公明党を代表し、今回提出されました「テロ等組織犯罪準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案の成立に反対する意見書」提出について、不採択の立場で討論をします。
まず冒頭、去る5月23日、そして6月3日とイギリスで起きた二つのテロ事件、そして7日のイランの首都テヘランでもテロがありました。亡くなられた方々に対し哀悼の意を表しますとともに、負傷者の方々の一日も早い回復を心から願うものであります。国際社会においても、また我が国においても断じてテロを起こさせてはならない、との思いを込めて、討論を致します。
まずテロ等準備罪の国内法整備は、TOC条約に不可欠であるからです。テロリストは国境を越えて活動します。この度のイギリス・マンチェスターの爆破テロも、国境を越えて遙か異国の地から指示したのではとの疑念もあります。このようにテロなど国際的な犯罪を未然に防ぐためには、緊密な国際協力が不可欠であります。この国際協力を飛躍的に強化させることが出来る条約が国際組織犯罪条約、いわゆるTOC条約であります。
本条約が成立しTOC条約を締結できれば、捜査当局同士の直接のやり取りによる捜査共助の迅速化、日常的な情報交換の促進、さらには本条約に基づく逃亡犯犯罪人の引き渡しなど、外交ルートを介せずに正確な情報を得、かつ迅速な取引が可能となります。
この点に関し、TOC条約締結には、特段の国内法は不要であるとの意見があります。しかしこの条約を所管する国連薬物犯罪事務所UNODCの立法ガイドには、明確かつ具体的に国内法の整備の在り方を記載しておりますし、法務委員会の審議においても明らかにされたUNODCの口上書からも、重大犯罪の合意罪、つまりテロ等準備罪の創設が不可欠であることが確認されております。
つまり本法案の提出理由は、
「近年における犯罪の国際化及び組織化の状況に鑑み、並びに国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴い、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画等の行為についての処罰規定、犯罪収益規制に関する規定その他所要の規定を整備する必要がある。」
ということであります。
そもそもTOC条約は留保を付さずに締結するものと国会に提示され、その承認について、社民党を除く各党が賛成をしております。国内法整備が不要であるとの意見は、まったく理解に苦しむところであります。
また陳情書にも書かれてありましたが、2009年の民主党政権下では「共謀罪を導入せずに国連組織犯罪条約を批准」と公約に掲げましたが、結果、民主党政権3年半の間、TOC条約の締結には至っておりません。さらにはなぜ締結に至らなかったのか、その説明責任すら果たさずに本法案に反対するだけの行動に、全くもって理解に苦しむところであります。
陳情書には「共謀罪と何ら変わるところがなく・・・云々」と主張していますが、2006年の共謀罪は「重大な犯罪を行おうと具体的に合意したこと」で罪に問えました。しかしテロ等準備罪では「合意に加えて実行準備行為があること」が処罰の要件とされ、その内容は大いに変化しています。したがって法案をしっかりと読めば「共謀罪と何ら変わるところがなく」ということは全くもって的外れであります。
次にテロ等準備法案は、国民の不安や懸念を払しょくするのに十分な処罰範囲の限定と、明確化が図られていることを申し述べます。
一点目は構成要件が厳格に規定されている点です。まず犯罪者を、「重大な犯罪の実行を結合の目的とする組織的犯罪集団」に法文で明確に限定しています。そしてその行為は、具体的・現実的な計画と、それに基づく準備行為を必要としています。この二重三重の限定により、組織的犯罪集団とかかわりのない一般の方々が処罰されることなく、従前政府が提出した、過去3回廃案となった共謀罪に対し示された「内心の自由」を害するのではないかとの懸念も払しょくされています。
二点目は、本法案は公明党の意見も踏まえ、対象犯罪を676から組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される277の罪に限定されている点です。
TOC条約は、処罰範囲を組織的犯罪集団が関与するものに限定することを許していますが、このオプションを最大限活用し、対象犯罪の限定が達成されています。
