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「すごく面白いわよ。絶対に好きだと思うわ」
会社の先輩(女性)がそう言って、頼みもしないのに本を貸してくれたの。
昨夜、友達と会う約束をしていたから、普段は乗らない電車に乗ったのよ。その本を持って。

運良く座れたから、本を広げて数分、全く面白くもない本に、全く集中できず、アタシは前々から思ってはいたけれど、つくづく、あの先輩とは会話も性格も噛み合わないと悟ったわ。
絵に描いたような素敵な先輩だけれど、こういった感性の違いは、努力や思いやりじゃ解決できない決定的な分岐点だわね。親しくなりたいかどうかの。

絶対に好きだと断言してくれた本が、あまりにもつまらなくて、広げては閉じ、閉じては広げを繰り返していたら、酔っ払いを忠実に再現したようなオッサンの2人組が、アタシの隣りに座ったの。
酒とタバコと油が混ざったようなドギツイ臭いが不快な一方で、愉快な事が始まりそうな気がして、アタシは本を鞄にしまったわ。

「この電車は西船橋に行きますかね〜」
酔いを決して隠さない大きな声でハゲが話し出したの。
心の中でアタシはそっと呟いたわ。「ハゲ、行くわよ。安心して、ハゲ」
「行かないんじゃないか?」呂律が回らないデブが答えたわ。
「行かないの?」驚くハゲに「行かないよ」デブが素っ気なく答えて、「行くってば」心の中でアタシが答えたら、「行くでしょう」今度はハゲが予言を始めて、「行きませんね」デブが予言を的中させたかのように答えて、「だから行くってば」心の中でアタシが応戦したら、「行かなきゃそれまでだ」ハゲが諦めたの。

あらやだ。
それまでだってアンタ、どこに向かってるか分からない電車に乗ったの?
アタシの人生と同じ電車ね。ご乗車ありがとね。

しばらく2人は、もしも私が総理大臣だったら、というテーマでベロンベロンになりながら討論をしていたわ。間違いなく、アンタたちなんか当選しないのに、間違いなく、渡された本よりも楽しくて、ずっとずっと耳を傾けていたわ。
「消費税廃止」「所得税廃止」「一夫多妻制」「公共料金無料」「住宅手当」「海外旅行手当」「電車は無料」「米は無料」「病院は無料」「年金は50歳から」「浅田真央に金メダル」「選手全員に金メダル」「私もあなたも金メダル」

ざっくばらんな夢の国ね。
それに「同性愛歓迎」と「美容室無料」が加われば、アタシは間違いなく、アンタたちに総理大臣をお願いしたいわね。支持率だって結構高いはずよ。
次のテーマ、もしも私が会社の社長だったら、に移った瞬間に、ハゲがまた言ったの。

「この電車は西船橋に行きますかね〜」
やだ。一回一回、この話題を挟むのかしら?
ハゲの問いにデブが答えたわ。「行くよ」
え…。10分前には、アンタ、行かないって力説していたわよね。
「いや、行かないね」今度はハゲが行かないに転じ、「いや、行くよ」デブが強い口調で言い切ったら、「いや、行かないよ」ハゲは断固として譲らなかったの。
「行かなきゃそれまでだ」今度はデブが諦めたわ。

逆になってるっつーの!!!
なぜ?どうして?なんで逆になるの?
ところでアンタたち、どこまで行きたくて乗ってるの?
志村けんと柄本明の芸者のコントを見ているようだったわ。アタシ、あれが大好きで、西船橋までくっついて行きたくなっちゃったの。親しくなりたいわ。

「年功序列」「週休3日」「6時間勤務」「毎年昇給」「無欠勤賞与」「飲み会手当て」「スーツ代支給」「新卒は要らない」「社員旅行は全員で韓国」「韓国に行ったら全員で焼肉」「焼肉手当て」「焼肉はカルビ」「カルビは胃がもたれる」「だから途中からタンがいいんだよ」「タンより私は海鮮の塩焼き」「鉄板取り替える?」「取り替えてもらった方がいいね」

アタシ、口を押さえるのも忘れて、大笑いしていていたわ。
どこに向かっているか分からない会話が、見事に成立しているんだもの。
アタシの人生より遥かに目的地が見えないのに、臨機応変に成立しているんだもの。

