環境ビジネスの新たな潮流:豊洲新市場予定地の土壌・地下水汚染対策と課題■講師 土壌第三者評価委員会副委員長 サウンドソイル研究所 所長 川地 武 氏 (1) 築地市場移転の経緯
豊洲がどこにあるかといいますと、現在の築地から南へ2.3キロ行った臨海部です。新橋駅からお台場方面に運行しています新交通システム「ゆりかもめ」の「市場前駅」という駅もすでにできています。交通面では大変便利なところです。
築地市場は昭和10年に建設された施設で、70年以上たっていますので、老朽化していますし、手狭にもなっています。耐震性にも問題があるといったことから再整備することとなりました。
しかし市場を営業しながらの整備構想は調整に難航し、他所への移転が検討されて豊洲が候補地にあがりました。
築地市場は面積が23haですが、豊洲は40haあって広い、交通面でも便利ということで豊洲が候補地になったわけです。ところが平成10年予定地でベンゼンやシアンが発生していることがわかり調査が行われて、徐々に汚染の実態が明らかになってきました。当初は、汚染度は低いと思われていたのですが、詳細な調査の結果、高濃度の土壌・地下水汚染が検出され、移転計画の是非を含め大きな問題となったことは皆さんもよくご存知のことと思います。
現在新市場の整備計画は、平成26年12月にはオープンするというスケジュールで進められています。土壌汚染の対策工事は今年の半ばくらいから24年の4月まで約20ヶ月の工程で考えられています。
総工費は4316億円ということですが、まだ築地の再整備でという意見もあり、豊洲移転が確定したわけではありません。土壌汚染対策費は586億円と見積もられていて、当初より少し下がりましたが、大変高額な工事になっています。
(2)豊洲土地利用の来歴と汚染状況
もともとこの土地は、昭和23年から海面を浚渫土砂や粘土で埋め立てたところで、当初から東京ガスが所有し、都市ガスの製造工場として利用されてきました。はじめは石炭を乾留して都市ガスを作っていましたが、昭和50年頃からは石油から製造するようになり、あわせて32年間ガスの製造・供給基地として使用され、現在は更地になっています。
昭和41年の航空写真を見てみますと、石炭置場やコークス置場、ガス発生装置、コークス炉などが写っています。昭和54年に撮影された写真では、石炭やコークスは姿を消しています。
石炭から都市ガスを製造するプロセスですが、石炭をコークス炉で乾留するとガスが取り出され副産物としてコークスができます。このガスを冷却するとベンゼン、シアンなどを含むタールができますので、これらは処理施設で浄化処理されて排水されます。汚染物質で大きな問題となっているのがこのベンゼンとシアンです。またガスをさらに精製するのにヒ素化合物が触媒として使われたことから、ヒ素も高濃度に検出されています。
ベンゼンという物質は、外観は無色透明の液体ですが、水には若干溶け、揮発性も高く、比重は水より小さい、引火性で毒性があり、発がん性も認められています。これが環境基準値の43000倍もの高濃度で検出されたことから、深刻な汚染物質とされています。
東京都は豊洲の土地を10mメッシュで区切って、土壌と地下水について詳細な調査を行いました。その結果、土壌または地下水で環境基準を超えた地点は1475地点。これは総数4122地点の36%にあたります。最高濃度では、土壌から環境基準の43000倍のベンゼン、860倍のシアン化合物が、地下水からは、10000倍のベンゼンがそれぞれ1地点で検出されました。土壌で基準の1000倍以上が検出された地点は2地点(全体の0.05%)、地下水では13地点(全体の0.3%)でした。
つまり全域が高濃度に汚染されているというわけではなく、石炭とコークスを置いていたところや炉のあったところなどが集中的に汚染されていることが分かりました。
汚染物質を個別に見ると、土壌で環境基準値を超えた地点数は、ベンゼン35地点、シアン90地点、ヒ素307地点、鉛87地点、水銀10地点、六価クロム173地点、カドミウム69地点。地下水では、ベンゼン561地点、シアン966地点、ヒ素177地点、鉛37地点などとなっています。
地点数で見ると地下水の汚染がひどいように思います。また鉛や水銀、カドミウムなどの重金属は、ここが東京湾の浚渫土砂による埋立地ということを考えると、土地利用から生まれた汚染というより、埋め立て土そのものに含まれていたものと思われます。
汚染場所はだいたい地表から5〜6mまでの範囲でそれより深いところまで入っていないようです。
東京都の調査結果を総合しますと、土壌で環境基準を、また、地下水で環境基準の10倍を超えた地点は441地点で全体の11%です。さらにこの441地点を深度で詳しく調べると3134検体中で環境基準を超えていたのは683検体(21.8%)で、78.2%については基準以下でした。
(3)汚染対策
平成20年に東京都の専門家会議が汚染対策案をまとめ提出しました。これによると、まず土壌汚染対策としては、
1)ガス工場操業時の地面の下2mを掘り、きれいな土壌と入れ替える.