この点、国会においてはこの対象犯罪につき、例えば保安林窃盗罪が規定されていることをとらえて、キノコ狩りで処罰されるといった議論がありましたし、総務委員会における参考人質疑の中でも取り上げられておりましたが、しかし、保安林窃盗罪に関して、組織的に重機を駆使し、山砂を違法採取して4,000万円以上の違法収益を上げた事案が、実際に摘発されています。このような事例があるにも関わらず、キノコ狩りという不適切な事例を用い、あたかも一般人が捕まるかのような国民の不安をあおる議論は、まさに印象操作のための議論としか言えず、あまりに非現実的な議論であります。
次に本法案の運用面でありますが、審議の中でも一般の方が捜査の対象になるのではないか、との懸念も示されました。しかし捜査は任意捜査、強制捜査を問わず、組織的犯罪集団に限定されている以上、これとかかわりのない一般の方々に犯罪の嫌疑が発生する余地はなく、捜査の対象になることは考えられません。
また本法案成立により、一億総監視社会になるとか、LINEもできない共謀罪などといった批判や主張がありました。陳情書の中にも「捜査手法として通信傍受や会話傍受の導入が試される恐れがある」と、法案の真意を認識していない文言がありましたが、しかしテロ等準備罪は通信傍受法の対象犯罪ではなく、LNEやメールが本罪の嫌疑を理由に傍受されることはありません。
また本法案は手続法ではなく実態法の改正なので、テロ等準備罪の新設は、現在の捜査の在り方に何ら影響を与えるものではありません。陳情書の中に「本法案が成立すれば一層の監視社会化を招き…云々」とありますが、捜査機関がすべての人を常時監視するのにどれだけのコストとマンパワーが必要なのか、あまりに非現実的な主張であります。法的根拠に基づかないレッテル張りによって国民の不安をあおり、その自由な言動活動を委縮される暴挙を行っているのは誰なのか。一部の政党・政治家には猛省を促すものであります。
また質疑の中で「一変」の議論もいたしました。一変して一般の人が犯罪集団に変わったということを確認することは難しい旨の趣旨を話されました。しかし、2006年5月10日の衆議院法務委員会で、共謀罪に対する修正案を提出した民主党は「団体が当初正当な目的で結成されたとしても、その団体の性質が一変して、その主たる活動が重大犯罪を実行することにある団体というふうになれば、共謀罪の適用対象」と認めております。しかし当時の民主党は、これが一般市民を対象になるということは言っていないと思います。
さらに質疑の中で国連人権理事の特別報告者ジョセフケナタッチ氏の報告に関しても紹介されましたが、氏の書簡は「結合の基礎としての共同目的」の内容が入っていない、間違った英訳を読んで所感を送っていることが、NHKの日曜討論で明らかになりました。そしてその後、イタリアで開かれたG7において岸田文雄外相は、安倍首相と懇談したグテーレス国連事務総長の発言に触れ、「特別報告者は国連とは別の個人の資格で活動しており、その主張は必ずしも国連の総意を反映するものではない」と報告されています。
つまりジョセフケナタッチ氏の発言は、国連の総意を反映するものではなくなんらテロ等準備罪の批判に当たらないことも、申し述べておきます。
なお、本法案を治安維持法と同視するような荒唐無稽な主張もあります。しかし治安維持法は国体を変革することを目的とした、結社を処罰し、その執行において拷問や、司法手続きを経ない拘束までもが行われた悪法です。
そもそも現憲法と旧憲法では、人権に対する考え方が根本的に異なります。しかも治安維持法の問題は旧憲法下での制度、戦時体制が前提となっています。成熟した民主主義と司法手続き、マスコミ等による監視が行き届いている現在、治安維持法と同様の問題が生じる可能性は皆無です。
一部の政党・政治家が、このような不見識極まりない主張を繰り返し、ポピュリズムを先導するような政治は、百害あって一利なしであります。そのことによって、多くの国民の正しい判断を歪められているとしたら、逆に不安を感じます。
日本が今後テロの標的になる可能性は否定できません。国際情勢の中で、国際標準として187の国と地域が締結しているTOC条約を早期に締結し、テロ等を含む組織犯罪から国民と、日本に来る外国の方々を守るために法整備を行うことは、法治国家として当然の責務であります。
以上、縷々申し上げましたが、国境を越えて行われるテロに対し、日本が法の抜け穴になってはならないためにも、本法案の早期の成立を望むものであり、陳情第1号他19本の陳情・意見書に対し不採択の討論といたします。