ひざ小僧のため息。

読者になってみれば?コメントしてみれば?ひざ小僧に触れた人、しあわせが来る予定です。

【小説】公安省特特課

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22 説得



「随分急なんですね・・・ 明日なんて、受け入れ態勢も整いませんよ」

私立洞純学園の校長室、外国製とおぼしきソファに腰深く座り、目の前で細長い脚を組みかえる、ダークスーツの女性。だめだめだめ、短いスカートの奥が見えてしまいそう・・・ 

「学園長、役所としても困惑してるんです・・・ ほら、衆議院の解散が近いって言われてるでしょ? 現政権が人気なくって、どさくさ紛れの実績づくりというか・・・ 役人ばかり責められる昨今ですけど、政治家だって、ね・・・ どうかお察しください」

「それにしてもねえ・・・ まあ、当学園としてもお上に楯突こうなんて考えてませんが・・・ わかりました、できる限りの協力はいたしましょう。受け入れ期間は、明日から2週間ですね? 」

「はい、どうぞよろしくおねがいします」

百襲 ( ももそ )主任は、文部科学省の教育調査課課長という触れ込みで私立洞純学園に乗り込み、学園長との面談を行っています。ソファに浅く腰かけ、しゅいっと背筋を伸ばした主任、美しいです。白いシャツの胸元、ぱつんとはじけそ・・・ うほんうほ

説明から脱線しました。この学園に入り込むのに、文部科学省の調査という名目を使うことにしたのです。もちろん、公安省はスーパー官庁、文科省と口裏合わせることくらいなんでもありません。

何の調査か? ・・・進学校と呼ばれる私立学校が、どんな点で公立学校と異なるか。公立学校の中にも、もちろん進学校はありますが、公立故の限界もあるわけで、もしそうした制約を見直すきっかけになるような秘訣があれば、見直していこうという感じで伝えました。意味わからないですよね・・・ 結局のところただ見学させろと言っているだけで、はっきりとした目標とかもありません。

「学園長、明日からこの諫凪 ( いざなぎ )が通わせていただきます

「諫凪惣亮と申します。よろしくお願いします」

学園長に代わり、副校長兼事務長と名乗る初老の男性と事務的な打ち合わせをして、この日は学園を後にした。

帰り道主任がお話してくれたところによると、洞純学園は創立以来女子校であったが、少子化による受験者数の減少、成績の低迷、借金などで廃校の危機まで追い込まれていました。学園の理事達は、起死回生を狙い、そのとき有名進学塾チェーンを運営していた学園長をスカウトしました。学園長は進学塾チェーンを企業に売り渡し、学園入りをしました。はじめに男子生徒を受け入れて共学化し、受験教育に力を入れ、あれよあれよという間に、進学校化に成功したのでした。公安省が注目したのは、その経営手腕もさることながら、学園長の権力志向です。国家公務員上級を目指す生徒指導、政治家との交際に力を入れているほか、私立学校の団体の長にも就任しています。

「主任、あの学園長、きれいでしたね・・・ ほんとに憑依体なんでしょうか」

「あれ、諫凪君、ロリかと思ってたら、熟女もいけるんだ。なんて幅広いスケベでしょう」

「なな、何言ってんですか。ロリでもないし、特に熟女がいいってわけでも・・・ いや、嫌いじゃないですけど・・・ 」

「どっちでもいいわ。学園長が憑依体かどうかは、慎重に見極めないとね。といっても、あと1週間で邂逅 ( かいこう )ポイントが現れちゃうし、それまでに何とかできるかしら・・・ 

邂逅ポイントとは、異世界の思念体がこの世界に浸潤 ( しんじゅん )してくる、次元の亀裂みたいなものです。邂逅ポイントの出現は天照那美 ( あまでらなみ )ちゃんに憑依した『反乱分子』と呼ばれる思念体からもたらされた情報を分析して予測されたものです

