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春休みってのは、学年と学年の間だからか、ゆっくりと腰をすえて読書に励めます。(決して、勉強しないことへの言い訳ではない)
『半月』の続きがお預け状態にあるのもあって、いろいろな本を読んでいる今日この頃です。
で、今回久しぶりに感想を書いてみようと思ったのがこの本。
『レインツリーの国』 有川浩著 誰の影響か、最近有川浩さんの小説にはまっております。
この作家の書く小説は、「ベタ甘」と評されるほど甘々の恋愛ものなのですが、透明感のあるというか、べたつかない甘さ(?)のおかげで、男性なんかでも読みやすい作品です。
この作品もその例に漏れず、甘い甘いお話なのですが、 しかし爽やかな読後感を伴っています。
この物語の主人公は、関西から就職のため上京して3年目の向坂伸行と、とあるきっかけでであったひとみ。
二人が出会ったきっかけは、あるライトノベル。
中学時代に読んだそのライトノベルの感想を不意にインターネットで調べてみた伸行。
そして彼は、あるサイトにたどり着いた。
そこがひとみの管理する「レインツリーの国」であった。
メールのやり取りを繰り返すうちに、伸行はひとみに魅かれていった。
そして、直接会いたいと思うようになっていった。
しかし、ひとみはそれを拒もうとする。
その後、結局2人は初秋のある土曜日に本屋で待ち合わせて会うことになった。
2人は一緒に食事をしたり、映画を見たりした。
しかし、ひとみの様子はどこかおかしかった。
そして、あるちょっとした事件が起こるのである。
実は、ひとみは聴覚障害を持っていた。
ひとみはそれを隠して、「健聴者」のようにデートをしたかったのだ。
このことで、2人はケンカしてしまう。
しかし、それは2人を決定的に別つケンカではなく「仲直りするためのケンカ」であった。
2人の間合いは、時にぶつかり、時に離れ、そして時に寄り添いながらも徐々に近づいていく。
デートにも何回も出かけ、そのたびに様々なことがある。
でも、それが2人をちょっとずつ変えていく。
そんな2人の甘い甘い恋の話。
・・・うん、いい要約文だw
で、ようやく感想らしい部分なんですが。
まずは有川浩さんはやっぱうまいなーということ。
SFとかファンタジーじゃないただの恋愛小説のはずなのに、仕掛けがうまく働いているんですね。
そこら辺は、今度映画化される『阪急電車』なんか読んでても強く感じた部分。
登場人物一人ひとりの行動が、あくまで自然に、美しく伏線として作用しあうのは思わず唸ってしまうほど。
それから、この人の文はすごく引きこまれる文なんですよね。
会話だとか、心の葛藤だとかがごく自然に描かれていて、気づいたら感情移入してしまう。
有川浩さんの作品に登場する人物は、みんな決して聖人君主のような人ではないけれども、芯の美しさというか、人間としての大切な部分が輝きを持っているような人たちだと感じます。
だからこそ、ついつい感情移入してしまうし、それを後押しするのが濁りのないストレートな言葉だと思います。
あんな文章が書けたらいいのにな、とか感じてしまうくらいに、本当に美しい日本語だと思います。
さて、この2人の出会いは本がきっかけとなって、インターネットを介したものです。
これって、新しいなと。
この感想自体は誰もが持つものだと思うんですけど、個人的にはそれでも強調しておきたいポイント。
自分も本は好きで、やっぱり好きになる相手も本が好きであって欲しいし、その趣味が重なるならなおさら。
本屋デートってものにも、ちょっとあこがれてみたりするんですよね。
でも、そんなちょっとイマドキじゃないきっかけの出会いは、イマドキのツールを介して行われている。
インターネットを通した人間関係をここまで肯定的に捉えた作品って、なかなか無いんじゃないかと思うんですよ。
僕自身、インターネットには常に危険があると思って警戒を怠ってない(つもり)ですし、インターネットを通した恋愛というとどうしても「出会い系」などの、ちょっとアングラなものを思い浮かべてしまいます。
しかもこの2人は、メールという手段を使って絆を強め、そしてケンカもするのです。それも、すごい長文で。
2人とも、非常に理知的で、そのメールの内容は楽しげなのに同時に隙がありません。
これは持論なのですが、人と人とのコミュニケーションにおいて誤解は避けられません。
それは、どんな形態のものであれ、少なからず誤解を含んでいるという意味です。
普通、直接対面しての会話ではそれは最小限に抑えられます。
特に、ふざけも入っての楽しいやり取りだと、文面にしてしまった途端に歯切れが悪くなってしまう。そして、微妙なニュアンスが伝わらずに大きな誤解へとつながってしまう。
私は、メールなんかの「手書きでない文字」のやり取りではあまりふざけないようにしています。そういった内容を書くのは、完全に気心が知れた仲のごく少人数です。
それでも、何回も何回もその文章を見返します。
しょうもない、ふざけた話であればあるほど、誤解が生まれるのを恐れて見返すのです。
