Koji Murataの映画メモ

映画に関するコメントのみお受けします。

邦画 2008年

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8月16日

 これから神戸の実家に帰るのですが、その前にDVDで清水宏監督『簪』(松竹、1941年)を。原作は井伏鱒二。
 山間の温泉宿で、納村(笠智衆)という復員軍人が、温泉の中に落ちていた簪で足に軽い怪我をする。簪を落とした恵美という女(田中絹代)は恐縮して、東京から詫びにやって来る。この二人をはじめ、孫二人を連れた老人、若夫婦(日守新一ら)、気難しい学者先生(斉藤達雄)ら長期逗留者は、徐々に仲良くなっていく。子供たちと恵美は、納村の歩行訓練を応援し見守っている。東京から友人(川崎弘子)が迎えに来ても、恵美には、東京に帰りたくない事情があるようだ。
 やがて、団体客が宿に押し寄せ、学者先生、若夫婦、そして老人と孫たちも帰ってしまう。納村もかなり歩行できるようになり、東京に戻る。恵美一人が温泉宿に残るのだった。
 謎を抱えた女、子供たち、按摩さん、温泉宿と、『按摩と女』と同じ設定である。
 時代が時代だけに、逗留客たちは宿の食事に不満をこぼしている。
 主役の田中と清水監督は一時結婚していた。
 日本版『グランドホテル』というところだが、清水作品らしく、納村の歩行訓練ぐらいしかドラマらしいドラマはない。
 宿の主に坂本武。
 温泉町の風景が美しい。

8月15日

 今日は終戦記念日。北京ではオリンピックが戦われ、グルジアでは本物の戦争が戦われているのですから、皮肉なのもです。グルジアの状況は停戦とはほど遠いもののようです。

 さて、昨夜は東京のいつもんのホテルで、ちばてつや原作『あしたのジョー』(日活、1970年)。長谷部安春監督の実写版です。
 不良少年の矢吹丈(石原正次)はふとした機会に、元ボクサーの丹下段平(辰巳柳太郎)と出会う。丹下は丈の才能に気づき、プロのボクサーに育てようとする。
 だが、丈は喧嘩などをくり返し、少年院に送られる。ここで、彼は生涯のライバル・力石(亀石征一郎)に出会うのだった。力石も元プロボクサーである。
 丹下からの「あしたへの挑戦」という葉書に導かれながら、丈は少年院でボクシングの練習を積み、出所後、丹下とともに苦労してプロのライセンスを獲得する。他方、力石も丈と戦うため無理な減量を重ねて、バンタム級となる。
 ついに宿命の対決。激戦の末、丈は力石に敗れる。だが、その直後、力石は命を落とすのだった。
 白木ジム会長に見明凡太郎、日本ボクシング協会会長に武藤英司など、懐かしい顔も。他に小松政夫ら。
 時々、「ガーン」とか「シーン」とか、漫画と同じような擬音語が画面に登場する。遊び心が効いている。というか、やはり70年代はアナーキーだなあという感じ。
 石橋は小柄だが、元気一杯で若々しい。最大の難点は、主題歌を歌う彼が音痴そのものということ。
 だが、最も印象的なのはやはり辰巳で、川島雄三監督『わが町』での「ベンゲットのタァやん」という役どころを髣髴させる。

8月14日

 フェンシングの太田、銀メダルですね。
 たった今、京都文化博物館で清水宏監督・脚本・製作の『蜂の巣の子供たち』(東宝、1948年)を観賞。
 敗戦直後、下関の駅にたどり着いた復員兵の島村(島村俊作)は行くあてもない。そんな彼が戦災孤児たちに出会う。子供たちは“叔父貴”と呼ぶ大人に搾取され働かされていたが、島村と一緒に働く決意をし、旅に出る。広島や四国を経て、やがて、島村の出身である感化院「みかえりの塔」に向かう。
 この間、孤児の一人が病死する。この子は引き上げの途中で海で母親を亡くし、いつも海を眺めたがっていた。病気になったこの子に海を見せてやろうと、仲間の子供が背負って山に登ったところ、背中で息絶えていたのだ。
 また、島村と孤児らは下関で出合った親切なお姉さんと再会、彼女は売春婦に身を落とす寸前だった。
 こうして、島村とお姉さん、そして子供たちは、元気で「みかえりの塔」にたどりつくのだった。
 「蜂の巣 蜂の子 ぶんぶんぶん」という主題歌が、あどけなく元気いい。
 出演者はみな素人で、島村は元熱海の駅員、孤児たちも清水監督が面倒をみていた子供たちだとか。
 実際、映画の冒頭に、この子供たちに見覚えはありませんかという案内が出てくる。
 素人がそのまま演技して、なお感動的である。この監督らしく中四国の風景も美しい。いわゆるロード・ムービーです。

