的な魅力、グロテスクなエピソード、ロマンティックな展開があって、小説の魅力を堪能しました。

この「ゾマーさんのこと」もそんな独特のムードが漂っていそうです。
今度、探して読んでみます‼️

2019/3/23(土) 午前 1:04 GECKOO

ゲッコーさん、本に出会いを求めているって書いていたのはゲッコーさんなので
同感したのは私のほうなのです。
それで、ああそうそう!と思い出してこれを書きました。
秘めたる乙女が顔を出すって・・・あはは!
ゲッコーさんはロマンチストですね。

2019/3/23(土) 午前 1:36 kiyory

ゲッコーさん、そうです。あの本屋。
いつどんな季節に何処で買ったのかを思い出す本っていいですよね。
「ゾマーさんのことは」は一昨年の12月の日曜日、すごく寒い日の夕暮れ時に買いました。
その時どんな服装だったかも覚えてます。
けっこう有名な本みたいだからどこにでも売っているかも知れないけれど、
私はあの古本屋で見つけてよかったと思っています。

2019/3/23(土) 午前 1:39 kiyory

ゲッコーさん、たぶん「香水」の雰囲気とはまるで違っていると思いますよ。
私も同じ作者だとは気付かなかったもの。ちょっとビックリしました。
まあ機会があったら読んでみてください。

2019/3/23(土) 午前 1:41 kiyory

クライマックス、こっそり教えてくださいよ。
気になって夜しか眠れません。

2019/3/26(火) 午前 9:31 ゆまりん

ゆまりんさん、夜しか眠れないって・・・あはは☆

ほんとはクライマックスがあるなんていう予備知識がないほうが絶対いいと思うのよね。
ちょっとおませな(?)男の子の日常が綴ってあって、それはそれで楽しめるんです。
サンペの挿絵もお奨めです。
よかったら、いつか図書館で探してみて♪

2019/3/26(火) 午前 10:36 kiyory

違う話ですが、教科書に載ってたもので特に憶えてるもの三つあります。
高校の現国の、石川淳の小説と吉行さんのエッセイ。
当時は吉行さんは名前しか知りませんでしたし、
石川淳は名前も知らなくって、
数年後、ああっとおもいました。
もう一つは子供が4年生のときの国語の教科書に載ってた、
「わすれられないおくりもの」
という作品。
作者は忘れましたがスゴい好きな話なんです。

2019/3/26(火) 午前 10:56 ゆまりん

ゆまりんさん、考えてみると私も教科書に載っている作品を好きだと思ったことはあります。
小学校5年の時に読まされた宮澤賢治の「よだかの星」(もしかしたら副読本だったかも。)
中学では三好達治の「雪」や、中原中也のやつとか。詩はけっこうゾクゾクしました。
高校のはほとんど覚えていないけど・・・へえ、高校の教科書に吉行が?
私の時にはちょっと考えられないかな。赤線とか娼婦のイメージがつきまとって教科書に載せてもらえない作家だと思っていました。それで私はというと、大好きだったんです。
大好き過ぎて彼を自分の恋人だと思い込むほどに・・・
以前の記事に、自分が好きだったと恥ずかしくて言えない作家がいる話を書いたことがありますが、実はそれが吉行です。
それだけ思い入れがあり、当時ちょっと色んな意味で狂っていたんです。

2019/3/26(火) 午後 1:12 kiyory

そう、吉行さんについてはあたしもそういうイメージがあって、変な言い方ですが普通のエッセイだったので意外でした。
あ、覚えてますよ、「好きだったけど恥ずかしくて言えない作家」の記事。ヒントは5文字の名前ってことで、あれかこれかと色々出ましたね。

2019/3/27(水) 午前 9:01 ゆまりん

ゆまりんさん、いいエッセイだったんでしょうね。
以前の記事のこと覚えてくれてて嬉しいな。
気になって探したら、2011年の「あの頃の自分を思い出すと」ってやつでした。
あれから8年。今言えるってことはもう恥ずかしさは払拭したってことかな、と思ったんですが・・・
中身に関しては、あともう5年くらい経たないと書けないなぁ。
「吉行ファンの女子高生が取った驚きの行動とは」って題で・・・乞うご期待!なんてね(笑)
まあ、引き裂かれた自己というか、頭でっかちのバカな高校生だったんですよ。
今思い出しても、あああ!!となります。