「主任は、これから何か用事ありますか? 」

「なーに、私までナンパ? 見境ないのね」

「ち、違いますよ! よかったら、夕食を『とくとく』でどうかなと思って・・・ 」

割烹スナック『とくとく』は、天照課長の奥さんが切り盛りしている小料理屋です。

「もちろん、君が行こうが行くまいが、私はおいしい料理を食べに『とくとく』に行くつもりでした」

主任、今日はずいぶん僕につっかかるなあ・・・













 
(続く)
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21 接近

日比谷公園の端っこにある公園管理事務所。実は、その地下に公安省特務部が存在しています。そうです、秘密基地そのものです。

久しぶりに部室に入りました。部室は広いスペースに階段状に机が配置され、奥が巨大スクリーンになっています。JAXAとかの、ロケット管制室をイメージするとわかりやすいと思います。

スクリーン前あたりに、いわゆる『指令室』の机がならんでいます。EPPS(Enhanced PsychicPowers System)管理課の面々で、EPPSを通じて部員とコンタクトをとります。特務課係の『ナイスバディちゃん』こと、
不二美禰子 ( ふじみねこ )さんの長くて細くて白いおみ足も健在です。

「おはようございます、不二さん。昨晩の『反乱分子』の情報、何かわかりましたか? 」

「おはよう、エ●君。女子高生と二度もキスした気分はいかが? 」

げげっ! なんでそれを?!

「EPPSなめんなよ。やろうと思えば、音声だけでなく、映像も記録できるんだよ。『反乱分子』さんが数字以外のことをはじめてしゃべったから、急きょ映像記録に切り替えたのさ」

恐るべし、EPPS。誰の目からの映像を記録したんだろう?

「もちろん、特務課のみなさん全員! 再現して、見る? 」

いえ、結構です。

「おはよう、お兄ちゃん! 」

那美ちゃん、来てたのですか・・・ なんか顔を直視できない。照れるなあ。

「お兄ちゃん、昨日のキ・・・ あの出来事、記念にDVDに焼いてもらっちゃった! ネットに動画、アップしようかなあ」

「ばばば、馬鹿なことやめなさい! それは何かの脅迫ですか?! 」

「お兄ちゃんはもう、ナミぴょんの言うことを聞くしかないんだよ、えへ! 」

えへって・・・ 痴漢被害者の気持ちが少しわかった気がしました。そんなことより・・・

「不二さん、話をそらすから・・・ 数字情報から何かわかったんですか? 」

「そうね。最初の数列は、『
邂逅 ( かいこう )ポイント』情報よ。今、位置を画面に出すわ」

カチャカチャカチャとキーボードを叩くと、正面スクリーンに地図が現れました。地図にひょうたんをひっくり返したような形のアイコンが現れ、邂逅ポイントを示しているようです。アイコンをクリックすると、写真が現れました・・・ 学校?

「おはよう、
諫凪 ( いざなぎ )君。部長から次のミッションがアサインされたわよ・・・ あ、ここよ、ここ! あら、私より早くミッションのこと、聞いてたの? 」

ホワイトシャツにグレーのタイトスカートの百襲 ( ももそ )主任、スクリーンを見て驚いています。

「いえ、ミッションって何のことですか? この学校は、昨日の『反乱分子』情報による、次の邂逅ポイントです」

「何ですって! そんなことってあるのかしら・・・」

首を捻る主任。

「主任、まさか次のミッションって、ここで・・・? 」

「そう、
私立洞純学園 ( しりつどうじゅんがくえん )。学園長が憑依体の可能性があるの」

不二さんの方を向いて、

「邂逅ポイントはいつ、発現する予測ですか? 」

「今日から1週間後、午前10時頃・・・ 平日だし、生徒がたくさんいるわね」

「学校に爆破予告でも入れて、人を追い出しますか? 」

「あのね、みんな・・・ 」

那美ちゃんが口を挟みました。これもかつて、なかったことにように思います。

「いつもは反乱分子が出てるときは意識がないんだけど・・・ 昨日はちょっと違ったの。今度の思念体は、反乱分子にとって大事な存在なようなの・・・ うまく言えないんだけど、憑依させて、反乱分子に会わせてあげて欲しい・・・ 」

