木下長宏のウェブログ

網膜に積もる淡雪のように(まとめサイト:http://kinoshitan.com)

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次回のABCは、シルクセンターB1、小会議室で、19:00から です。

金曜の夜は<見開き日本美術史>。今回は「北斎」を取り上げようかと思います。じつは、当初は、日本美術史を貫く重要な思想の一つとしての<真・行・草>を、絵解きで説くようにまとめた『三体画譜(さんていがふ)』という版本を北斎が出板しているので、これを取り上げようかと準備しかけていたのですが、ちょうど西洋美術館で「北斎とジャポニスム」という展覧会が始まり、それを観て、(その感想をブログ「内容報告」に掲載しましたが、そこに書いたように)、まずは「北斎」はほんとうのところどんな絵師だったのか(そう簡単に答が出せる人物ではありませんので、だからこそなお、それを考える手がかりを共有しておきたい、と考え)そのことを語りあえる材料を用意しようと、考えを変えつつあります。
ただいま、資料を準備中です。おそらく、「三体画譜」を取り上げるのはもう一回先になるかも。

とにかく、次回は、10月27日金曜の夜、「北斎」です。

「北斎」という名前は誰でも知っているし、北斎についてみんなどんな人だったかも知っているつもりでいるでしょうが、おそらく、ほんとうに「北斎」を理解している人は少ないでしょう。ボクももちろんです。で、みなさんといっしょに勉強しようというわけです。

kinoshitan

「北斎とジャポニスム」展が上野の西洋美術館で開かれています。19世紀ヨーロパの芸術家たちがこんなにもたくさん(とても全部名前を憶えきれないほどたくさん)北斎に夢中になっていたこと。そして、親しみのある画家たちのなかでも、「ジャポニスム」という探査燈がなかったら見せてもらえないような珍しいスーラがいたり、いろんな楽しみと発見に満ちている展覧会です。
 それはいいのですが、この展覧会では「北斎」の方は、じつに見事にバラバラにされていて、この展示から「北斎」の全体像が浮んでこない。あんな「北斎」があった、こんな「北斎」があった、あんなふうに「北斎」が喝采された、こんなふうに「北斎」が転用された、「北斎」は近代ヨーロッパ芸術家にとって豊かで刺激的な存在だった、そのことはうんと納得できます。しかし、そうしてヨーロッパ19世紀に受け容れられた「北斎」は、北斎当人が亡くなったあとの「北斎」で、しかもその遺産を、それぞれのヨーロッパの芸術家は、それぞれ自由勝手に活用している、そんな様相が繰り広げられているのです。一つの同じ北斎の作品が、それぞれの作家によって、それぞれに、それを他の人と共有する喜びは求めずに、自分の制作欲・創作欲を満たすためだけに「北斎」を利用しているのを目撃させられるのでした。(ジャポニスムという底流を成す動きはあったが、ホクサイズムという芸術運動は起らなかったのです)。
「北斎」がジャポニスムという底流のなかで19世紀ヨーロッパの芸術家に与えたもことを考えながら、今回の展示でボクがいちばんいい時間を過ごせたのは、モネでした。展覧会では絵柄や構図に焦点を当てて、その似ているところを「北斎」の作品とモネの絵画と並べて見せていましたが、モネが「北斎」から学んだものはもっと別のところ、もっと深いところ―少し抽象的な言葉を借りるなら「絵画思想」というようなレヴェルで腑に落ちるようなものではなかったか(これを展覧会形式で提示するのはなかなか難しいことでしょうが)。モネの作品が今回の「ジャポニスム」展にいくつも展示されていて、それぞれの作品が「北斎の影響」など気にしなくてもすごく味わい深い作品なのです。それを解き明かすことこそ、モネを知るためにも大事なことだという気がしたものでした。
 モネの北斎や日本の浮世絵への想いは、ゴッホがジャポニスムから得た答として、広重や英泉の摸写風油彩画を出して納得するのではなくて、彼が部屋の壁に発行されたばかりのLe Japon誌にあった「一本の草」(ゴッホ自身は北斎の絵だと思っていたらしい)の複製を貼り付け、毎日それを眺めながら「絵画とはなにか」を考え、作品のなかにその思索の糧を生かしたのと共通しているのではないでしょうか。モネも自分の部屋の壁に北斎を飾りながら「よしここをいただこう」などという浅薄な着想ではなく、なぜ北斎はこんなふうに描いたのか問いかけ、考え、その考えの積み重ねから教えられた「絵画のありかた」とでもいえばいいようなものを、自分の作品に自分の手と眼で実現したのだろうと思います。
 だから今回の展覧会を観て、「北斎は偉大だった」と手放しで拍手して終るわけにはいかない。あらためて、北斎とはどんな絵師だったのか(それを考えていけば、北斎がなぜこんなに近代のヨーロッパ知識人に刺激を与えたのかに、もう一つの答を見つけることへ繋がっていくでしょう)を考える機会にしたい、という思いを新たにしつつ会場を後にしました。(2017.10.20)

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