逆に、しっかり考えて書いている、ブログの記事のような文はあまり見直すことはしません。
もちろん、面倒くさいということもありますが、読者との間に決定的な誤解を生む危険があるようなことにはあまり触れないようにしているからです。
見てる側からしたら、きっと「ふ〜ん」というだけの記事ばかりなのも、そうした管理人の臆病によるものです。
話を本題に戻すと、この2人は、完全にそうした臆病と無縁のように思えるのです。
言い換えると、そうした誤解を恐れていないということです。
きっと、この2人の間に交わされているメールは、何回も推敲され、そぐわない部分は改められているはずです。
しかし、それでも話し口調の非常にくだけた、そしてウィットに富んだ内容。
まさにお互いの心をさらけ出すような内容は「青春菌」によるものと、2人はそれさえも話の種にしています。
お互いに、まったく知らなかったからこそこんなやり取りができたともいえるでしょうが、果たして自分がそんなやり取りができるだろうかと考えてみると、やはり理由はそれだけではないはずです。
というより、どれだけ理由をつけようと、結局何も恐れない文を書くことができたのは、この2人の世代の若さによるものかと思うんです。(まぁ、kouより年上のはずなんですけどね)
インターネットを恐れないというか、完全にそのコミュニケーションを使いこなしているというか。
自分も、インターネットをそういう使い方できないかと考えてみるんですけどね。
自分と相手と、双方とも程度が高くないとできない芸当と考えてしまうと、どうしても尻込みしてしまうんですよね。
で、話は変わりまして、ヒロインの「聴覚障害」について。
この小説は、あくまで「聴覚障害」そのものを描いた作品ではありません。
聴覚障害をもったヒロインが登場する、ただの恋愛小説です。
確かに、僕自身この小説を読んで知ったこともありますし、何より聴覚障害者の苦しみも、しっかり描かれているのではないかとは思います。
しかしこの小説は、それは至上の目的ではなく、あくまで設定のひとつであり、キーワードなんです。
聴覚障害者の苦しみを完全にわかるのは、聴覚障害者だけです。
もちろん、僕もその苦しみは想像もつきません。
世の中には様々な障害があります。
目に見えるものも、見えないものもあります。
そして、それで苦しんでる心というのは、周囲の人が察することはできても、完全に知ることはできません。
障害だけではありません。
世の中には様々な苦しみがあります。
人間は、大抵は何かの苦しみを背負っているものです。
その苦しみは、誰かと同じに思えるものでも、その人にとって決して簡単に共有できるようなものではないでしょう。
その人の苦しみは、その人にしかわからないし、誰かがそれをわかろうとしても「触れないで」と突っぱねてしまうこともあるでしょう。
でも、人間はみな、何かの苦しみは持っているんです。
その内容は違っても、苦しいということ、心が痛いということはみな持っているんです。
どうせわかってもらえない、と自分の苦しさを他人に投げても、それは意味のないことです。
なぜなら、そうやっても相手が苦しさをわかることもなければ、自分の苦しさが軽くなるわけでもないからです。
もちろん、相手の苦しさもわかりません。
そうやっているうちに、自分はもっともっと苦しくなってしまいます。
では、一体どうすればいいのか。
それは、自分の苦しみを受け入れ、むしろ自分の力としていくことではないでしょうか。
相手の苦しさを包み込み、それを少しでも和らげることではないでしょうか。
この2人も、2人の間にある壁をそうやって乗り越えていったように思えます。
いや、これから乗り越えていくんでしょうか。
いずれにしても、これはバーチャルの世界ではできないことです。
現実に悩み、手にする答えですし、それを実践すること自体もある種の苦痛に満ちているかもしれません。
しかし、だからこそそこに価値があるのかなぁと。
苦しいのは苦しいけど、それを自分のための、自分だけの苦しみから、相手のための(そして自分のためにもなるのだが)「潔い苦しみ」に変えていく。
きっとそれができれば、苦しさが苦しくなくなるというか、苦しさに心が負けることがなくなるんだと思います。
きっとそれは、簡単なようで難しいこと。
自分の苦しさと真剣に向き合うのは多くの人が避けてしまうこと。
でも、それができる人が強い人。
あぁ、自分もいつになったらそんな強い人になれるんだろう。とか考えてしまいますが、きっとその前に大層な苦しみに会うんだろうなと、ちょっと怖く思っております。
薄くて読みやすく、手に入りやすいと思うので、皆さんもよければ読んでみてください。
そして、この2人の深くて甘い恋の世界に浸ってみてください。
このとんでもなく長い文が、誰かの心に繋がればいいなと思いつつ。
P.S.実はこの記事が、記念すべき200番目の記事でした!
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