「既にいる憑依体のそばに邂逅ポイントが発現するのは、今回がはじめてじゃないかしら? これも偶然なのかしら・・・ 」

百襲主任、不安そうです。僕は、ある疑問が頭に浮かんできました。

「ちょっと待って下さいよ・・・ 今まで、邂逅ポイントって思念体の方でコントロールが効かないというか、偶然現れるものって考えられてきましたよね。今回偶然じゃないとしたら、思念体がコントロールできるようになったってことですか? 」

「それはわからないけど・・・ 邂逅ポイントで思念体が出現すれば、わかるかもしれないわね。それに、那美さんが言った大事な存在というのも、とても気になるわ」

「じゃあ、穏当な形で、潜入しますか。あれ、課長はどうしたんだろう? 」

「課長のことだから、もう潜入しちゃってるかもね」

 
 
 
 
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Mission 003
20 接吻
 
 

「来る・・・ 『反乱分子』が・・・ 」

ここは割烹スナック『とくとく』。あるミッションを 完了 ( コンプリート ) した後、公安省特特課のメンバーで打ち上げをしていましたが、突然、課長の義理の娘 天照那美 ( あまでらなみ ) ちゃんがカウンターに突っ伏してしまったのです。

那美ちゃんには、思念体が憑依しています。その思念体は、他の思念体と違ってこの世の人間を支配しようとはせず、むしろ異世界の情報を流し、こちら側を助けようとしているのです。ゆえに、『反乱分子』。その思念体さんとは、今日はじめてお目にかかります。

がばっ

那美ちゃんが起きあがりました。髪の毛にピンク色の光がまとい、煙のようにゆらゆらしています。那美ちゃんの目が、赤く光っています。

「EPPS(Enhanced Psychic Powers System)で記録開始」  百襲 ( ももそ ) 主任が事務的に言いました。

「673984952727384749・・・ 」

なな、何? 数字? ものすごい勢いで、那美ちゃんの口から数字の羅列が飛び出します。

「9773728293149347282・・・ 」

「課長、これって一体・・・? 」

「しっ! 静かに! 」

課長が僕を手招きしました。課長の席に近寄り、

「・・・ いつもこんななんですか? 」

課長はひそひそ声で、

「ああ。突然現れて、数字をダダーッと早口でまくしたてるんだ・・・ これを分析するとよ、いろいろなことがわかるんだと」

「いろいろなことって、例えば? 確か、EPPSも反乱分子のくれた情報から開発されたんですよね? 」

「その通り。この間現れたときは、あのイノシシになった思念体の『 邂逅 ( かいこう ) ポイント』を知らせてくれたんだ」

邂逅ポイントは、異世界とこの世との間に亀裂が生じ、そこから思念体が 浸潤 ( しんじゅん ) してくるポイントのことだ。

「ははぁ、じゃ、そのときもこんな風に数字を? 」

「ああ、そうだ」

「・・・ 」

那美ちゃん、いえ『反乱分子』が突然口をつぐみました。僕のことをじっと見ているようです。それにしても、おっかない目だなあ。

「あ、はじめまして。僕、 諫凪惣亮 ( いざなぎそうすけ ) といいます」

「・・・ いざ・・・ なぎ・・・? 」

百襲主任が驚いて、

「反乱分子がしゃべった! 」

「え? しゃべったことないんですか? 」

「ええ、少なくとも私は今日はじめて見た」

「俺もだ」と課長。

そうだ、この間危ないと思った、あのことを聞いてみよう。

「あのお、一つ質問していいですか? 『結界』なんですけど、あれ人間に見えなくするだけなんで、結構危ないんです。憑依体との格闘中一般人にぶつかったりしないように、改良できないですかね? 」

「・・・ 2736482920484・・・ 」

また数字に戻った。でもこの数字たち、僕の質問に対する回答なんだろうか?