ところで。
そう切り出したのは、やっぱりハゲだったわ。
「この電車は西船橋に行きますかね〜」
しかも、今度はアタシに聞いてきたの。右と左を間違えたようね。
今までの話の流れを全部聞いていたから、堪えきれなくて、声を出して笑っちゃったわ。

「行きますよ」
「行きますよね」アタシに同調してきたハゲに「だから行くって言ったでしょ」デブまでが同調してきたら、「さっきアンタ行かないって言ったでしょ」ハゲがデブに言い返して、「さっき行かないって言ったのはアンタでしょ」デブがハゲに詰め寄っていたわ。

1回ずつ、行かないって主張していたわよ。
ちなみに、もう1つ指摘すると、ほとんど無料の国で、ほとんど働かない人間たちが、韓国で焼肉ばっかり食べていたら、近い将来、日本という国は消えて無くなるわ。
やっぱり、鳩山の方が無難のようね。投票は取り消しよ。

友達と待ち合わせをしている駅について、アタシは西船橋まで一緒に行きたい彼らを残して、電車を降りたの。続きが聞きたくて、すごく降りたくなかったわ。
あんな身勝手なもしもシリーズ、他じゃ滅多に聞けないもの。

駅で興奮しながら、友達に話したの。
この友達は、分岐点が一緒の方向の子で、感性が似ているから、必ず笑ってくれる自信があったのよね。
やっぱりアタシの思っていた通り、大きな声で笑った後に、アタシに教えてくれたわ。

「この電車、西船橋には行かないけれどね」

あら…。どうしましょ。
でも、大丈夫よね、きっと。呂律の回らない豪快な声が耳によみがえったもの。
「行かなきゃそれまでだ」

もしもアタシが総理大臣になったら、アンタたち2人に金メダルを送るわ。そして、酔っ払いには専用の車両を作りたいと思うの。
そこには、想像を絶する愉快な空間があるはずだもの。

すごく面白いわよ。絶対に好きだと思うわ。

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振り返り過ぎて、首が痛いわよ。
2006年の9月から2007年の3月までの半年間の記事をたった2週間で振り返ったわ。

2006年11月には5〜6年付き添ったジロウと別れたの。
それだけアタシにとってテツヤ君の存在は大きかったようで、テツヤ君を好きでいるアタシをジロウは大切に想ってくれていたんだと思うわ。

この記事を境に一度ブログを、お休みしたのよ。
テツヤ君への想いに区切りをつけた、最後の記事ね。


2007年3月30日 恋するオネエ様 最終章

うっすらでも、雲がかかったら見えなくなるような、細くて小さな三日月が、アタシの働く街を弱々しく照らしていた夜。久しぶりの再会には、寂しすぎるくらい、彩りさえ感じない三日月が、アタシの歩く道を微かに照らしていたわ。

右手を軽く挙げたテツヤ君が、アタシに会うとすぐに、ヘビ柄のナンセンスな鞄から雑誌を取り出して言ったの。「ずっと借りていてごめんね」懐かしい表紙がアタシの気持ちを切なくさせて、何も言わずに黙って受け取ったわ。

ここを歩くのは何年ぶりだろ。目を細めて話しかけてきたテツヤ君にアタシは無表情のまま答えたわ。「2ヶ月だろ」たった2ヶ月か…テツヤ君は一瞬だけ笑って、釣られたアタシも一瞬だけ笑って、三日月が微かに照らす、歩き慣れた桜の木の下の歩道を、2人で喋りながら歩いたわ。

こんばんは、元気良く挨拶をしてくれた店員たちの中でアタシを知る人はもう居ないの。シュン君が退職して、ヒトミが転勤して…それから1ヵ月後にテツヤ君まで転勤して、あの日から寂しくなったわね、この店も。1年前、こんにちは、ってテツヤ君が挨拶してくれた店。同い年だねってアタシが嘘の干支を言った店。友情で我慢し続けた店。嬉しい気持ちと悲しい気持ちが絶えず交差していた店。

ライターを忘れたアタシに、タバコを吸わないテツヤ君がライターを差し出してくれたの。「忘れてくるだろうと思ったよ」通い詰めていたあの頃から、アタシはライターを何度も忘れて、店員に借りる常習犯だったわ。話すきっかけを一つでも作りたい、そんな確信犯でもあったけどね。「ありがとう」どこにでも売っている100円ライターだけど、アタシはこれを見るたびに、そしてタバコを吸うたびに、にやけた顔をするのね、きっと。優しい笑顔も短い髪も、伸びた背筋も良く通る声も、小さな100円ライターの中に全部、収められている気がしたわ。この先、何回だって、これがテツヤ君を想うチカラになるはずね、そう思うと嬉しくて、使う前から、にやけた顔が戻らなかったの。

