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環境保護は可能か
環境破壊は、その規模と範囲、複雑さと多様性の大きさゆえに、おそらく人類史上最も深刻な問題である。
例えば、我々の社会システムや日常生活のあり方すべてが環境破壊に密接に関与しているから、環境問題を考える場合には、経済、科学、政治、教育、文化などあらゆる分野に目を配らなければならない。
従って、各分野のどれか一つに集中して結論を出すのは危険である。各分野ごとの活動だけでは十分な対応は期待できはない。
(1)例えば、技術者の視点から環境問題に取り組む場合、技術的な対策を立てることに視点が狭められがちである。その好例がハイブリッドカーなどの技術革新による温暖化防止策であろう。しかし、世界中の自動車生産・利用台数を考えれば、こうした対策にいかほどの効果があるか疑問である。
ハイブリッドカーが世界にくまなく普及するまでには、あと何年もかかるだろう。その間に旧型の自動車から排出される排気ガスはどれほどの量になり、どれほど温暖化を促進するのだろうか。このことを、例えばトヨタ自動車は考慮しているのだろうか。
今はまだ旧型車両を中国や南米で大量生産している段階である。自動車の数はさらに増える。それをすべてハイブリッドカーに変換するのには、どれくらいの時間がかかるのだろうか。
科学技術の進歩によって解決しようと考えるのは、余りにも楽観的である。企業や科学者はそう主張するけれども、勝算があって言っているわけではない。もし解決できなかったら彼らが責任を取るのだろうか。世界を破滅させてしまえば、そんな言葉に何の意味があろうか。
(2)にもかかわらず、経済の分野では技術開発が優先されている。
例えば、バイオテクノロジーは、様々な危険性が指摘されているにも関わらず、開発と普及は止まらない。クローン技術の開発と利用は、禁止・抑制の動きはあるものの、開発は続けられている。「どれほど禁止してもいずれ密かに開発されるだろう」という予測が、先に開発して利益を確保したいという欲望を刺激し、競争をあおっている。環境保護技術が話題になるとしても、それは利益をもたらす限りで求められる。省エネやリサイクルも、経済成長を著しく害するようでは導入できない。
(3)政治的には、技術立国である我が国は新技術開発に頼らねば国家の衰退を招くとされる。同様の視点から、政治(軍事)的な面からも技術革新が強く求められる。「環境に優しい軍事技術」などあり得るだろうか。
(4)個人的な対応も分裂せざるを得ない。
例えば、自動車を利用しなければ仕事ができない。ほとんどの職業がそうである。今自動車に乗ることをやめたら即座に職を失い、一家は路頭に迷うだろう。だから、いかに将来の世代に被害が及ぶと言われても、自動車を利用しないわけにはいかない。「自動車は使いたくない」と思っても使わざるを得ないのである。
また、自動車会社は多くの社員とその家族を扶養している。温暖化を防ぐために商売をやめたら、即座に全社員は職を失い、多くの人々が路頭に迷うだろう。日本経済は破綻し、日本国民はおろか世界中の人々が被害を被るだろう。
社会制度上、あるいは経済的見地から、自動車を利用しないという選択はできない。
環境は守りたい。しかし今の環境破壊的な社会システムを変えることはできない。このジレンマに個人も企業も行政も陥っているのである。これを解消する手段はあるだろうか。
一方には家族や愛する人々を守りたいという切実な気持ちがあり、他方には環境を守らねばならないという緊急の要請がある。環境を守ることが結局は愛する人々を守ることになるのだという自覚もある。にもかかわらず、行動を起こす時点で両者は背反し、これを解消する有効な手段は見い出せない。
このように、環境問題への取り組みには矛盾が多い。すでに何年も多くの議論がなされてきたが、現状はほとんど変わらない。ただ環境破壊だけが深刻化している。
おそらく、環境問題については、家族を扶養するためだとか、地域の経済を活性化するためだとか、国家の利益を確保するためだといった、特殊的な利益を守る視点で語ることはできないのだろう。今、私の家族を守るために個人的な利益を確保しようとしても、そのために環境破壊を促進するのであれば、やがて被害は自分の子供や孫に及ぶ。特殊的な利益を確保することなど不可能なのである。
こう考えてくると、利害の調整という視点から環境保護を語ることには、大きな問題があるといえよう。
では、国家や起業や個人の利益を捨ててまで、環境保護活動を徹底することができるだろうか。できないとすれば、それは何を意味するのだろうか。
つづく。
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出来るだけ穏やかに、定常状態の経済循環に、軟着陸する道を探るしかないように思えます。きわめて低い可能性ですが。 現在のアメリカ主導の経済統合が行き着けば、その先では内部を再拡散させて消費市場を拡大する。いまは残念ながらそうした過程にいるように思います。何とかしなくてはならないのですが。
2005/3/26(土) 午後 9:00 [ どん ]