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不登校、引きこもりの君、そしてその親へ
素直に響く「頑張れ」
この1年、「頑張れ」と口にすることの意味を改めて考えた人は少なくないだろう。励ましのための一言は、時に深い悲しみ、苦しみから立ち上がろうとする人々の重荷となる。が、真意が伝わるのなら、その言葉は確かな力を持つのではないか。――藤岡陽子「トライアウト」(光文社)は、そう思わせる作品だった。
読売新聞文化部村田雅幸記者は「小説月評」をこう書き出している。
君たちには、この「頑張れ」というのが禁句だった。頑張っている君の重荷になるからということだった。しかしそれは、村田記者が言う、真意が伝わらないからなのだ。私たち大人は、その真意を十分理解せず、覚悟もない、安易な言葉として、「頑張れ」と言ってきたにすぎない。
作中、何度か現れる「頑張れ」という言葉に、素直に励まされると、村田記者は言う。
それなら、君たちも読んでみよう。
話変わって、今年の芥川賞の話題も面白かった。読んでみようという気になった。
芥川賞は、円城塔さんの「道化師の蝶」、田中慎也さんの「共喰い」、直木賞は葉室麟さんの「蜩ノ記」だった。
葉室さんは1951年生まれの60歳、受賞者としては遅い方だろう。円城さんと田中さんは共に1972年生まれの49歳。円城さんは、東大大学院総合文化研究科博士課程終了、いくつかの職を経て作家活動に。田中さんは、工業高校卒、大学受験に失敗して、作家活動にと対照的な人生をたどっている。ちょっと前には、中学校卒の西村賢太さんが、芥川賞をもらって話題になった。西村さんは、友達もいなく、君たちに最も近い人かもしれない。
学歴はなくとも、文学賞最高の芥川賞も夢ではないのだ。君たちにも「頑張れ」ばチャンスはある。
痛快だったのは、田中慎也さんのふてくされた受賞記者会見だ。受賞の感想を聞かれた時、何度もアカデミー賞候補になりながら落選を続けたシャーリー・マクレーンのアカデミー賞受賞時の感想を引き合いに出し、「私がもらって当然」と答えたのだ。田中さんも、受賞まで4回か5回候補作になっていた。
さらに、こう発言した。
「ここで断るのが礼儀ですが、私は礼儀を知らない。もし断って気の小さい選考委員が倒れたら、都政が混乱します」と石原批判をやって見せた。
その石原氏は、「芥川賞候補作はバカみたいな作品ばかり。自分の人生を反映したようなリアリティがない。心と身体、心身性と言ったものが感じられない。見事な「作りごと」でも結構ですが本物の、英語でいうならジェニュイン(正真正銘)なものがない」と言って選考委員を降りた。
円城塔さん「道化師の蝶」の評価を巡り、川上弘美・島田雅彦両選考委員は絶賛したのに対し、石原慎太郎選考委員は全否定したという。
世代ギャップを如実に示した例だ。
いずれにしても、今年の芥川・直木賞作品は読むに値する。君たちも自分で確かめてみよう。
今日の詩歌
日々日々につもる心のちりあくた
洗ひながしてわれをたづねむ 二宮尊徳 道歌集
毎日、毎日、心のうちにつもる塵やごみを洗い流そう。そうして、本当の自分というものを見つけ出したいものだ。
平成24年2月15日記 中島 清
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