「最近どう?」アタシの気持ちに当然気付かない、遠慮のない言葉に、少しだけ間を空けて答えたの。「何も変わらないよ。たった2ヶ月じゃ」どんなにくじけそうな時でも、どんなに苦しい時でも、会いたいなんて口が裂けても言えるわけがないわ。押し潰されそうな気持ちに負けて、その言葉を伝えてしまったら、会えるどころか永遠に、優しい笑顔も短い髪も、伸びた背筋も良く通る声も、アタシの元から遠ざかっていくわ、確実にね。

愛したい人には伝わらないのね。思い通りにならないって分かっていても、あがいても、もがいても無駄だと分かっていても、伝えたい言葉がちゃんとあるのにね。アタシはこれからもテツヤ君に会いたいから、明日からもまた、友達ぶるのよね。いつまでも応援する、良き理解者を装うのよね。

約束の時間になると、ヒトミとシュン君がやって来たわ。2人そろって登場するなんて、アタシの心を逆撫でするには充分な言動ね。八つ裂きにするわよ。それからしばらくすると、テツヤ君の彼女もやって来たわ。「ご無沙汰してます、お元気でしたか?」お元気だったわよ、あなたという存在さえ無ければ、もっとお元気なんですけどね。「元気だったよ、元気だった?」彼女は大きく頷いたわ。そりゃ、テツヤ君を独占しておいて、元気じゃないなんて言わせないわよ。

「そろそろ行こうか」混雑してきたお店に気を遣って、全員で外を散歩したの。満開の夜桜の後ろで、眩しく光る東京タワーが美しかったわ。
「飲みにでも行かない?」急に言い出したヒトミの提案に、テツヤ君が賛成したわ。テツヤ君、彼女、ヒトミ、シュン君…どう考えてもアタシって邪魔よね。

「今日は帰る。人と待ち合わせしているし」「一杯くらいいいじゃん」大好きなテツヤ君の誘いを断って、アタシは一人で、東京タワーの方向へ歩き出したわ。「じゃあね、また今度ね」今度、会えるのは、いつかしら。それまでアタシを忘れないかしら。
何度振り返っても、誰一人振り返らずに、少しずつ少しずつ離れて行ったわ。

雲が三日月を隠したのに、弱そうに見える三日月は、しっかりとアタシの足元を照らしてくれていたの。電車の窓から見た時も、電車がアタシの住む街に到着してからも、消えそうなほど小さな三日月は、しっかりと光を放っていたわ。雲が沢山の星を隠していても、頼りなさそうに見える三日月だけは、空のてっぺんで、雲に覆われながら、輝いていたの。

電車を降りると、懐かしくて優しい笑顔が迎えてくれたわ。
「ずっと借りていてごめんね」アタシはさっき見たばかりの雑誌を差し出したわ。優しい笑顔は、懐かしい手のひらで、それをそっと受け取ると、黙って鞄に閉まって、一言だけ言ったの。

「おかえり」

「ただいま、ジロウ」

結局のところ、散々騒いだ挙げ句の元サヤ状態なんて、腑に落ちないわね。
このブログをオンタイムで書いていた頃は、コメントをくれる人たちが、ジロウとの別れに一緒に泣いたり、テツヤ君への想いに一緒にドキドキしてくれたり、一喜一憂をともにしてくれたわ。
その頃がすごく懐かしくて、テツヤ君じゃないのに、テツヤ君とは似ても似つかない人たちなのに、今でもコメントを読むだけで、すごく元気になってしまうの。

頼りなさそうな三日月にアタシは果たしてなれるのかしら?
雲に覆われても、ジロウの歩いていく道を照らしてあげられるのかしら?

答えは簡単よ。
Yes.

