恵介の映画あれこれ

映画に明け暮れる毎日。年間400本を越える鑑賞本数。我ながら半端ではないね。

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この映画はロバート・ライシュ(Robert Bernard Reich)のUCバークレー大学での最終講義録だ。
学生に実に分かりやすく「所得と富の分配,そしてその格差」とを分析している。
原題INEQUALITY FOR ALLは「皆にとって不公平」。

1946年生まれの69歳。カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院教授。これまで、ハーバード大学ケネディスクール教授、ブランダイス大学社会政策大学院教授、ビル・クリントン政権でアメリカ合衆国労働長官を歴任。
ライシュの顔は日本でも何度もTVで放映されたからお馴染みだ。自分を小人と自虐的に呼び笑いを誘う。

映画の冒頭で、暗い駐車場で「ミニクーパー」に乗り込みながらカメラに喋る。「この車は僕に合っている。小さな体で世界と対決するんだ」
身長は150センチに満たない(147センチ)小人。いつも踏み台を持ってポーディアムに立つ。そのままでは聴衆から見えないからだ。チビを売り物にしていて「ロング&ショート」と元上院院内総務のノッポと組んで時事番組に出演していたこともある。

ライシュが説くのは人々を一番悩ましているのは経済格差の問題。ニュースリールで多くの人々の「格差解消」のデモ行進を写している。「妬み」の感情も入っているのも否めない。

米国の格差は広がる一方。ライシュはこの現象をグラフで説明する。
1978年に標準労働者の年収は48千ドル(576万円)、上位1%は39.3百万ドル(4716万円)。これが20120年になると労働者の賃金は33.7千ドル(404.4万円)に下がり、上位1%は倍の73.3百万ドル(8796万円)になる。

今日では上位400人は下層1億5千万人分の収入を上回る。つまり400人が合衆国の半分の富を占めていると言うことだ。国民総所得の23%に当たると言う。
これほど富が集中したのは1928年の世界大恐慌以来だと言う。
中流階級、中間層は消費の70%を占めており経済を安定させるためには重要な存在だ。富裕層が量的に消費に貢献することは出来ない。
ライシュの説明に棒や折れ線グラフで色分けして分かりやすく解き明かしている。

2人の経済学者エマニュエル・サエスとトマス・ピケティが1918年以来IRS(所得税)を分析している。この研究で1−2%の富裕者層の実態が明らかになったとライシュが語る。

彼ら富裕者層がGNPの23%以上占めるピークの年が2つある。1937年の世界大恐慌の時と2008年の世界金融危機の年だ。富裕者層占有率は丁度吊り橋状でピークに吊るされている。

この格差が顕著になるのは70年代後半だ。企業は益々利潤を追い求める。そして従業員の給与や人件費を削減する。
大企業は米国内の雇用に少しも貢献しない。世界の至るところに工場を持ちグローバルに生産するからだ。

この大変革で「勝者」(Winners)は安い製品が買えるようになった消費者と投資家だと言う。
ダウ平均が90年代初頭から上がり始めると株式市場への投資熱が高まる。株ばかりか金や宝石類への投資で利潤を生みだそうとする。

中間層は生活レベルを維持するために対抗策に出る。
70年代後半から始まった女性の社会進出は夫の賃金が下がった分ダブルポケットで補うためだ。ドリー・パートンが歌う映画「9トゥ5」の主題曲が流れる。ライシュが「パートンは俺より身長が低い」と学生を笑わす。

女性の社会進出も限界になると、労働者は残業やアルバイトで稼ぐ。勤勉な日本人よりも多く、ヨーロッパ労働者の平均的労働時間より年間で300時間も多く働く。

そして住宅ブームがやって来る。住宅ローンは花盛りだがご存知のようにバブルが弾けて中間層の負債は膨らむ一方だ。


ローズ奨学生としてライシュは22歳の時にビル・クリントン、ヒラリー・クリントンとオックスフォード大学に留学しそれ以来の親友だ。

1992年にビル・クリントンが大統領になるとライシュの著作を全部読んでいたビルは「国民に投資を」(People First)を掲げその政策を実施するためにロバート・ライシュを労働長官とする。ニュースリールで指名を受けたライシュの演説が笑わせる。「どうやら私は大統領のショートリストのようで」。ショートは自分の身長の事をさすがショートリストは最終候補者のことだ。

ライシュは国民への投資の為に教育や職業訓練に余剰税収を使おうとするが,政治はそんな一筋縄では行かない。4年間の激務の末結果が出ないままにホワイトハウスを去ることになる。

僕らは新聞やTVのニュースで概略は知っているものの、このように当事者が語ってくれることで分かり易く何故自分の理論が実践出来なかったかが納得出来る。

 しかし富める者はストックオプションや投資で更に豊かになり、中間層は賃金や人員削減で益々貧乏になり、日々の生活に疲弊している。
この格差を日本やドイツは公共に投資して埋めて行こうとするとライシュやクリントンは褒めている。果たしてそうだろうか?

 ライシュは先進国の格差社会の到来を早くから予言。「暴走する資本主義」「格差と民主主義」などの著作を発表し、アメリカの急速な格差の拡大に警鐘を鳴らしてきた。
バークレー大学の最後の授業で学生たちに「変化を起こす者になれ」「我々自身が経済のルールを作ろう、それだけの力がある」と語りかける。人生総てに格差解消に取り組んできたライシュも刀折れ矢尽きた感じだ。

 この映画は2013年「サンダンス映画祭」で審査員特別賞を受賞した。大統領たち、クリントン夫妻、バラク・オバマ、ジョージ・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュらが顔を見せている。

 監督は、プロデューサーとしても活躍するジェイコブ・コーンブルース。ロバート・ライシュ教授の最後の授業を中心に大恐慌以来のニュースリールなどのアーカイブのフーテージを収集し編集し、グラフなどヴィジュアルで分かり易く解説した。格差に関心のある向きには必見の映画だ。

 アメリカに劣らず日本でも「貧富の差」「格差」は大きな問題になっているが、政府は打つ手が無い。唯一救われるのは各企業のトップがアメリカほど貪欲(Greedy)で無いことだ。

 11月21日より渋谷ユーロスペースにて公開される。

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