「・・・ 」

また、反乱分子さんが口を閉ざしました。また、僕のことをじっと見つめていらっしゃいます。

「あの、那美ちゃんは無事ですか? 」

我ながら、マヌケな質問をしてしまった。だって、完全に人格(?)が違っているみたいで、こわいんだもん。

「・・・ いざなぎ」

それだけ言うと、突然僕の方に体を預けてきました。

「??? あの、顔が近・・・ 」

・・・ 唇をふさがれました。何でって? セーラー服女子高生の柔らかい唇です。

生まれてから2回目の異性とのキス(但し母親を除く。)。先日、『やんちゃレディース』の元総長さんに唇を頂かれてしまいましたが、今日は反乱分子さん(だよね?)。頭の中がしびれて、目がスパークして・・・ 

反乱分子さんの思念が、ほんの少し僕の頭の中に流れてきました。この気持ちはなんだろう・・・? 苦しい、切ない、哀しい・・・ 気の遠くなるくらい昔の、別離・・・?

「ばかっ! やめろ! 許さんぞこらっ! 」

怒れる父親、すなわち課長に甘美なひとときを中断されてしまいました。僕が課長に頭をかなり本気モードでボカスカ殴られている間に、那美ちゃんがまたカウンターに突っ伏してしまいました。

ガバッ!

勢いよく頭をあげた那美ちゃん。

「・・・ 今、来てた? 」

全員で、こくんこくんと 頷 ( うなづ ) きます。

「・・・ あたし、何かやらかしたような・・・ お兄ちゃん? 」

那美ちゃん、僕をじっとみつめます。いつものオレンジに近い茶髪に、薄茶っぽい目に戻っています。あの禍々したオーラは消えています。

でもなぜか・・・ ドキドキします。心臓の音、聞かれないだろうか・・・

那美ちゃん、指をそっと伸ばし、僕の唇に触れました。

「・・・ あたしのリップクリーム・・・ まさか?! 」

「あ、いや、ほら、なんちゅうか、反乱分子さんなわけで、那美ちゃんじゃないわけで、なんかきっと理由があるわけで、ほら、人間のそれと意味が違うかもしれないし・・・ 」

「いやあああ! ずるいずるい! お兄ちゃんはナミぴょんのだもん! 」

と叫ぶと、那美ちゃんは勢いよく僕に唇を押しつけてきました。がちん! 前歯が当たり、けっこう痛いです。

「今度こそ、絶対だめー!! 」

課長の叫び声がしましたが、瞬間僕の首の後ろに鈍痛を感じ、そのまま僕の意識が飛んで行きました。

後から確認したところによると、課長は僕に手刀をくらわしたそうです。いつか、きっと、必ず、故なき暴力は己をも 苛 ( さいな ) むものだということを身をもって理解させてあげようと決意しました。

ともかく、今回は異例続きで、『反乱分子』が数字以外の言葉を口にしたことも初めてだし、反乱分子が表にでていたときの記憶を那美ちゃんが少しでも保持していたことも、初めてのようです。
 
 
 
 
 
 
 
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僕の必殺技


若頭後藤康雄はやはり、 憑依体 ひょういたいでした。我ら公安省特特課に追い詰められ、巨大なカマキリに変身しました。

ブンッ!

カマキリの鎌が横殴りに走ります。空気が裂ける音がしました。 百襲 ももそ主任と僕は、ぱっと後ろに飛び退ります。

百襲主任は、飛びのいた位置から、カマキリの背中を蹴りつけます。大きい腹部がぼよんと波打っただけでした。巨大カマキリは、三角形の頭を百襲主任に向けるとすぐに腕の鎌で切りつけます。ヒュッ!

百襲主任の腰紐が切られ、袴がストンと落ちました。

「きゃっ」

袴の下は、生足・・・。道着の下部からちらちら見える、薄桃色の・・・ おぱんちゅ。百襲主任は、前を両手でおさえて、うずくまります。

すかさず、カマキリの鎌が僕の方に水平に飛んできます。ヒュッ!

腕で受けたら、腕が瞬時に切られてしまいます。ぱっと腰を沈めて、鎌の水平面を平手で押し上げ、インパクトを避けました。別の腕の鎌が僕の斜め右上から振り降ろされます。体を右横に裂け、右手のひらを左方向に出し、鎌の平面を押します。

「だ、だめだ! 近づけない! 」

近づけないと、憑依体の弱点である心臓をつけません。課長が 心裡剣 サイコソードを正眼に構えました。

「うおりゃ〜〜!! 」

気合一発、課長が心裡剣でカマキリに向かって切りかかります。

カィーーーン!!