2)その上に厚さ2.5mのきれいな土壌を盛る。
3)ガス工場操業時の地面の下2mより下の土壌から、環境基準を超える操業に由来する汚染物質を取り除く。
としています。
汚染物質に応じた対策技術としては、ベンゼンについては微生物処理と中温(500〜700度)加熱、シアン、重金属については、土壌洗浄による、としていますが、これらはいま現地で実験中です。
地下水汚染対策としては
1)建物建設地は、建設後にあらためて対策を行うことが困難であるため、建設前に環境基準以下にする。
2)建物建設地以外は排水基準(環境基準の10倍)以下にし、将来的に環境基準以下にすることを目指す。
3)地下水の管理を行い、地下水位を一定に保つ。
4) 管理地下水位の上部に毛細管現象を防止するための50cmほどの砕石層を設けるとしています。
地下水位が上がるとベンゼンが揮発して地上や建屋に噴出を防止するため、地下水位を上げないように管理し、上昇した場合は地下水をポンプでくみ上げ、処理施設で浄化処理後排水するとしています。
平成21年には専門家会議の対策案を具体化する技術会議案が出され、建物が建たないところも市場施設着工前に環境基準以下にするとしており、現在はこの方針ですすめられています。
※東京都中央卸売市場ホームページより
東京都は、平成22年1月下旬から6月にかけて、技術会議が公募した提案から選定した技術・工法により汚染物質の最適処理が行えることを確認する実験を現地で実施しています。 実験の内容は下記のようになっています。汚染物質が単独で存在しているか、複合しているか、或いは存在している状況などにより対策処理技術は異なっています。
今年の4月22日に現地実験の様子が公開されましたので、私も応募して見てまいりました。午前・午後2回公開され、両方で100名くらいの方が参加されたのではないかと思います。
全部で16箇所の地点で掘削微生物処理や原位置微生物処理、地下水揚水処理など、異なる3種類ほどの処理実験を行っていました。
掘削微生物処理は大きなテントの中で行われ、掘削した汚染土壌に空気を送り、温度を制御して実験していました。原位置微生物処理は矢板で囲まれた範囲を、栄養塩などを送り処理状況を調査していました。また、地下水揚水処理では矢板で囲まれた範囲に地下水揚水管を2m間隔ほどで挿入し揚水し、地上では汚染物質をアルカリ塩素分解などで処理していました。いずれも、かなり立派な設備で取り組まれているように思いました。
(4)技術的な課題と問題点
ここで私なりに感じています課題・問題点を整理しますと次のようになります。
1)浄化目標と工程は妥当か
平成24年4月着工というスケジュールにあわせての目標と工程設定は本当にこれでいいのか気になるところです。
建物の建つ敷地と駐車場などの敷地も一緒に建設工事着工までに地下水を環境基準以下にまで浄化するとしていますが、建物の下はともかく、建物が建たない駐車場などのスペース(多分、全体の半分程度)まで、着工までに環境基準まで下げる必要があるのか、原位置処理や地下水揚水処理は地盤内の不均一性により短期間に均一な修復は期待できないと思われます。むしろ、建物建設工事と平行して修復工事を進めるのが現実的と思われます。
2)汚染の修復と建物の構造との整合化
建物の構造と汚染の修復をあわせて考えたほうがいいのではないかと思います。いまは汚染対策工事と建屋の工事が完全に分離されています。しかしそうではなくて、たとえば若洲ゴルフリンクスを見ていただきたいのですが、ここは以前夢の島と呼ばれていたゴミ埋立地に作られたゴルフ場です。
東京駅から30分でいけるゴルフ場として人気があるのですが、ここは埋め立てられたゴミからメタンガスがまだ多少出てきます。この対策としてクラブハウスなどは高床式になっていて床下換気によりメタンガスが溜まらないようになっています。これで問題なく対応できています。揮発性のベンゼンが心配というなら建物のほうでも少し工夫して対策をとれば、それほど無理なスケジュールで対応しなくてもいいのではないかと思います。今日は触れませんが、豊洲では地震時の液状化対策や耐震設計が行われると思います。
積層ゴムによる免震構造にして建てる技術では地下と建物との間に空間ができ、ここで揮発性ガス対策を講じることも可能です。このように、汚染修復対策と建物の構造とを複合的に検討してはどうかと思います。そうすれば時間的にも余裕ができるでしょうし、コスト的にももっと下げられるかも知れません。
3)修復過程の監視・検証方法
これは当然ですね。特にここの場合は、データ隠しといわれるような複雑ないきさつがあるようですから、なおしっかり監視・検証をしなくてはなりません。
4)修復終了の判定
土壌汚染対策法では汚染地の修復では事後の地下水モニタリングを2年して浄化が確認されて終了判定となっています。今回の場合、どう修復終了を判定するのか、これも課題です。
5)市場操業後の適切なモニタリング
自然地盤の中での現象ですから、見落としていたものが突発的に現れたり、リバウンドが見られたり、はありうると思われます。適切なモニタリングと同時にその場合の対応も考えておく必要があると思います。
いずれにせよ、3,4,5については透明性の確保がなによりも大切です。
(5)おわりに
最後に私の全体的な感想を述べさせていただきますと、
・汚染は顕著ですが、修復は技術的には十分可能と思われる。
・修復は拙速を避け、手順をふまえ複合的な対応を行うことが大切。
・都民、世論の納得、合意を図る。
・そのためには修復事業の透明化と合意形成が必要。
・その際、第三者評価も活用していただきたい。
以上です。
どうもご清聴ありがとうございました。
豊洲新市場に関する詳細情報は下記を参照ください。
ATCグリーンエコプラザ セミナーレポートから転機
土壌第三者評価委員会が監視すれば良いですね!