8月12日その2

 今夜は自宅でDVD、成瀬巳喜男監督『銀座化粧』(東宝、1951年)。
 一人息子を育てるため銀座のバー「ベラミイ」で働く中年女給(田中絹代)が主人公。彼女のもとには、昔世話になったが今や零落した男(三島雅夫)が時々金を借りに来る。他方、バーの元同僚の一人(花井蘭子)は大坂の金持ちの愛人として、安定した生活を送っている。
 主人公は、この元同僚に頼まれて、元同僚が心を寄せる田舎の金持ちの若者(堀雄二)の東京見物に付き合うが、主人公までこの純真な若者に惹かれてしまう。だが、若者は主人公の妹分の女給(香川京子)と意気投合し、結婚の約束をする。
 結局、主人公は子育てこそ生きがいと悟り、また銀座に向かっていく。
 他に、下宿屋の主人に柳栄二郎、主人公を妾にしようとする実業家に東野英治郎、主人公に惚れている道楽息子に田中春男など、新派ベテラン陣のオンパレード。
 のちの『女が階段を上る時』をずっとアットホームにした感じの作品。田中絹代と堀雄二のコンビは、溝口監督『お遊さま』をも連想させる。
 東野演じる好色実業家は5000円を手付金にして、主人公を愛人にしようと、倉庫の中で迫る。「ベラミイ」のマダムは50万円の借金で店を手放しそうになる。「ベラミイ」とか「クレオパトラ」とか、いかにも昔風の店名がいい。
 戦後すぐの銀座の風物が描かれており、バーに子供が花を売りに来たり、バーで子供が歌を歌っているのには驚く。
 田中春男が長唄「越後獅子」を途方もなく下手に歌うシーンは、秀逸。

8月12日その1

 今日は大坂・九条のシネ・ヌーヴォに足を運んだ。目下市川崑監督特集をやっている。市川は幼少期を九条で過ごした由。
 今日観たのは、『プーサン』(東宝、1953年)。横山泰三の漫画が原作で、横山や音楽の黛敏郎も作中に登場するらしい(確認できなかった――黛はカン子の恋人役、横山は警官役らしい)。
 主人公のプーサン(伊藤雄之助)は、大学は出ているものの、一向にうだつの上がらない予備校の数学教師で、何気なくデモに参加したため逮捕され、予備校もクビになってしまう。下宿先の娘で銀行員のカン子(越路吹雪)に惚れているが、まったく相手にされない。ようやく臨時雇いの再就職が決まり、プーサンは早朝の街をとぼとぼと出社していくのだった。
 下宿先の夫妻に藤原鎌足と三好栄子。この三好演じる夫人が強烈。予備校生に小泉博。懐かしい!往年の『クイズ・グランプリ』の司会です。予備校生の叔父で元戦犯の政治家に菅井一郎。近所の交番の警官役に小林桂樹、若い医者に木村功、看護婦に八千草薫、結核を病む東大生に平田昭彦(平田は実際に東大卒)、予備校の院長に加東大介、他にトニー谷、杉葉子など、懐かしい顔ぶれのオンパレード。
 大卒でもまともな職につけず、結核病みの東大生がデパートの店員になろうとし、病院をクビになった医者が保安隊に再就職する。下宿先の主人は、中学校卒業なので税務署で出世できず、その妻は娘だけは大学出と結婚させようとしている。学歴が一つのテーマである。
 もう一つのテーマは戦争で、プーサンも従軍経験があり、彼の再就職先も機関銃の弾を作るミシン会社である。元戦犯も国会議員になってしまうのだ。何しろ、朝鮮戦争中の作品である。
 ラストでお堀端をとぼとぼ歩くプーサンの後姿は、チャップリンを彷彿させた。
 市川監督の遊び心とブラック・ユーモア、伊藤の怪演がマッチした佳作である。

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