アタシは、雲には覆われないわ。
もう大丈夫よ。
安心して歩いてちょうだい。

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そうでございあすよ。
乳毛は寒さから乳を守るために生えてくるんでございあすよ。
ケツ毛は寒さからアナルを守るために生えてくるんでございあすよ。
シモの毛は熱さと圧迫感で縮れるんでございあすよ。

昨夜、アタシが寝床で連呼していたら、ジロウが大声を張り上げたわ。
「うるさい!!早く寝て」
独り言もうるさいでございあすよ、アタシ。

2007年3月4日 風邪と戦う 

今日は至ってシンプルに「木曜から風邪だ」って事について書くわ。いただけないかしら?地味すぎて。昨日見た夢について書いてもいいんだけど、それもまた地味なのよね。

「田舎に泊まろう!に高橋英樹が出演する夢」…ほら、言わんこっちゃないでしょ。一応報告しておくわね。お泊りは成功して、一宿一飯のお礼に、切干大根を作っていたわ。英樹って大物俳優なのに、台所が似合うわよね。そうそう、娘さんは見かけないけど、元気にしてるかしら?上品な獅子みたいな顔の子。あの子、親の力を借りないでアナウンサーになったんですって。素敵ね。

社内でも風邪が大ブレイクしているわ。花粉症も入れると、ものすごいマスク率よ。もちろん、理解していると思うけど、念のために伝えるわね。マスクっていうのは仮面の事じゃないわよ。ものすごい仮面率だったら、楽しいわよね、アタシの職場。アタシ、目元だけ蝶の形をした仮面を着けて出社したいわ。色は、そうね…紫かしら。不吉な色で、魅了してみせるわ。

熱が38度あっても休める状況じゃないのね、今のアタシ。忙しさ自慢みたくなって嫌なんだけど、本当にミーティング続きで、ちょっと休もうものなら、情報の遅れを取るわ。後から、誰かが教えてくれるんだけど、誰かを間に入れることによって、その情報は、正確さと精度を欠くわ。自分の手で、耳で、目で、確かめたいのよ。
ミーティングの最中でもね、咳き込んでいる人は沢山いるの。きれいな女の人が、ゲホゲホと若手芸人のコントのような咳をしちゃってね…アタシ、育ちを疑ったわ。心配する観点が違うわよね。でもね、大丈夫かしら?この女、貧乏ったれみたいな咳しちゃってって、思っちゃったのよね。

デスクに戻っても、周囲のあちこちから咳が聞こえたわ。「そりゃ、アタシも風邪になるわけね」一人で納得していると、後ろの席の上司が、耳を疑うような咳を始めたから、アタシは急いで息を止めて、その場から離れたわ。あんなの咳じゃないわよ。嘔吐よ、嘔吐。気が散るわ。

薬を飲んでもアタシの熱は上がる一方で、寒気もするし、頭も痛いし、何より喉が痛くなったの。不意に咳が出たわ。ちょっと始まったかと思ったら、その咳は止まる事なく、出続けたの。パチンコなら大フィーバーよ。じゃんじゃんバリバリ…咳が止まらないの。周囲の目ったら、冷たかったわ。明らかに、アタシの育ちを疑う目をしていたもの。それもそうよね、嘔吐を通り越して、産気づいたような音を出してたんですもの。後輩が背中をさすってくれて、その間は「ヒーヒー、フーッ」って息を整えたわ。すぐにまた、お産が始まって、後輩までもが息を止めて、その場から離れていったの。「産まれるわー。もうちょいよ!男とオカマは外に出て−!!」

今日は日曜日。だいぶ落ち着いたわ。熱もないし、咳は出ないし、あとは自分の意識と関係なく出てくる鼻水との戦いを制すれば終了よ。大事なときに限って、鼻水って容赦なく出てくるのよね。強敵だわ。昔、カフェで働いていたときに、お客様の前でコーヒーの上にホイップクリームをトッピングして、さあ提供するぞって時に、ホイップの上に、鼻水がポタッと落ちたことがあるのよね。客と目が合ったわ。アタシから逸らしたけど。鼻血が垂れた時もあったわ。客は白目を剥いていたけれど、いちごソースよりは鉄分豊富よ。鼻の穴って無防備なアナルよね。隠せないから恐ろしいわ。「鼻アナル専用パンティー」でもあればいいのに。マツキヨあたりに置いてるかしら?

