フリーデマン・バッハの鍵盤作品の中でもポロネーズやフーガ、ソナタと並んで重要なジャンルが
幻想曲(ファンタジア)です。その作風は、父バッハの幻想曲と比べるとはるかに感情表現が豊かで、まるでその時の気分をそのまま音楽にしたかのような、激しく変化に富んだ音楽となっています。バロックから古典派への過渡期の多感様式の幻想曲として名高いのはフリーデマンと弟エマーヌエルの作品ですが、フリーデマンの幻想曲は弟のエマーヌエルの作品と比べると、より半音階的、多声的で、父親の影響が多く残されています。
さて、フリーデマンの幻想曲は11曲が残されていますが、私が聴いたことがあるのが以下の10曲です。
○幻想曲 ハ長調 Fk.14 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 ハ短調 Fk.15 (1784年作曲)
○幻想曲 ハ短調 Fk.16 (1784年作曲)
○幻想曲 ニ長調 Fk.17 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 ニ短調 Fk.18 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 ニ短調 Fk.19 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 ホ短調 Fk.20 (1770年作曲)
○幻想曲 ホ短調 Fk.21 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 イ短調 Fk.23 (1733〜1746年作曲)
○幻想曲 ハ短調 Fk. nv2 (不明)
これらの幻想曲は、私がフリーデマンの鍵盤作品の中でもとても好きなジャンルです。
気に入っている作品として、まず、フリーデマンがドレスデンのオルガニスト時代の1733〜1746年に作曲された、十分ほども演奏時間がある
幻想曲 ホ短調 Fk.21と、1784年作曲の十数分もの
幻想曲 ハ短調 Fk.15、があります。この2曲は、演奏時間から分かるとおりモーツァルトの同種の作品にも匹敵する、多部分から成る長大な大作です。
うつろげな美しさを奏でていたと思えば、突然明るい曲調になったり、急に激的な場面になったりと、変化に富み、華麗で美しいフリーデマンの独特な小宇宙を楽しませてくれます。
それから、フリーデマンの幻想曲の中では、
幻想曲 ニ短調 Fk.19、
イ短調 Fk.23、
ハ短調 Fk. nv2の3曲が演奏される機会の多い作品です。演奏家が良く選ぶ曲なだけに、いずれも名人芸が発揮される情熱的な名作だと思います。
この他に好きな作品が、1784年作曲の
幻想曲 ハ短調 Fk.16で、先に紹介した、幻想曲 ハ短調 Fk.15と同じくフリーデマン晩年の作品です。若い頃の作品と比べ、より繊細で味わい深い、美しい音楽となっています。
好きな演奏の一つが冒頭の写真のCD、
ユリア・ブラウン演奏 「W.F.バッハ 鍵盤作品集 第2集」(NAXOS)です。6曲の幻想曲と「8つのフーガ」が収録されています。遅めにテンポをとったじっくりとした演奏で、作品の持つ繊細な美しさが際立っています。
下のCDが、以前にも記事にしたことのある愛聴盤の、
ドレフュス盤(DENON)です。
このCDには、フリーデマンの幻想曲、全11曲中9曲が収録されているうえに、ジャーマン・タイプのオリジナルのチェンバロを使用した贅沢な内容となっています。また、大御所ドレフュスの演奏はテンポが速めで、華々しい名人芸の発揮が楽しめます。それだけでなく、曲調によっては旋律をしみじみと歌わせるなど、緩急自在に多様に変化させていくところが、さすが巨匠らしい素晴らしい演奏だと思います。
そして、最近聴いて気に入ったのが、幻想曲やポロネーズ、フーガなどの鍵盤作品を収録した下の写真の
モード・グラットンによる演奏です。(MIRARE 輸入盤)
このCDには、幻想曲は
ニ短調 Fk.19、
イ短調 Fk.23、
ハ短調 Fk. nv2、の3曲が収録されています。1983年生まれという新進気鋭のチェンバリスト、グラットンの演奏は、自由豁達で新鮮さがあります。また幻想曲 ハ短調 Fk. nv2、ではクラヴィコードを用いていてチェンバロとはまた違った味わいの演奏が楽しめます。
記事として最後になりますが、今年の生誕300周年を狙ってか、フリーデマンの鍵盤モノの新譜が一昨年あたりから少しづつ増えてきて色々と聴き比べられるようになってきました。ファンにとってはありがたいことです。
参考例
幻想曲 ニ短調 Fk.19
幻想曲 ハ短調 Fk. nv2