木下長宏のウェブログ

網膜に積もる淡雪のように(まとめサイト:http://kinoshitan.com)

内容報告

[ リスト ]

Ⅰ (過ぎ去った時代の東方の‥‥) 
 
   過ぎ去った時代の東方の
   昔の手の込んだどんな織物も
   その裸の髪には叶うまい。
   どんな宝石も、きみが ( す )いたその髪には。
 
   ボクは、数ある絨毯のなか
   なにも見ないためにただ「無」だけをみつめたのだ
   ボクの眼は、埋葬に飽き飽きしつつ    
   その神々しい経帷子 ( きょうかたびら )を愛でるだろう
 
   だが、波打ち揺れる緞帳が、死の
   闇の波を隠しているあいだ、
   ああ! この美しい髪は
 
   精神を光り輝かせ、「存在」の
   残忍な火花を産み出すのだ。
   ボクの恐怖、ボクの繰り返す否認を。
 
                                一八六八年六月末に生まれた友人ボナパルト・ワイズ 
                                      の息子のために書いたと推定されている一篇。
 
 
 Ⅱ 二者択一
 
 
   手の込んだ魔法にかけられた忘却の
   どんな織物も、音楽も、時代も、
   あの裸の髪には叶うまい。
   どんな宝石も、きみの ( す )いたその髪には。
 
   ボクの夢のなかでは、古代の絨毯の
   大通り模様、それだけ。たとえボクが
   「無」を願うとしても、この親愛なる裸は
   ボクの眼をそこに埋めて満足させるだろう。
 
   いや、波打つ緞帳が
   空虚な波とぶつかり合うように、
   一個の亡霊のために、その髪は、
 
   こんなにぜいたくに「存在」の偽りの
   誓いの微かな光を蘇らせる
   ――その恐れ、その繰り返す否認を。
 
 
 
                                        一八六九年ごろ、Ⅰの詩篇を書き換えて出来た。
 
 
Ⅲ (時代の香りの染みたどんな絹地も‥‥)
 
 
   時代の香りの染みたどんな絹地も
   息絶え絶えの幻想怪獣 ( キマイラ )の絵柄も、
   鏡のそとできみが ( くしけず )
   もつれた生まれたままの裸の髪には叶うまい。
 
   勝利に酔う軍旗の数々の弾痕は
   大通りに高々と掲げられているが、
   ボクには、ボクの眼がそこに埋めて満足する
   きみの裸の髪がある。
 
   いや、その口はなにかを噛んでも
   なにを味合わったか判りはしないのだ、
   もしも、きみの王たる恋人が
 
   その房々とした茂みのなかで
   一粒のダイヤモンドにも似た、窒息する「栄光」の
   叫びを吐き出すことが許されないとしたら。
 
                                        Ⅰ、Ⅱの詩篇をもとに、一八八四年か八五年
ごろ作られた一篇。
 
 


よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事