さて、今日の田舎に泊まろう!は誰…?あらやだ、今日は特番でお休みじゃない!「舟木一夫ヒット曲集」って、やだわ。高橋英樹が泊まりに行くっていうのは、正夢じゃなかったのね。おかしいわね。体調不良のせいで、アタシの予知夢能力が鈍っているみたい。仕方がないわ。一宿一飯のお礼でもないのに、アタシが自分で切干大根を作るしかないわね。身体に優しい一品だもの。

悲しい独り身の、さみしい週末よ。
早く風邪を治して、英樹の娘を探しに、お台場あたりを徘徊したいわ。

そうね。一瞬だけジロウと破局をしていた時期ね、これ。
くっついたり、離れたり、好きだと言われたり、言われなかったり、言ってみたり、言わなかったり。
恋をしたり、しなかったり、乳の毛が生えたり、生えなかったり、寒さから身を守ったり、守らなかったり。

一見、背中合わせに見える相反する2つの出来事は、きっと同時に進行しているんだと思うわ
好きだったり、嫌いだったり、育ちを疑ったり、疑われたり、縮れたり、縮れなかったり。

それが生きるという事でございあすよ。

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2006年の過去記事を引っ張り出して、当時の恋愛を振り返っているのよね。明らかに暇でしょ。
過去の記事は2007年に突入して、色々あったようで何もなかった、アタシとテツヤ君の物理的な環境に変化があったの。

2007年1月14日  恋するオネエ様

いつも通りのコーヒーに今日だけ砂糖を入れたのは、きっと寂しい気持ちに負けそうだったからだわ。

アタシの隣りに黙って座ったテツヤ君は、小さな声で俺のおごりと言って温かいスコーンを渡してくれたの。こうやって二人でゆっくり話すのがあまりに久しぶりで、どちらからともなく、俺達いつからこんなに忙しくなったんだろうって…ぼんやり道行く人を眺めながら話し始めたわ。

アタシがテツヤ君と出会った当初、アタシはサボる事に命を賭けた普通のリーマンで、テツヤ君は仕事どころか何にも生き甲斐を感じる事のできないダメなサービスマンだったの。お互い、表面だけは人並み以上にしっかりした人を取り繕っているのに、これ以上の功名も進歩も望んでいなかったわ。当時のアタシは間違いなくテツヤ君見学の為だけに出社していたしね。

道行く人たちが足早に目の前を通過していく姿を眺めながら、アタシは温かいスコーンを一口だけかじったわ。「もう要らない」突き返したスコーンを食べながらテツヤ君が言ったの。「初めて話したのっていつだっけ?」

あれは春よ。桜が風で散り出した日、花びらが辺り一面を桃色に染めていたもの。一生懸命に咲き誇った末に散ってゆく、その美しさに浸ったわ。乙女ね、アタシも。その乙女が「辰だ!」っていきなり干支の話をしたのよね。「俺も辰っす」。一つ年上の優しい笑顔は、アタシの嘘にちょこんと頷いたわ。夏は初めて二人で飲みに行ったの。翌日に控えた、テツヤ君と彼女の鎌倉デートのコースを一緒に練ったわね。秋から仕事の話を真剣にするようになって、冬にはイタズラやタックルを互いに仕掛ける間柄になったわ。クリスマス直前のテツヤ君の30歳の誕生日に、飲みに誘われたの。感激だったわね。俺の三十路を祝って下さいよ、って。嬉しくて昇天しかけたのが昨日のようよ。何故かヒトミの野郎も居たけれど。あいつ、毒を盛っても死ななくて最後まで居座っていたの。しぶとい女ね、マジでファックだったわ。

ほとんど毎日話したよね、テツヤ君が懐かしそうに言ったからアタシも急に切なくなったの。ほとんど毎日、話すきっかけを探していたのよね…。明日からはそんな心配をしなくていいのね。行きたい時だけ行けばいいのね。テツヤ君の姿を遠くから確認しなくても、食べたくもないスコーンを買わなくても、わざわざ雨の中行かなくても…。もう全部、しなくていいのね。アタシのストーカー行為、封印していいのね。

テツヤ君は明日付けで転勤するの。二人で何度も語りながら見たこの風景を、もう並んで見ることは出来ないわ。この道は、桜が満開になるとすごく綺麗なのに…それがアタシの住む世界では一番美しい風景なのに…。風で桜が美しく散る頃は、また一人で桃色に染まった道路を見渡すのね。昨年よりもキレイだったら、余計に寂しく感じるはずよ。

「仕事辞める気なんてないよね」はにかんだような笑顔でアタシに聞くから、「辞めるわ。今から退職手続きよ」って答えたくもなったけれど、真面目に答えたわ。「ない」。そしてすぐに聞き返したの。「テツヤ君は?」