|
全体表示




素晴らしい、文章ですね!
勉強になりました。
[ 琵琶 ]
2010/7/22(木) 午前 7:50
転載ありがとうございます。
多くの方々に転載されることを希望します。
[ 環境のよい不動産が好き ]
2010/7/24(土) 午前 6:56
★夏の暑さに圧され、ブログをサボってました。
スミマセン(^^;
●月臣は東京に住んでおり、特に副業に出かけるときにはよくお台場方面にも行きますので、仕事帰りには混雑する地下鉄を避け、築地などの風景を見物しつつゆっくりと歩きます。
築地市場は昭和10(1935)年、関東大震災で被害を受けた民営市場に替わって、東京市が整備した公設市場です。
以来75年にわたって東京都の鮮魚を中心として、青果や漬物などを卸売りする場となっています。
2010/9/18(土) 午後 5:20
●ところが、75年にわたる風雪に耐えた建造物は老朽化し、通路も昔ながらの狭さで効率も悪い、という問題もあるようで、豊洲への移転が計画されています。
しかし、市場周辺の「場外市場(民営)」や、寿司店などの立場から見れば、市場が3km離れた豊洲に移ってしまうことは大いに懸念すべきことでしょう。
また、移転先の豊洲の土地も、東京ガスの工場の跡地であり、汚染物質が残留しているということで問題となっています。
●月臣としては、古いものや地域のつながりを大切にすることも大事だと思いますが、建物の安全性や、流通の効率化などを考えると、移転は止むを得ないと思います。
★転載させていただいた「汚染土地の有効利用セミナー」さま、コメントいただいた琵琶さま、ありがとうございますm(_ _)m
2010/9/18(土) 午後 5:22
築地市場は昭和10(1935)年、関東大震災で被害を受けた民営市場に替わって、東京市が整備した公設市場です。
以来75年にわたって東京都の鮮魚を中心として、青果や漬物などを卸売りする場となっています。
2011/4/2(土) 午後 10:19
築地市場移転:豊洲の土壌対策、測定結果は公表 /東京
築地市場の移転先となる江東区豊洲での土壌汚染対策工事に関する会議が18日、都庁で開かれた。土壌内のベンゼンやシアン化合物などに加え、放射性物質も検査した上で、測定結果を都のホームページで随時公表する予定。
都によると、工費は総額約542億円。大手ゼネコンなどでつくる三つの共同企業体(JV)が請け負う。会議では、業者側が提示した工事の概要が示された。都は今後、地元住民への説明会を開き、早ければ年内にも本格工事に着手する方針。
[ 底質汚染 ]
2011/10/20(木) 午前 6:36
東京・豊洲への先月7日の移転予定が先送りになり、迎えないはずだった年末の繁忙期で、築地の場内市場がにぎわっている。
豊洲市場の建築工事はほぼ完了し、移転は決まっているが、市場関係者の不安は消えない。地下水などから基準を超える有害物質の検出が続いているからだ。「土壌が汚染された豊洲には行かない」と、築地市場の廃止と同時に廃業を決めている仲卸店主に話を聞いた。
50代男性のAさんは、築地場内市場で約70年続く水産仲卸店の3代目。築地市場の廃止と同時に廃業することを決めている。
−豊洲市場で商売を続けるという意向は全くないのですか
Aさん 全然。豊洲に移転したら、やめる。地面から有害物質が出てくるところに市場を持って行って、生鮮ものを扱うことがおかしい。
先代に申し訳ないけど、豊洲で汚染の問題が起きる可能性は高い。それを避けるには、やめるという決断が単純明快。
[ 還暦からの正義感 ]
2016/12/25(日) 午後 8:05