火花が散ります。巨大カマキリは鎌で心裡剣の刃を受け、じりじりと課長を押していきます。

ジャキン! 巨大カマキリの力押しに負け、課長が後ろに飛ばされました。すかさず襲いかかるカマキリ! 危ない! 僕は巨大カマキリの鎌に向けて飛び蹴りを食らわしました。よろけるカマキリ。チクリ、痛みが太ももに走ります。しまった、鎌で少し切ってしまったようです。ズボンが裂け、血がにじんできました。あー、このズボンもう、修理きかないな〜。

諫凪 いざなぎ君! これ使って! 」

さっきまでうずくまっていた百襲主任、道着の 懐 ふところから銀色に光るものを取り出しました。パンツ丸見え。あ、いや今はそれどころでなく。道着から出てきたものは、手袋?

「特務部技術課特製の長手袋! 超合金製よ! 」

ぽいっと手袋を投げます。受け取って手にはめましたが、腕の半分まで隠れます。テラテラと銀色に輝きメタルな雰囲気を醸し出していますが、見た目にかかわらず柔らかく、そして軽いです。

後ろからカマキリの気配。頭の上から鎌が降りてきます! 振り向きざま、超合金手袋をはめた腕で下から鎌を受けます。

カィーーーン!!

おお! これはいい! 切れてないっす。腕には何の損傷もありません。よし、行ける!

カキン! カキン! カキン! カキン!

連続パンチのように僕を襲ってくる鎌を、超合金手袋で防御しながら、カマキリに迫っていきます。そうです、百襲主任の特訓どおり、防御しながら、隙をねらいます。

「グモォオオオ! 」

巨大カマキリが咆哮をあげました。カマキリって、鳴くんだ。しかも、カマ〜とかじゃないんだ。

大技がくる! カマキリは両腕を大きくひろげ、僕を抱きかかえるようにして、両鎌のハサミを閉じようとします!

腰を思い切り落とし、頭の上の両鎌を避けます。チリッ! 髪の毛が結構な量、切られた感触が。両足に力をこめ地面を蹴り、カマキリの腹に頭突きをくらわします。ぼにゅん!

カマキリが後ろによろけ、両腕を広げたところに、僕の右ストレートで胸の真ん中を打ちます!

どうだ、超合金パンチ! ガツン!

カマキリの動きが停まりました。「課長! お願いします! 」

課長は、心裡剣でカマキリの後ろから心臓を突き抜けるように刺しました。

心裡剣が突き出た胸の穴から、ピンク色の煙が立ち上ってきます。思念体です。

「確保します! 」 万年筆タイプの思念体捕獲機で、ピンクの煙を吸い取ります。

「ミッション・コンプリート」僕は、EPPSを通じ『指令室』に報告しました。

「あ、お前! それ、課長の役目だ! 」

「ええ! す、すいません! 知りませんでした」

まるでしゅるしゅると音がするように、カマキリが縮み、裸の男に変身していきます。

「課長、若頭とゴリ店長、どうしましょうか。」

「ゴリ店長ってこいつのことか? あー、放っておいていいんじゃね? バンと銃置いてさ。そうしたら、警察が適正に始末してくれることでしょうってことで」

腰紐の切れた袴を手で持ち上げながら、百襲主任が切なげに提案しました。

「は、早く撤収しましょう」





巨大カマキリを退治してから、さらに数日経ちました。僕は田舎に帰るという名目で、キャバクラ『やんちゃレディース』を退職しました。ちょっと意外だったのは、レディースの皆さんがそれはそれはお怒りで、なだめすかすは泣きわめくは抱きつくはで、『辞めるんじゃねえ』と引きとめてくれたことです。とくに、元総長さん、たわわな胸に僕の頭をうずめるように抱っこしてくれて、おまけにチューまでしてくれました。「こいつには、こいつの事情があんだよ。みんな、もう引き留めるんじゃねえ。・・・ ボクちゃん、元気でな」