少年のような澄んだ目で「もう大丈夫」と言って、アタシが独占したかった素敵な笑顔を向けてくれたわ。成長したわね、アタシたち。今の二人は、働く事で自分を高めて行きたいという強い意識や、仕事を通じて新しい発見をしたいという目的があるの。お互いの背中が遠くならないように、切磋琢磨したと思うわ。今も、テツヤ君と交わした色々な約束が勇気となって、アタシを強欲なまでに働かせているの。

「もしも辞めたくなったら言って。俺が雇うから」テツヤ君は冗談っぽく言ったけど、アタシは真顔で頷いたわ。「売上伸びなかったら言って。店中の物、全部買い占めてやるから」今度はアタシが冗談っぽく言うと、テツヤ君は真顔で頷いたわ。
離れても、本当に困った時は頼り合う。そして助け合う。そして愛し合う…あら、最後のは願望ね。せっかく、いい感じに書いてたのに、裸を想像しちゃったら、ふざけちゃったわ。真っ裸のテツヤ君が仁王立ちしている姿がパッと出てきたんだもの。ごちそうさまでした。

あんなに重い水車が水のチカラでゆっくりと回るように、アタシはテツヤ君を回す水になれたら、と思ったわ。その水が小川に流れ、もう二度と水車と交わる事が出来なくなっても、たった一度、水車が回るきっかけになれたなら、アタシはそれで満足よ。この先、沢山の水が幾度となく水車を押して、いつしか水車が回っているのが当たり前の光景になって、それっきりアタシを思い出さなくなっても、それでいいと思っているわ。テツヤ君には、いつまでも回っていて欲しいもの。

「さて、時間だ。じゃ、頑張って」アタシの口から出たとは思えないくらい、あっさりとした言葉が軽い口調でスラスラと出たわ。席を立つと、この足は勝手に店から遠ざかろうとしたの。本当は時間だってまだまだあるし、話したい事も沢山あるわ。それに…それに…。

明日からはもう会えないのに、声を聞く事も最後になるかもしれないのに、それでもアタシの足は止まらなかったわ。握手をする事も手を振る事さえもしないまま、体は黙ってテツヤ君から離れていったの。ちょっとだけ動かす事のできた左目で、最後に見る事ができたテツヤ君は、アタシの大好きな笑顔でも凛々しい真顔でもなかったわ。ただ黙って、頭を下げていたの。

こみ上げてくる想いは胸に秘めたまま、テツヤ君の横を通り過ぎたわ。

振り返らないと決めた通い慣れた道のりで、手に持ったコーヒーを口に含んだわ。今日だけ砂糖を入れたのに、寂しい気持ちに負けたくなかったのに、今までで一番苦い味がしたの。季節はずれでも桜が咲けば少しは気持ちも紛れるのにね。

何気なく寄ったあの店にテツヤ君が居てくれて良かったわ。
何気なく蛇口をひねったら、思っていた以上に沢山の水が出て、アタシは回り出す事ができたの。
背筋の伸びた後ろ姿も、整えられた黒髪も、少し汚れた革靴も。
テツヤ君の面影は、アタシを少し寂しくして、すごく元気にしてくれるわ。

この先ずっと、二台の水車が、くるくると回り続けますように…。

飲み干したコーヒーの紙カップの底に、溶けないままの砂糖が溜まっていたわ。
苦いわけよね。
苦ければ苦いほど、最後に砂糖は残っているものよ。
あんなに綺麗な桜だって、散る姿が一番美しいし。


がんばってね、テツヤ君。

二度と書けないと思うわ。
こんなに恋に不器用になる事なんて、きっとこの先は無いもの。でも、人生が長いものであるならば、あと1回くらいは、こういう切ない気持ちに満たされたいわね。
老いらくの恋に目覚める日が来るまで封印よ。

いつか恋愛を語る日が来る時は、またブログで詳細を報告したいと思っているわ。
楽しみに待っていてね。
「恋するオバア様」

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サーさんに洋服を何着も頂いちゃったの。
ありがとう、の数億倍も申し訳ない、って気持ちで一杯だわ。この年で、人に洋服を買って頂くなんて、皆無に等しいでしょ。本当に図々しいわよね。なんか本当に、謝罪したいくらいだわ。罪ならアタシ、償うから。
ジロウの分まで頂いちゃったんだけど、家に帰って洋服を見ていたら、全部欲しくなっちゃって、あげたくないの。
「お洋服を頂いちゃったから、週末に渡すね」
その言葉を、どうにかして忘れてくれないかしら?
頭を強く打った場合、一時的な記憶がなくなる事もあるそうよ。
めったに転んだりしない人だもの…。転ばせるしかないようね。