2019/3/27(水) 午後 10:33 kiyory

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Kiyoryさんのお住まいの周辺にはいい古本屋さんがあるのですね。私の住む地域にはそういう古本屋はないので、中古の本というとブックオフになってしまいます。本とのよい出会いを求めて本屋に行くのですが、最近は立ち読みして帰ってくることが多くなりました。今まで衝動買いした本が多くあり、それが消化不良の状態で並んでいたり積んであったりするので、買うことを躊躇してしまうのです。池上彰さんは、気になった本は買ったほうがいい。すぐに店頭からなくなってしまい、後で買おうとしても入手できないから買っておくべきだと書いていました。確か立花隆さんもそう言ってましたね。
これからはかつて出会った本の再読にも時間をかけてみようと思ってます。死ぬまでにあとどの本を読み、どの本は読まないか。こんなことに気を遣う日々を過ごしています。

2019/3/28(木) 午前 0:46 phononjk

ファノンさん、そうですね、此処はわりと古本屋が多い街かもしれません。
家から歩いて行ける距離内でも7、8件はあります。
ただ、古くからあった古本屋がここ数年で何軒か店仕舞してしまいました。
その代わり新しいタイプの古本屋も出来て、この記事の本を買ったところもそういう店です。
消化不良のまま放ってある本は私もあって、再読しようと思って取ってあるのですがいつになることやら。
それにしても、気になったら買ったほうがいいと言われても、資金や置き場所を考えるとそんな簡単には買えないですよね。ネットで探しても見つからないような本は古本屋で見つけても高額で買えないし、衝動買いも値段の安いものしかできません。まあ私の求める本なんてその程度のものなのでいいんですけどね。
>死ぬまでにあとどの本を読み、どの本は読まないか。
そう考えると、いろんな思いが交差してちょっと焦ってしまいました。

2019/3/28(木) 午後 10:20 kiyory

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「ゾマーさんのこと」読みました。
不思議な印象を残す本で、言われなければ気付かないですが、言われてみれば「香水」と同じ作者の香りを感じます。
語り手の成長物語なのかな…とも思いましたが、タイトル通りにゾマーさんという人物の話として読みました。ただ、ゾマーさんの「理由」については一切書かれていないのだから、やっぱり語り手に帰ってくるのかもしれません。

私も子供の頃や青年期に、自分の暮らす町にちょっと変わった大人がいたことを覚えています。
あんまり関わっちゃいけないと思いつつも、どこか親しみを感じるようなオッサンがいたように思います。
そんなオッサンたちにも物語があったはずです。

2019/4/6(土) 午後 11:58 GECKOO

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訳者、池内紀の解説によると、この本はドイツではベストセラーになったとのこと。子供たちへのクリスマスプレゼントしてよく売れたとのこと。
確かに子供が読んでも十分理解出来るし、サンペの絵はとっても可愛らしい。
初恋のカロリーナとの下りは愛らしいし、語り手の成長物語としても読めます。
でもこんなアンチハッピーなお話がクリスマスプレゼントにたくさん選ばれるって、少なくとも今の日本じゃないように思います。
こういう本を子供に与えるというのは、ドイツという国がずいぶん大人っぽく思えるし、日本という国がずいぶん幼稚にも思えてきます。
いや、きっと幼稚なんだろうな…。
今の日本で、子供たちに与えられる物語といえばハートウォーミング一本槍のような気がします。

2019/4/7(日) 午前 0:07 GECKOO

ゲッコーさん、早速読んでくれてありがとう。
「香水」と同じ作者の香りを感じましたか。さすがですね。
私もこれを読んだ時、こどもの頃、自分の暮らす町に変わったおじさん、おばさんがいたことを思い出しました。
私は関わらなかったけど、この少年は関わってしまったんですね。
そしてやはり、そのおじさん、おばさんの人生や物語を遠くに思ってしまったのです。

2019/4/7(日) 午前 1:09 kiyory

ゲッコーさん、この本をドイツでは子どものクリスマスプレゼントにするって話、私も解説読んでびっくりしました。
大人たちはちゃんと最後まで読んで、内容を把握して子供に選び与えたのでしょうか。
買い与えるとしたら15歳以下?
だとすると本当にドイツって大人っぽいと思います。そして自分が親だったらどうだろうとも考えました。できれば自分で探して読んでほしいような。。。
子どもは子どもで、それぞれまた違った読み方をするのかな。
少なくとも日本では、この本を子どものクリスマスプレゼントにするのが「流行る」ことはないような気がします。
日本が幼稚なのか、私が幼稚なのか・・・

2019/4/7(日) 午前 1:28 kiyory


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