今晩は、久しぶりの割烹スナック『とくとく』です。カラカラと引き戸を開けます。

「こんばんは〜。あ! 主任! 」

百襲主任が席にいらっしゃいました。

「おい、こっちは? 」

「・・・ と課長」

「ずいぶんなご挨拶だな」

「お兄ちゃん! ナミぴょんもいるのに! ナミぴょんもいるのに! 」

「はいはい。那美さん、お元気なようで、なによりです」

「ぶー! お兄ちゃんのいけず! 」

ママさんが、「まぁまぁ、みんな久しぶりなんだから、仲良くね」と仲裁に入ってくれました。今日のお通しは、冬瓜の鶏そぼろあんかけです。緑が美しい。

「課長、あの後若頭、どうなったんですかね、ご存知ですか? 」

「んー、消えた」

「消えた? 」

「思念体が抜けると、あいつはキレ者じゃないただのヤクザ。でも至誠会の守旧派からすると、危険人物のまま。行方しれずになって、ずいぶん経ちます。いまごろ、東京湾の底で、お魚さんでも眺めてるんじゃないかな〜」

うぐ。なんだか、気の毒な気がします。

「銀座の店も、諫凪君の大好きな『やんちゃレディース』も、堅気の人達に売られたわよ。元総長さん、キャバ嬢を引退して、店長やってるようよ、今度行ってみたら? 」

元総長さんのチューを思い出しました。

「お兄ちゃん?? 何で顔赤くなってんの?? ちょっと! 可愛い妻にわかるように説明して! 」

「こら、父さんは結婚なんか認めてないぞ、とくに女装男とは」

ぶほっ! 鼻からビールを吹きだしてしまいました。ツーンと鼻腔上部が痛みます。

「課長、那美さんから何聞いたかしらないですが、それは誤解でして・・・」

「まぁ、いいじゃないか、若いんだし。俺も少しは気持ち、わかるよ」

・・・って聞く耳もたねえし。

「稲山会の方は、どうしたんですか? やっぱり、百襲主任のツテですか? 」

「ええ。特暴課はなにかと稲山会に便宜を図ってきたこともあるしね。今回は『稲山会』の名前を借りただけだけど、何人かの幹部が犯した罪について、すこーしお目こぼしをすることを条件にしたの。」

「そ、そうですか・・・」

それは何だかなー、いいのかなー、公務員として。

がたん!

どうしたことでしょう、那美ちゃんが突然、カウンターに突っ伏してしまいました。

「来る・・・」

え? 何がですか? それより、那美ちゃん、大丈夫ですか?!

「来るぞ・・・ 『反乱分子』が」


 
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蟷螂
 

「後藤さん、じゃあ、取引と行きましょうか。」

テラテラ紫スーツの課長が若頭に話しかけます。よっこらしょという掛け声とともに、ベンツのバンの中から、スーツケースを運びだしました。

かしゃかしゃとロックを解除して、スーツケースの半分を開き、若頭をあごで呼びつけます。

「ご注文のブツだ。」

若頭、近づいていって中をのぞき、黒光りする物体を手に取りました。・・・ 小銃です。ひとつだけじゃなく、いくつか入っているようです。

若頭、こちらを振り返って、ゴリ店長を手招きしました。ゴリ店長、ゴルフバックを持って若頭に近づき、頭の部分のチャックを開けました。課長、手を突っ込んで中身をひとつ、とりだしました。・・・札束です。

ゴリ店長はゴルフバックを課長に渡し、ふりむいて僕を呼びつけました。

「おい、これを車に入れろ。・・・ お前、中身見たか? 」

「え? なんのことですか? 」おもいっきりすっとぼけました。

「・・・ 早く運べ。」

はーい、と言いつつスーツケースを持ち上げましたが・・・ クソ重い! ひぃひぃ言いながら、やんちゃレディースのバンに運び入れました。


「後藤さんよ、至誠会に妙な動きがあるんだが、承知してるかい? 」

「妙な・・・? いや、それはどういうことだ、稲山の。」

「的屋の親分たちがさ、お前さんをつけ狙ってるとよ。こっちの動きが漏れてんじゃねぇか? 」

「ふん。老いぼれ達に何ができる。」

「頼もしいこった。でもよ、万が一の間違いでもこっちは大損だ。『対策』についてビジネスマン同志、話し合いたいってよ、うちの会長が。これからちょっと顔貸してくれねえか。」