2006年11月3日の記事よ。  恋するお引越し

今週でこのマンションともお別れよ。嬉しいわね。でもその何倍もアタシの気持ちを占める感情があるの。非常に面倒くさい。
本当にアタシ、嫌いなの。引っ越し作業と手続き全般。段ボールに何かを詰める時点で嫌気がさすの。これが見つかっちゃいけないバラバラ死体とか、金銀財宝の山だったら、気合を入れて詰めるわよ。でもね、雑貨とか食器とか、どうでもいい私物でしょ。しかも数分後に段ボールから、また出すのよ。たった数分の私物の移動のために、こんなに苦痛を味わうなんて屈辱的だわ。

「ハイグレードな新築物件なら他に条件なし。」

引っ越しするに当たっての条件をジロウに聞かれて、そう一言だけ伝えたわ。内見どころか図面すら見る気がしないの。アタシは昔から図面を見ると無性にイライラする変わった傾向があるのよね。ああいう、細かい線の集合体っていう見栄えが嫌いみたい。

建築設計士だったジロウは図面を見るのが大好きなのよね。しかもアタシは数週間前から仕事は忙しいし、楽しみにしているサッカーの試合もあるし、引っ越しなんてどうでもいいのよ。できれば何もしないまま、「明日から、こちらのマンションをご利用してください」って、物も洋服も同じ場所に配置しておいて欲しいわ。ジロウは、マンションの事に詳しいし、こだわりも沢山あるみたいだし、アタシと違って何軒も不動産屋を見て決めるの。

2週間かけて、ジロウが物件を2つに絞ってアタシに提示したわ。恵比寿の物件と目黒の物件、どちらがいいか。両方ともハイグレードな新築物件だって言うから、アタシは即答したのね。

「どっちでもいいから決まったら教えて」

図面も見なければ話も聞かないアタシの態度にジロウは、静かに怒ったわ。沈黙のまま顔だけ仏頂面になったの。何よ、ヒヨコみたいな顔して。手柄を称えて欲しいのは分かるわよ。あなた1人で目黒や恵比寿を歩き回ったんですもの。苦労したと思うわ。でもね、アタシは最初に全権を託すと伝えたでしょ。引き受けたのなら、全てが決定してから結果だけを報告して。それが出来ないなら引っ越しの話は却下よ。

アタシが住む家くらい、あなたが決めなさい。

家賃がいくらとか、駅から徒歩何分だとか、職場から何駅だとか、街の様子とか、一切気にしないわ。条件は言ったわよね。それさえクリアしていれば、ジロウが選んだ物件よ。アタシは絶対、気に入るから。ジロウは悩みに悩んで目黒の物件を選んだわ。

アタシは、報告を受けて、初めてジロウを労い、感謝の言葉を伝えたの。図面も見たし、内見の様子や家賃、街の様子とか、一通りジロウの持っている全ての情報を教えてもらったわ。本当にいい仕事をしたわね。あとは引っ越し業者の手続きとアタシの洋服の分別を頼むわ。似合う洋服だけ取っておいてくれればいいからよろしくね。アタシはダメよ、サッカーもあるし、歯医者や整体や美容室や、とにかく週末は予約、予約で動いているの。

「おっ、俺んちの近くだよ。チャリなら10分くらい」
テツヤ君が笑顔で言ったの。最寄り駅こそ違うけど、平行して走る2本の電車のちょうど中間地点にアタシ達の新居もテツヤ君が一人で暮らすマンションもあるの。嬉しい反面、嫌な予感もするわ。ジロウとテツヤ君は顔見知りなのよね…。

6月のある日。アタシは風邪で寝込んでいたわ。外に出かける事もできなくて、部屋で高熱にうなだれながら、ひたすらジロウの帰りを待っていたの。ジロウは当時も仕事が忙しくて終電で帰ってくる事が毎度だったわ。でも、その日は早めに帰宅してくれたのね。

しかも手にはテツヤ君の働くカフェの袋を持っていたの。
ジロウは遠くから、働くテツヤ君を見た事が何度があって、一方的に、顔は認識しているの。
カフェに入って、テーブルを拭いているテツヤ君に話しかけたらしいわ。アタシの会社の先輩っていう設定でね。アタシが何日も寝込んでいる事を説明して「よくここの食べ物を買っているっ聞いたんですけど、俺、今から仕事の資料を届けがてら、お見舞いに行くんで、3品くらい見積もってくれますか?」って。

テツヤ君はアタシの好きな食べ物をよく把握していたわ。でもアタシは決まった2品しか食べなかったから、もう1品に困っていたらしいの。ジロウは、すかさず、「じゃあ、店員さんの好きな食べ物を入れて下さい」って言ったらしいの。アタシは、それでテツヤ君がチョコレート好きの男性だって知ったのよ。味覚も考えも甘い男なのね。可愛いわ。

アタシは『早く良くなって、またお店に来て下さい』というテツヤ君からのメッセージと『俺のオススメです』というテツヤ君セレクトのチョコレートのパンで元気になったわ。ちなみにアタシはまだ、その当時、テツヤ君に苗字だけしか伝えていなかったんだけど、ジロウが下の名前を連呼してくれたおかげで、フルネームで覚えてもらえたわ。

アタシの喜ぶ顔が見たいから。アタシの元気な姿が見たいから。
ジロウは、そこまで出来る人なの。

普通は出向かないわよね、テツヤ君の所に。わざわざアタシが大好きだと知っているテツヤ君に話しかけて、わざわざテツヤ君に選ばせて、わざわざテツヤ君からメッセージまで頂いてきて。プライドがないのだろうか、って思う人もいると思うわ。でもね、それこそがジロウの半端ないプライドだと思うわ。

中途半端なプライドは、時に恋も仕事も人生も惨めなだけ惨めにするわ。
間違っていない事には頭を下げない、プライドがあるから譲らない。そんな低くて小さなプライドが、事をややこしくしたり、周囲や自分自身に不利益をもたらすの。

アタシは正真正銘のプライドを持つ人こそ頭も下げるし、情けないと思う事も出来ると思うわ。

それから月に一度くらい、ジロウもテツヤ君のお店に行くようになったわ。
テツヤ君も、チョコンと頭を下げるらしいし、お互い顔だけは知っている間柄になったの。

だからこそ、アタシはテツヤ君んちと至近距離になった事が何となく嫌なの。
利用するツタヤは同じ店舗になるみたい。ジロウの一番の友達は間違いなくツタヤ。いずれテツヤ君とツタヤで会う日が来るわね。ちなみにテツヤ君も、ツタヤが大好きらしいわ。2人ともどうせなら、アタシをレンタルしなさいよね。クーポンも延滞もOKよ。

アタシは自分の仕事も人生も全て誇りに思っているの。嫌になっちゃう時も多いけどね。でもアタシの人生において、アタシが一番誇りに思っていいのは、ジロウという存在だわ。
趣味はヒゲ抜き、特技は床掃除、友達はツタヤ。そんな退屈な人だけど、

アタシを喜ばせるために、テツヤ君にも頭を下げるし、2週間もたった一人で物件を探すわ。
アレルギーのアタシを気遣って暇さえあれば掃除をするし、アタシが「好きだ」と言った食べ物は「飽きた」と言うまで買ってくるわ。

ジロウが選んだ目黒の物件は庭付きの綺麗なマンションだったの。
また夏が来たら、庭で花火ができるね。
優しく微笑むジロウの横顔がアタシの人生をさらに誇り高くするんだと思ったわ。

頭を下げ、時には譲り、情けなく、カッコ悪く、少し惨めで、そして何事も一途に。

来年の夏が来るまで、一緒に居ればね。
アタシが真顔で答えると、ジロウは軽くアタシの背中を叩いたわ。
庭から秋風がすーっと入ってきて、アタシの心の中の小さなかざぐるまが、クルクルと回ったような気がしたわ。

これからもよろしくね、ジロウ。

こんなに優しい人なのに、アタシは今さっきまで、洋服を渡すべきかを悩むどころか、記憶を抹消させるために、転ばせようと企てていたの
恐ろしいわよね。振り返れて、本当に良かったわ。
完全なるエゴで、落ちる所まで落ちてしまう所だったもの。

靴下をあげましょう。
3足も頂いたから、ピンクを渡すわ。

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