「物騒なことだな。怖くていけねえよ。」

「こっちは俺と会長だけだ。お前さんとこのバンで、●●ホテルまで行こう。そこに会長がいらっしゃる。お前さんとこのバンなら、今渡したブツもあるだろ? こっちに変な動きがあったら、ぶっ放せばいいさ。」

「承知した。」


課長が乗ってきたベンツのバンは、課長を置いて走り去って行きました。課長がやんちゃレディースのバンに乗り込んできました。

「お邪魔しますよ。」 片手で空を切りながら、後ろの方の座席に座りました。まったく余計な挨拶です。サラリーマンじゃないんだから。今、やくざなんだから。

一番近くの高速出口で降りて、渋滞にまきこまれることなく、すぐにめざすホテルの駐車場に入れました。

「コード194(イチキュウヨン)」

突然、EPPSから『指令室』不二さんの声が耳に流れ込みます。

え・・・ ここでやるのか? コード194とは、結界を張って憑依体を追い詰めることです。念のためですが、決して『イクヨ』とは読みません。もっとも、ダジャレ好きの多い部ですので、番号の元はそんなところかも知れません。

駐車場は比較的空いており、僕たちの外に人影がありません。

バンの横開きの戸を開けて、若頭、ゴリ店長、課長が降りました。

「稲山の。会長はどこだ? 」

課長は、くいっとあごを前方に向けました。そこからやってきた者は・・・

白の道着に朱袴、長い髪の毛を後ろでひとつに束ねた女性です。

「エリ? エリじゃないか。なんだその格好は。いやそれよりも、どうしてここに? 」

エリと呼ばれた女性は、若頭の経営する銀座のクラブに潜入した、我らが
百襲 ( ももそ )
主任。

諫凪 ( いざなぎ )
君、一般人を排除。」

僕はゴリ店長の襟首に思いっきり手刀を打ち込みました。うぐっとうめいて、ゴリ店長が前のめりに倒れ込む前に、そのごつい尻に蹴りを入れました。

「し足りないけど、しかえし。」

どさっ

「お前ら、一体何者だ? 稲山会じゃないな? 」

「指令室、結界をお願いします! 」僕は若頭の声を遮るように叫びました。

パシーーーーーッ!!!!

薄桃色の霧が立ち込めました。結界は、万が一一般人が現場に紛れ込んでも、心裡操作で僕たちと憑依体が見えないようにする技術です。見えなくするだけで、一般人と当たったりぶつかったりしたら、ケガさせちゃうことになります。だから、憑依体と対決するときは、他人が入ってこない、しかも戦えるだけ広い場所が必要なのです。システムの改善が望まれます。那美ちゃん、なんとかできないでしょうか。

「お前が異世界から来た思念体であることはわかってるんだ。」

「エリ? 何言ってんだ、頭おかしいのか? 」

「とぼけてもダメ! 」といいざま、百襲主任が若頭の顔めがけてハイキックを決めにかかります。辛くも頭を後ろに避けましたが、つま先が頬をかすめたようです。若頭の頬から、つーっと一筋、血が流れます。

うるるるるるぅ・・・

若頭が低く唸ると、ぶちぶちぶちっとワイシャツのボタンが飛びました。

ふしゅーっ・・・

結界内に、熱気が立ち込めます。若頭の体がぐんぐん大きくなり、肌が黄緑に変色していきました。腕が細くなって鎌状に変形し、頭が逆三角形になり目がぎょろりと大きくなりました。腹が後ろに向かって大きくなり、足が長く延びましたが大きく折りたたまれています。

「カ・・・ カマキリ! 」


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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